秘密

「綺麗な花火……」

 姿が見えないはずだが、思わず手を抑えた。しばらく密着していた男の部屋は暗く花火の明かりだけが差し込んでいた。

「というか、お姉さんはいつまでいるんですか?」

 男はそう私に問いかけた。

「えっえ、私の事見えてるの……?」

 信じられなかった。そもそも一般人に姿が見えないので、まさか見えているとは……。

「お姉さん、死神とかそういうたぐいのやつでしょ?」

 その言葉にまた慌てた。

「なんか全身真っ黒な格好だし、なんかでかい鎌みたいなやつ持ってるし……」

 自分が悪かった。いや、これを制服だと言って押し付けてきたあの鬼畜メガネ上司が悪い。まあ、バレてるなら仕方ない。開き直って告げる。

「そうです!  死神です!  あなたの命を頂きます!」

「どうぞ」

 やや食い気味にそしてなんの躊躇いもなく男は目を閉じた。気になる点も結構あるが、その気なら私も仕事がやりやすい。鎌を構え大きく男に振りかぶる。

「あ、最後に一言だけ。ストーカーみたいなことされてますけど、あなたのこと結構好きでしたよ」

 驚いて力を弱めても鎌は遠心力で男に命中し、そして、男は消えた。

 一人残された部屋はとても静かで、花火はもう差し込んでくれなかった。

END

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