第6話 モノクロ

彩にとってその日ほど世界のコントラストがはっきりした日はない。そしてそれが失われた日もなかった。




 文化祭当日、私と明季は時間を合わせて一緒に学校を回っていた。そこで感じるのは明季という人物の優しさだ。私と共に過ごす時間、明季は見て、感じた色を伝え続ける。それが私、いや、他の人にさえ伝わるものでなくとも。そんな明季をクラスメイト達は慕っている。私といる時に見せる笑顔を、私がいない所で見かけると胸が締め付けられる。その光景を見るたびにモノクロの世界に感謝する。やはり私には白と黒で十分なのだ。


 明季のバンドは多くの生徒を惹きつけた。明季の歌があんなに上手いなんて知らなかった。


「夏木君ってイケメンだよねー。性格も良いって聞くし、誰かと付き合っているのかな?」


「同じクラスの冬野さんと仲が良いとは聞いたけど、付き合っているとは聞かないなー」


「冬野さん? ああ、色が見えないって子?」


 そうだ。私は色が見えない。明季がどんな髪の色をしていて、明季がどんな服を着ているのかも分からない。


「私、夏木君に告白しようかな」


 明季はどんな人と付き合うのだろう。どんな人を好きになるのだろう。それはきっと私じゃない。私じゃいけない。その権利がない。




 この学校の文化祭のエンディングは花火だ。生徒はグラウンドに出て、それぞれの大切な人と空を見上げる。




「彩。俺は彩のことが好きなんだ。付き合って欲しい」




 轟音の間に聞こえる明季の声、白と黒に滲む花火。




 「……明季っ。ごめんなさい……っ。ごめんなさい……」




 これまでの時間を私は否定してしまった。明季との思い出を黒く塗りつぶした。




 もし私にパレットがあったなら。もしそのパレットに絵具があったなら。この涙で世界に色を塗れたのに。




「彩……」




 色とりどりに世界を見る明季でさえ、今の私は白黒に見えただろう。

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