喋るペンギンと僕の憂鬱

『ごめんなさい』

 彼女の言葉がフラッシュバックする。意を決して高校の先輩にアタックしたのだけれど見事に玉砕をした。僕はため息をつく。

 ベンチからペンギンたちが泳ぐのを見つめる。ここは水族館のペンギンコーナーになる。ベンチがあちこちにあり、ゆっくりしながら、ペンギンを眺めることが出来るのだ。

 水槽の手前の説明によるとこのペンギンはコウテイペンギンという種類になるらしく、心無しか威厳があるようにみえる。

「ペンギンっていいよな」

 愚痴をこぼすとどこからか低音の渋い声が聞こえてきた。

「ペンギンの世界も大変やで」

「!?」

 周りを見渡すが、人っ子一人いない。

「そこの少年、こっちだ。こっち」

 そう呼ばれて声をした方を向くと、一羽のペンギンがこちらを見つめていた。導かれるようにそのペンギンに近づくと、それは羽をパタパタと動かしハッハッハと笑った。

「ペンギンがしゃべってるー!?」

「少年、声が大きいぞ!!」

 ハッと思わず口を押さえる。

「少年、ちょっと我の話を聞いてくれるか?」

 僕はこくこくと頷く。今すぐにでも飼育員さんやSNSなどで伝えたいというのもあったと思うけど、きっと信じて貰えないだろうという気持ちがあった。今は話を聞いておくのがベストな選択肢かと思った。

「ペンギンの世界もな、大変なんだよ。この前なんかな、招き猫をいれてくるやつがいてな。まみちゃんが頑張って寄せてくれたんだよ。あ、まみちゃんというのは飼育員さんのおねえさんな。まみちゃんすごい頑張り屋さんでな」

 一気に喋り倒すと、また羽を動かしかながらまた言う。

「我の世界に福をもたらそうとしてくれたのかもしれないけど、少し考えて欲しいんだよな。福といえば、中国の方だと福を逆さして――――」

 とまたずっと喋っている。

 この調子で喋り倒して一時間が既に経過しようとしていた。話に飽きてきた僕は欠伸を噛み殺していると

「――――でな、結局我が何を言いたいかと言うと」とまとめにかかっていた。

「もっと我を愛でるが良い」

「なんで!?」

 思わず突っ込んでしまったが、これで僕と彼の出会いの始まりだった。これを機に色々なことに巻き込まれていくのだが、それはまた別のお話。

 そして、それらを体験して僕の思ったことを最後に記載しておく。

 勘弁してくれ――――。

 END

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