3 終わる夏休み

3-1 終わる夏休み 1

 異世界に行っている間に一週間ほど経過してしまった。彼は高校生で、夏休み中であったため、誰も彼を心配する人はいなかった。しかし、それでもそろそろ夏休みも終わりだ。彼は長期休暇に入る前に、宿題を終わらせるタイプだ。それも、貰った当日から片付けるのだ。ちなみに、家では宿題をしていない。ほとんどの宿題を授業中に片付けているのは、誰にも言っていない。それでも、残っている物は、終業式の後に図書館で全て片付けた。それから、彼は一人行動が好きで、アルバイトで貯めた資金で、旅行に行った。彼は一人で自由気ままに旅をするのが好きだからだ。そして、旅行から帰ってきて、ゆっくりしようと思った矢先に、異世界に召喚されたのだ。そして、休むまもなく二学期の準備をすることになってしまった。妖精たちもつれ行きたい。


「まぁ、そもそも、友達なんていないしなぁ」


 だから、妖精たちと一日中喋ることもできる。彼は教師からは優等生であるため、保健室に行きたいと言えば、簡単に行ける。今までは、サボるという選択肢がなかったため、そういったことはしてこなかったが、彼女たちがいるならしてもいいだろう。と言うか、学校自体をサボってもいいだろう。


「だけどなぁ、ずるはいけないよなぁ」


 彼女たちに好かれているという自覚があり、彼も妖精たちのことが大好きだ。その彼女たちに顔向けできないことはしたくはない。結局は、学校に行かなくてはいけないと思い、二学期の準備をすることにした。


「これは、何をしてる?」


 ミストが彼の肩に乗りながら、耳元で囁くような小さな声でそう訊いた。


「ああ、これは学校に行くための準備をしてるんだよ」


「ガッコウ?」


 妖精たちには効きなれない言葉かもしれない。異世界にも学校はあるようだが、彼女たちには無縁の場所だ。そもそも、そんなところに妖精一人で行けば、学校を出たところで、捕まってしまうかもしれない。そうでなくとも、彼女たちは囚われていたのだ。そんな場所に行きたいとも思えなかっただろう。


「学校は、勉強するところだよ。同い年の男女が集まって、先生に色々なことを教わるんだ。まぁ、そんなに楽しい場所ではないかもね」


 彼自身、学校を楽しい場所として認識したことはない。友達がいないからというよりは、前までは賑やかなのが苦手だったのだ。だが、異世界でわかったことは、自分もその輪の中にいれば、賑やかなのも悪くないということだ。だからと言って、今更友達を作ろうとは思わないのだが。高校二年の二学期からは妖精たちがいるのだから、多少は大丈夫だろう。


「シラキさんが、学校に行っている間は私たちはお邪魔ではないでしょうか」


「そんなわけないわっ。シラキが私たちのことを邪魔になんて思うはずがないじゃないっ!」


 プロイアは、彼のことを考えてそう言ったつもりだったのだが、ファスにはその気遣いも考え付かなかったらしい。それもそのはずで、ファスだけではなく、皆に、どんな時だって君たちを邪魔だと思うなんてことはないと、二度ほど言ったことがあるのだ。彼もそれを嘘で言ったつもりもないし、その言葉を一生撤回する気もない。


「プロイア、気遣いは嬉しいけど、一緒に学校行こう? プロイアが家にいたいって言うなら、それも尊重するけど、どうする?」


「プロイア、残るの?」


 ミストが、寂しそうな顔をして彼女を見ていた。相変わらず、彼の肩に座ったまま、動く気はないようだ。


「いえ、もちろん、一緒に行きます。私だけ、お留守番なんて嫌ですから」


 プロイアも彼と一緒にいたくないなんてことはなく、彼女もずっと一緒にいたいと思っているし、彼にそう言っているのだ。そうでなくては、この世界に来るはずもない。その証拠に、彼のことは好きでこの世界まで付いてきたのは、彼女たちだけだ。異世界には、彼女たち以外の妖精も助け、契約を結んでいる相手もいた。だが、四人よりもかなり低い契約だ。いつでも、妖精側からその契約を切ることが出来るため、彼もあまり気にしていなかった。今、この世界にいる四人は、妖精側からも契約者側からも切ることが出来ない。その契約が無くなるとすれば、どちらかが消滅か、死亡した時だろう。そこまでの強い絆で結ばれているのだ。一緒にいたくないなんて言うはずがないのだ。


「じゃあ、皆で学校に行くということで。まぁ、学校に行くのはもうちょっと先なんだけどね。それまでは夏休みを満喫しよう。と言っても、皆は夏休みとかなかったもんね。遠くへは行けないけど、少し町を歩こうか」


 彼の言葉に妖精たちは騒ぎだす。彼とデートするのは久しぶりだと、口々に言っていた。

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