運命
「綺麗な花火……」
仕事が終わり自宅までの道のりを歩いていて、今日が花火大会だと気づいた。呟いた言葉は思った以上に感情がのっていなくて、自分でもびっくりした。
今の仕事が満足してないかと言われれば、特段そうでもなく、今の生活に満足してないかと言われれば、特別そうでもない。ただ、産まれた時からそうなのだけれど、なんとなく違和感があった。言葉にするのは難しいけど、違和感としか言いようがない。強いて言えば、満たされないなにか。何をしても満たされないなにか。それは僕の人生にずっといて大人になった今でも確かにそこにいる。
ザザとノイズが突然かかった。そして、同時に訪れる頭痛。いつもの偏頭痛なので、無視していると、真っ黒な服を着た女性が声をかけてきた。
「あの……。ナンパとかじゃないんですけど、どこかであったことありませんか……?」
ノイズと頭痛は酷さを増していくので、正直女性のことはかなり鬱陶しかった。無視するのもと思ったが、自分のことでかなり精一杯だっため、無視をして、通り過ぎようとすると、ノイズが大きくなる。そして、その場に座り込んでそのまま意識を失った。
※※※※※※※※※※※※※※※※
自分の部屋は暗かった。この日は花火大会がある、とラジオで言っていたけど、僕はどうも見に行こうという気にはなれなかった。余命一ヶ月と宣告されて今日がその一ヶ月目になるからだ。
その前まではいつ死んでも良いと思っていたけど、いざ宣告されると正直どうして良いのか分からない。
「綺麗な花火……」
ふと女性の声が聞こえてきた。その声の主は最近になって現われ、ここ一ヶ月ほどついてきていた。だが、だれもこの女性を見えてないようで、友人に聞いてもクエスチョンマークが帰ってくるだけだった。意を決して尋ねてみた。
「というか、お姉さんはいつまでいるんですか?」
「えっえ、私の事見えてるの……?」
マンガやアニメなどで見られるような慌てふためくが正しい感じで女性は慌てふためいていた。
「お姉さん、死神とかそういう
現実にそんなわけないだろうと思ったけれど、言うだけ言ってみようと思ったら、予想外の返事が返ってきた。
「そうです! 死神です! あなたの命を頂きます!」
女性は開き直ったように答えた。ああ、よかった。これで終われるんだ。少しほっとした。
「どうぞ」
女性の言葉にやや被せるように答え、そして、目を閉じる。最後にお礼を言わなければ。
「あ、最後に一言だけ。ストーカーみたいなことされてますけど、あなたのこと結構好きでしたよ」
グサッとなにかが突き刺さる感触がした。眼を開けると女性が泣いていた。それが唯一の後悔だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
夢を見ていた気がした。死神の女性を泣かせてしまった夢。
夢の中の僕はきっと後悔していたのだ。泣かせてしまったという事実に。
顔を上げると、さっき声をかけてくれた女性が心配そうにこちらをみていた。死神の女性に瓜二つ。
これは運命なのかと僕は思った。声をかけてくれた女性を笑顔にするのが僕の運命。だとすれば……。
大丈夫です、と一つ声をかけて、僕は立ち上がって、声をかける。
「ナンパとかじゃないんですけど、花火を見に行きませんか?」
その後ろでドーンど花火が打ち上がる音がする。女性はまた泣いていた。でも、思いきり笑顔だったので、僕もまた笑顔になった。
END
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