第3話 戦闘開始


 魔導士のマジック・ミサイルが味方に直撃するるような、へっぽこパーティがここまでたどり着いたってのに、どうして、名立たるパーティが全滅しているんだろうか?

 ナッツが問うより先に、エルシャが口を開いた。

 「それだけのパーティが、全滅したなんて信じられないわね」

 エルシャが続ける。


 「ヴァナスの隠密機動は、二年前、あんたたち魔族の大幹部、グレド・ベラスを暗殺したパーティよ」

 「うむ。グレドがやられたときは驚いたな」

 ジェーマインは素直に認めた。


 「絶海衆は、全員が古代神と魔術契約を結んだ魔法僧兵。

 リベック一家は、最凶最悪の墓荒らしだけど、攻略した迷宮は、五大陸十七にもなる実力があるわ」

 エルシャが続ける。

 「光翼戦士団のアイクは、師の剣聖ボクデンを十代で超えたと噂される剣士よ。

ボクデン・ツカハラは、あんた自身と戦って、引き分けたことがあるわよね」

 「よく知っているな、女。

 貴様、見かけ通りの歳ではあるまい」

 「うっさい!」


 ほめたつもりが急に怒鳴られ、ジェーマインがショックを受けたような顔になった。

 ……。

 「……えっと、どうして実力あるパーティが、全滅したのかってところから」

 気まずい沈黙が流れ、ナッツはジェーマインをうながす。


 ジェーマインは、これまでとは違い、少し乱暴に答えた。

 「魔王殿の内部が手薄になったとは言え、対策は講じておる。

 どんな職種であっても、マスタークラスが侵入すれば、防衛装置が反応し、侵入者を閉じ込め、分断するのだ。

 全員がハイマスターのパーティであっても、分個別に攻撃をすれば、たやすく討てる」


 ああ、なるほど。

 ナッツは納得した。


 ナッツたちのパーティは、マスターどころか、みんなレベル50にも届いていない。

 最もレベルの高いハンクでさえ、騎士レベル48で壁にぶつかっている。

 ジェーマインが魔王殿に張り巡らせた防衛網に、勇者アイクたち大魚が次々と引っかかる中、網の隙間を潜って、たまたま最上階までやってきてしまった小魚が、ナッツたちであったのだ。


 「お前たちは、どのような手段を使い、ここまでやってきたのだ?」

 ジェーマインが問う。

 まさか、マスタークラス未満が、魔王殿に潜入するとは、想像もしていないのだろう。

 正直に話せば、ジェーマインが大笑いをするのか、激怒するのか想像がつかなかった。


 「神の御加護」

 そう答えたのは、ハンクである。

 ジェーマインを挑発するのではなく、当然のように答えた。

 「運の良さ」や「たまたま偶然」というものが、神の加護に分類されるのなら、正解かも知れない。


 「聞きたいことがある」

 ハンクがさらに続けた。


 「トルガー公国の騎士団は?」

 ハンクの質問に、ジェーマインは少し機嫌を直したように見えた。

 「おお、その鎧の紋章は、トルガーのものだな。

 そうか、お前はトルガー騎士団の一員なのか」

 ジェーマインの機嫌がどんどん良くなる。


 「同郷の騎士たちの安否が気になるのだな。

 ヤツらは勇ましかった。

 味方を鼓舞するためであろうが、なんと、ハル・トルガー王子が先陣を切って突撃してきたのだ。

 城門突破は、トルガー騎士団無くては、成し得なかっただろう」

 ジェーマインは笑みを浮かべ、歌うように続けた。


 「ただ、代償は大きかったな。

 もはや一兵も生きてはいまい。

 やつらは全滅したんだよ」

 ジェーマインは薄い唇の両端を吊り上げ、残忍な笑みをみせた。


 「があああああ!」

 ハンクが、ジェーマインの笑みに斬りかかった。


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