境界
ふと目が覚めた。
クルマの運転席をベット代わりにしていたせいか、身体の節々が痛い。助手席には小学四年生だという少年が寝息をたてていた。
起こさないように、クルマを出ると、夜の冷たさが身体にまとわりつく。街灯もなく、闇が広がっていた。
それもそのはず。ここは山の中。廃線となった電車の線路の脇。棄てられたワゴン車の中で休んでいたのだ。
車のトランクルームにはここまで運んできたトランクケースがある。そこには俺が殺してしまった男の死体。それを埋めるためにこの廃線路を登ってきたのだ。
途中で、父親を探しているという少年と出会った時には心臓が早鐘を打った。苗字が違うし、そもそも男に子どもがいたことや結婚したことは聞いたことがなかった。
そもそも殺してしまったキッカケは絵だった。線路の脇に咲く赤い花、遠くに見えるビル群達、それらを内包するディストピアを思わせる世界観。その絵は俺の心を撃ち抜いた。だが、元々知り合いだったあの男が出てきてから色んなことを揉めに揉めて、弾みで殺してしまった。だが後悔はしていない。
あの時を思い出すと、心臓の鼓動が早くなる。気持ちを落ち着かせるためにタバコに火をつけ、紫煙をくゆらせる。思考がクリアになっていくのを感じた。少年が気づく前にトランクケースの死体を何とか処理をしなければならない。それがまずは第一にしなければならないことだ。急がねば。タバコを投げ捨て足で消す。
突然背中に痛みが走った。
少しづつなにかが流れていくのを感じる。さっきまで寝ていた少年が俺のそばに居た。その手にはナイフ。それが俺が背中に刺さっていた。ナイフは既に血まみれ。それを意識した途端、力が抜けていく。
「パパの仇」
そんな少年の声が聞こえた気がした。
身体に力が入らない。地面に崩れ落ちる。本来ならば痛みを感じるはずが背中の痛みが強烈過ぎてそこまで感じなかった。意識が保てない。
意識が朦朧としながらも、顔を上げると線路の脇に赤い花。そして、遠くにビル群たちが見えた。
ああ、あの絵の世界だ――――。
手を伸ばす。その光景に届かない。徐々に痛みが増して――――。
END
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