牛乳
「ありがとうございましたー!」
コンビニの男性店員さんの声を背に受け、自動ドア、そして、風除室のドアを開ける。
手には二〇〇ミリリットルの牛乳。ストローさして飲みながらコンビニの壁に寄りかかる。深夜〇:〇〇が既に過ぎていたが、仕事が繁忙期の為、この時間に家に帰っていた。
田舎ゆえ街灯や家が少なく家に帰る道も通勤路とはいえこの時間に帰るのは怖かった。
牛乳を一気に飲み干すと、溜息を吐く。その直後、スマホがポンとメッセージアプリの通知を告げた。
『懐かしい写真みつけたんだ』
それは小学校の同級生で、今はほとんど連絡が取ることがない幼なじみからだった。幼なじみ三人と小学校の帰り道に撮った写真。僕がカメラを落としてしまって偶然撮れたものだった。
グループチャットに貼られたそれの【既読】の隣に表示されている数が次々と増えていく。何故かそれに返事することがためらわれていると、ポポンとメッセージが次から次へとやってくる音がした。鬱陶しくなって来ているとひとつのメッセージがみえた。
『今度結婚するんだ』
驚いてスマホを落としそうになった。それは写真の中の一人で僕の初恋の人が放った一言。牛乳が嫌いでいつも僕が牛乳を貰っていた。
突然吐き気を催し、吐いた。店員さんには悪いとは思ったけれど、止められなかった。そして、気づくと嗚咽も一緒に漏れていた。
「あのー大丈夫ですか?」
女性の声が降ってきた。
「ああ、すみません。すみません」
言葉も上手く発せられない中謝罪だけでもと下を向いたまま言う。
「いえ、大丈夫ですよ」
彼女がそう言うとしゃがみこんでテキパキと僕の吐瀉物を片付け始めていた。ますます申し訳なくなって、何も話せなくなっていると「あれ」と声が聞こえた。
その声に引っ張られるように声を上げると、それはコンビニの制服を着た女性だった。
肩ぐらいのやや茶色がかった髪、紺色のジーンズが青い制服によく似合っている気がした。しかしどこかで見た気がした。
「ゆうすけ……?」
僕の名前だ。そう彼女が僕の初恋の人で、今度結婚すると告白したその人。
僕は混乱の中、やあ、とだけ呟いた。
それから僕と彼女の物語が始まるような気がした――――。
END
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