2-3 初めての夕食 3
「く、こほこほ」
プロイアがついに覚悟を決めて、一気に吸い上げたのだろう。その瞬間に炭酸が彼女の口の中に広がり、喉を刺激した。そのせいで、彼女がむせてしまった。
「プロイア、大丈夫?」
白希は焦ったように近くにあったティッシュを何枚かとり、彼女の口元を拭う。さらにティッシュを取り、コップ付近に零れた飲み物もそれで拭く。その間もプロイアが申し訳なさそうにしているのだが、こほこほと咳の音も聞こえる。そんな彼女の背をファスがトントンと叩いていた。
「大丈夫なの?」
口調はいつものように強めだが、彼女の言葉はプロイアを心配しているものだった。彼女の咳も収まって、プロイアはファスにお礼を言った。
「ごめんなさい。驚いてしまって……」
「大丈夫。ちょっとこぼしただけだよ」
人間がコップからこぼせばそれなりに、水溜まりになるが、妖精の小さな口でこぼしたとなれば、水溜まりにすらならない。水滴がくっついて、大きな水滴になっているようなもので、ティッシュで拭けばそれで終わりなのだ。
「どう、この世界の飲み物は。おいしい?」
「不思議な味と感触でした、本当に」
プロイアはそう言いながら、再びストローに口を着けて、今度はゆっくりと吸っている。今度は咳き込まずに、飲むことが出来ているようだ。その顔も笑顔でおいしいというのが伝わってくる。他の妖精たちも、炭酸の触感が新鮮なのか、ごくごくと飲んでいる。ただ、彼女たちが妖精であるため、コップからはあまり吸いだされることはない。
「あの、それ美味しいの?」
ミストの飲み物だけが炭酸ではなかったため、彼女はみんなの飲み物が気になったようだ。彼女の今飲んでいる物の隣に、新しいコップを置いて、ミストにどれが 飲みたいのか訊いた。彼女はプロイアのコップを指さしたので、プロイアの飲んいる炭酸をそのコップに注ぐ。シュワシュワと音がしている。ミストは今までのみんなの反応を見てるため、プロイア以上に緊張してストローに口をつけた。ゆっくりとゆっくりと、ストローの中の水位が上がっていく。プロイアは慎重だが、ミストは怖がりだ。知らない物は、白希が食べたり、飲んだりしないと口を着けようとしないのだ。そのせいで、彼と出会う前の彼女は本当に偏食していたようだ。初めて会った時は白希のことも警戒と言うか、怖がっていて近づくこともできなかった。そのせいで助けることもできなかったのだが、なども彼女とコンタクトを取っている内に、少しずつ慣れてきて助け出すことが出来たが、助け出した後も彼女とこうして会話できるようになるまでは相当時間がかかった。だが、今は心を開いて、一緒にいてくれるのだから、可愛くて仕方がない。
「っ!」
彼女の口に炭酸が到達したのか、目を見開いていた。だが、口からストローを離すことなく、そのまま飲んでいた。どうやら気に入ったようだ。プロイアは彼女に訊いてコップに残っていた炭酸ではないヨーグルト味の飲み物を飲んだ。
「これも美味しいですね」
プロイアはミストに笑いかけた。その後は二人だけではなく、フレイズとファスもその中に加わり、飲みものを交換しあっていた。もはや、弁当は意識の中にはなく、飲み物パーティーのようになっていた。
「みんな、ご飯も食べないと」
彼がそう言うとようやく、弁当に目が言ったのだが、彼女たちはお腹をさすっていた。それもそのはずで、炭酸を飲みまくっているのだから、それだけ炭酸が体内に溜まっているのだ。彼女たちは気まずい顔で彼の顔を見ていた。
「ファスはもうお腹いっぱいです……」
ファスが彼の顔を見上げてそう言った。苦しそうな表情で既に食べることは出来ないのだろう。
「まぁ、それだけ飲んだんだし、そりゃそうなるよ。まぁ、いっか」
彼は彼女たちを見ていて、食事の手を止めていた。彼女たちが食べられなくなったため、彼が処理することになったのだが、彼もそこまで食べられるわけではない。背が小さく、華奢な体を持つ彼の食べる量は、同い年の男子よりも少ない。テーブルに残っている料理を全て一人で平らげることは出来ないだろう。冷蔵庫で明日まで保存して置いても大丈夫だろうかと思案しながら、彼はとりあえず、自分の分を食べていた。その間に、妖精たちの口から、けぷっと言うような音が聞こえていた。炭酸を飲んだのだから、当然そうなるであろう。その意味が分からず、妖精たちは口を押えている。異世界でもゲップがどういう物かの理解くらいはある。大抵の場所では行儀の悪いことだと教えられることだろう。彼女たちもそれを理解しているのだが、何ともそれが止められないのだ。
「あはは、炭酸飲むとそうなるよね」
彼が笑っているのを見て、それが変なことではないとわかったのか、混乱も落ち着く。
「あれ、何かお腹空いてきた」
フレイズが、自分が食べていた弁当を食べ始める。彼女以外の妖精たちも自分の弁当を食べ始めたのだった。
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