第5話 それをおかしなことだとは
「俺、服、脱ぐから」
優一が言い出したことは、かなり異様なことだったのに、槙はそのとき、それをおかしなことだとは、ちっとも思わなかった。
頭からタオルをかぶっているから、槙からは、優一の顔が見えない。
その状態で、向かいあった彼は、ひとつひとつ、シャツのボタンを外していく。
白くてきれいな指さき、爪のかたちまで、このひとは、とてもかわいい。
優一の指は、器用に動いていくけれど、びっしょり濡れた布地のボタンをはずすのは難しいらしくて、やたらと時間がかかる。
それでも優一は、根気よく、ひとつひとつ順番にはずしていく。
胸元がひらかれていくシャツ。
こくりと唾をのみこんでしまって、その音を、すぐ近くにいる優一に聞かれはしなかったと心配になったとき、とうとう、すべてのボタンがはずれた。
そこから彼は、ぐっと肩と腕を動かして、シャツの袖を腕から引き抜いていく。
優一はその一枚のシャツを着ていただけで、すぐに上半身があらわになった。
そうして、頭にかけられていた大きなバスタオルを取り去り、脱衣室の床の上に、シャツとともに落とした。
優一の白い裸が、すぐ目の前にあった。
ほんとうだったら、なんてことのない光景のはず。単に、すこし年上の同性が上半身を脱いだだけ、なのだから。
けれどもそのとき、槙が覚えた感情で、一番ちかいのは「驚き」だった。
胸の中を、目もくらむような鋭いひかりで刺されたみたいだった。深く、心臓まで到達するくらいにとても深く。
見とれた。その裸に。
日にやけていない、白くてなめらかな肌。鎖骨と喉仏のありかを教える淡い影。
二つの肩の骨が大きくて、華奢に見えても、優一が持つ性が男性であることを告げている。そのくせ、ふくらみを持たない胸の上の、ふたつの淡い色の箇所が、やけになまなましい。
見つめていたら、すごく、へんな気持ちになった。
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