妹が死んだ。

「私が死んだらさ、骨を気球からばらまいて欲しいんだ」

 それは振り返ると遺言だったのかと思う。その時は寝言は寝て言え、と冷たく言い放ったのだが、まさかこんなことになると思ってもいなかった。

 彼女が望むことは兄としてできる限りしてあげたいと思っていた。だから、僕は気球に乗っていた。

 気球は思いのほか安定していたが、風がナイフのように鋭く冷たい。

 言われたポイントに到着した僕は妹の遺灰をそっと風に乗せる。それは舞い上がりそしてゆっくりと落ちていく。ただ機械的にその行為を繰り返す。

 そろそろ終わりかと思った途端、今まで感じたことの無い悲しみが押し寄せ、そして、後悔へと変わった。情けない兄ですまない、たった一人の家族になにもしてやれずにすまない。

 ただ打ちひしがれていると風が一瞬やんだ。凪状態だ。そう妹の名前は凪(なぎ)。

「兄さんは泣き虫なんだから」

 そんな言葉が聞こえてきそうだった。そして、また風が吹いた。

 今回の風はやけに優しく暖かく感じた。

 END

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