第5話 コントラスト

「彩、おはよう!」


「おはよう」


 明季は軽音部に所属しており、週に数回あるかどうかの活動日には背中にギターケースを背負って学校に登校する。明季は高校に入学するまでは特に楽器に触れたことはなかったが、その独特な感性と手先の器用さで要領を上手く掴み、それなりに楽しく、そして目的を持って活動していた。


「最近は毎日活動があるのね」


「うん! 文化祭で俺達のバンドもステージ発表するから! 彩も絶対に観に来てね!」


「うん、分かった。楽しみにしてる」


 季節は秋。彩は紅く染まる木々で季節を感じることはなかったが、確かに肌を撫でる風にそれを感じていた。




「じゃあ今日はペアになった人の似顔絵を描けー。画材は何を使ってもいいぞー」


 彩と明季は向き合って、鉛筆を走らせる。


「おー、冬野。よく描けてるな。コントラストのつけ方が上手い。夏木も流石だな」


「ありがとうございます!」


 教師は満足そうに微笑むとまた机間巡視を再開した。


「私はもう終わり。ほら、あなたの顔よ」


「彩って絵、上手いんだなー。というか白黒の俺ってかなりイケメンじゃない⁉ 彩には俺がこんな男前に見えているってこと?」


「そうね。……あなたの色は他の人よりもはっきりしている。それは私にとってはどれほど……」


「ん? 最後の方、何て言った?」


「何も。それよりあなたはどれくらい進んだの?」


「ある程度は描き終わったけど、せっかくだから色を塗りたい。彩はじっと動かないで俺の方、見ててね」


「はいはい」




「そろそろ時間だー。描き終えた人は提出してくれー」


 生徒がぞろぞろとペアの絵を提出する。


「ん? 夏木、提出しないのか?」


「すみません、色を塗っていたんですけど、収拾がつかなくなって」


「どれどれ? ……確かにそうだな。夏木の感じ方と描き方は素晴らしいが、授業の課題としてはその絵は評価できない」


「はい、けどどうしても今は彩の色を塗っておきたくて」


「まぁ、いい。この時間で終わらなかった人は明日、提出してもらうからなー」


 明季は席に戻り、彩に微笑んだ。


「ごめん。放課後、すぐに終わらせるから付き合ってくれない?」


「先生に受け付けてもらえないなんて、どんな色で塗ったのよ」


「これはね……。ううん、秘密!」


「また秘密?」


「うん。俺も途中で訳分かんなくなっちゃったから」


 きっとその絵は見たことない色で溢れているのだろう。彩はいつの日か、明季の絵を見ることができる日が来るのかと考えたが、すぐに止めた。


 私には過ぎたものだ。色を求めることさえもう考えなくなった私は白と黒の二色で十分なのかもしれない。

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