6秒のオルゴール

妻の葬式は現実感が無さすぎて無感情のまま終わったような気がした。

家に帰るともうダメだった。電気もつけずそのままリビングのソファに倒れ込む。

リビングはゴミ袋で溢れキッチンやバスルームも物置きと化し足の踏み場のない状態だった。


「キミがいないとやっぱり俺はダメだよ」


そっと呟いた言葉は暗闇に溶けていく。

自嘲気味になっているとガタっと大きな音がした。なにか棚からものが落ちたらしい。よろよろと立ち上がりゴミ袋を蹴飛ばしながら音のした方へ行くと、木の箱が落ちていた。

どこかで見たような気がするのだが、思い出せない。その箱を手に取り、葢を開けると、音楽が流れた。オルゴールだったのだ。6秒ほどのとても短い音楽だ。駅のチャイムにも着信音にもファンシーな曲にも聞こえる不思議な音楽。

そういえば『私がいないとすぐにダメになるんだから』と笑いながらこのーーーー恐らく手作りのオルゴールをくれたのが妻だったことを思い出す。なんで忘れていたんだろう。

不思議だと首を傾げていると、今になって涙が溢れ出した。自分でも分からない。分からないのだが、このオルゴールと音楽でようやく現実を迎え表情を取り戻せたような気がした。

END

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