2-2 初めての夕食 2

「多いよね。これ」


 白希が妖精たちにそう言いながら、視線を向けると彼女たちは見たことのない料理にわくわくした様子で、弁当をみていた。


「あー、まぁ、残ったら僕が食べればいいか」


 彼女たちの様子に残らないかもしれないなと思いながら、彼女たちと手を合わせて、いただきますと言った。異世界にその文化はなかったが、彼がやり始めたことで、彼の周りに人達は大体、食事の前に手を合わせるという行動をするようになっている。だから、彼女たちの中でも既に当たり前の行動であった。


「どれから食べよう」


「ボクはこれにする」


「私はこれをいただきましょう」


「ファスはシラキと同じのを食べるわっ」


 ファスがシラキの隣に行き、彼自身が選んだ弁当の隣に座る。ファス自身が選んだ弁当があるはずだが、彼女は既に白希の弁当を食べようとしている。ファス以外の人たちは自分が食べたいものの前に座り、困惑している。それも当然のことで、彼も今気が付いたが、彼女たちが食事するための道具がないのだ。妖精用のフォークやナイフなんてものはこの世界にはない。人形用のものはあるだろうが、それもこの家にはなかった。だが、彼は主出したことがあった。


「みんな、ごめんね。これ使って」


 彼は自身の超能力を使い、彼専用の空間から小さなフォークとスプーンを取り出した。それは異世界で買った彼女たち専用の食べる道具である。彼女たちはそれを受け取って安堵した様子で、食事を始めようとしていた。四人は緊張の面持ちで弁当から一口食べる。その瞬間、それぞれがんっと声を出した。そして、口々においしいやらうまいやらと言いだして、弁当を勢いよく食べ始めた。


「どうやら、気に入ったようだね。よかった」


 この世界のものを食べることが出来ないとなると、どうしようかと思った。異世界に行く方法はわからないのだ。食事ができないとなると、彼女たちが餓死してしまうかもしれない。


 弁当だけでなく、飲み物を五本ほど買っていた。味がどうと言う風に選んだわけではなく、本当に見た目の色だけで選んだようだ。あまり弁当と食べ合わせるものでもないかもしれないが、とりあえず、コップとストローを出してきた。食べ物で喉を詰まらせないとも限らない。


「飲み物みんなどれにする?」


 それぞれが、自分で選んだものを差した。フレイズはオレンジの炭酸飲料。ミストは透明な水にヨーグルトの味がついている飲料。プロイアはラムネ味のサイダー。ファスはレモン味の炭酸飲料だ。全員が炭酸を選んでいるが、棚に並んでいる物はライトに照らされてどれもキラキラしていたのだ。その中でも炭酸飲料はキャンペーンをやっていたため、目立つように配置されていたのだ。目に入るなり、迷わずそれを選んでいた。彼女たちが選んだものを人間用のガラスのコップに入れようとしたが、明らかに大きく、彼女たちが立たないと飲めないので、小さいコップを用意した。そのコップは昔から家にあるが、いつ使うんだと思っていたものが今役に立った。


 コップに注ぐと炭酸の泡が表面に上がってくる。それがリビングのライトに照らされて、キラキラと光る。異世界には炭酸飲料がないため、彼女たちにはかなり珍しく綺麗なものだったのだろう。妖精たちの中でも、大人で落ち着ているプロイアですら目を輝かせているのだ。プロイアの分を継いでいる時点で、既にフレイズがストローに口を着けていた。異世界にもストローに似た物はあったため、使い方はわかっているようで、顔女は口を少しすぼめながらコップの中のジュースを吸っていた。


「うっ。く、何これ、ぱちぱちしてるー」


 フレイズの反応を見て、ファスも飲み始める。


「くっ、う~。ほんとにぱちぱちしてるっ」


 彼女がストローから口を離し、勢いよく後ろに下がる。口に手を当てて、大げさなリアクションで驚いていた。彼女にしたら一大事のはずだが、その様子は可愛いの一言に尽きる。驚いている彼女の横でミストがゆっくりとストローに口を着けて、ゆっくりと吸っていた。興味と恐怖のせいで、恐る恐ると言った様子だ。しかし、確実に吸い上げていて、ストローの中の水位は上昇している。ようやく、彼女の口の中に入ったのだが、彼女は首を傾げていた。それもそのはずで、彼女は炭酸ではないのだ。ただ、味は好みだったようで、笑顔でコップの中身を吸い上げていた。最後はプロイアだ。ファスがリアクションをしている横で、彼女を見ながらずっと、ストローを口にくわえたままじっとしている。彼女のリアクションが終わっても、キラキラした水面を見ながら、吸い上げる様子がない。彼女はミスト以上に新しいことやものやあまり得意ではない。言い換えれば、慎重なのだ。

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