第十六回参加作品
それはどこか父に似て
玄関から外に出ると、太陽が徐々に登り始めているところだった。
この時期の朝晩はとても冷える。最低気温は一桁台になることも珍しくない。なのに、私は薄手の動きやすい格好をしていた。
こんな早起きなんて珍しいね、と母親は笑っていたけれど、これは私がやらなければならない。いつも父さんがやってくれていた夏タイヤから冬タイヤへの交換だ。カレンダーに丸を付けているのを散々見ていたのだ。
車屋さんに頼むという手もある。ただ、頼んでしまったら、父さんとの繋がりが薄まってしまう気がして、不安に襲われるのだ。
いつも父さんは黙々とタイヤ交換をしていた。その様子を眺めるだけだったので、今更ながら教えてもらえばよかったと後悔した。
車庫のシャッターを開け、積み上がっている冬タイヤのカバーを外す。約半年ぶりだというのに埃ひとつ無いのは父さんの几帳面さが伺えた。
タイヤの重さは大体十五キロ前後と聞いたことがある。非力な私では持てないので、まずは一つ転がしながら、外に出る。
空は淡い青が広がり、その淡さに切なさを覚えつつ、同時に優しさも感じていた。
それはどことなく父さんのようで、胸がじんわりと温かくなった。
END
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