2 初めての夕食
2-1 初めての夕食 1
「貴方も超能力者なのですか?」
隣で戦っていた女性は長い赤茶色の髪をかき上げながら、白希に話かけてきた。彼女は誰もが好きになりそうな笑みを浮かべて、無害だと主張するように静かに近づいてくる。彼もその見た目だけで言えば、かなりの美少女だと思った。異世界でも中々いないと言えるほど可愛いだろう。垂れた目に桜色の頬。唇はつやつやしていて、桃色で色っぽい。モデルのような顔の小ささに整った顔で、体つきも華奢でか弱そうだ。誰かが守ってあげたくなるような、見た目だ。手や顔は焼けていないが、健康的な白さ。身長は彼と同じくらい。
だが、彼は特に彼女に惹かれるとか、照れてしまうということはなかった。それどころか、いきなり話かけてきたため、彼は警戒していた。妖精たちも同じだ。彼は妖精たちを守るためなら何でもする。文字通りなんでも、だ。囚われている人たちを助け出すときも、彼は自らの命も顧みず、どんな危険な場所にも躊躇わず入っていく。そこまでの強い意志を持つ相手に対して、彼女一人で戦ったところで、彼女は絶対に勝てないだろう。だが、彼女はそんなことを知る由もない。
「そんなに警戒しないでください。私は攻撃するつもりはありませんよ。先ほどまで戦っていたのです。連戦する体力もありませんから」
そう言っても白希は警戒を解くつもりはなかった。結局は信頼は言葉では築けないというのを異世界で理解していた。仲間だと思い、一緒に捕らえられている人たちを助けに行くと言い、仲間だと思っていた人たちが実は相手の仲間で、自分が捕らえられそうになったり、追いつめた敵が改心すると涙ながらに訴えたため、見逃そうとした瞬間に殺されかけたりした。そして、何より捕まった人たちを助け出すのに、すぐには信じてくれず、助け出した後も警戒され続けていた。だが、会話や世話をしていく中で信頼関係を築いたのだ。彼に付いてきている妖精たちはまさしく、その筆頭と言えるだろう。だからこそ、彼は初対面である程度の戦闘力を持つ者には警戒し続けるという癖が身についている。
だが、彼女からすると自分が笑顔で近づけば、相手の警戒心は解け、仲良くなれるということを知っている。彼女は自分が大抵の人には好かれる自身があった。自分の可愛さを理解した上で、波風立てないように自分を使っているのだ。それが彼には全く効果がない。彼女は多少不思議だった。確かに見た目は可愛い男性ではあるが、彼女は自分が性別に関係なく、梳かれているという自覚もある。だからこそ、相手の見た目なども関係ない。稀にそう言う人が現れることはあるが、彼もその一人と言うわけなのだろう。それがわかったとしても、彼女は笑顔を止めたりしない。完璧な美少女であることを止めることはもう、やめることは出来ないのだ。
「ごめんなさい。私はもう行くことにします。また会えたら、いいですね」
彼女はそう言うと、振り返り、彼の前から去った。
彼女の後ろ姿が見えなくなるとようやく、警戒を解いた。だが、今の女性が妖精たちを攫いに来ないとは限らない。白希は彼女の顔を覚えていた。そもそも、忘れるはずがない。美少女と言うことはそれだけ特徴があるということである。忘れたくても忘れられない。彼女だけではなく、既に妖精たちの存在が他に伝わってしまうと思った方が良いだろう。少しでも彼女たちと離れることが無いようにしなくてはいけない。彼は怖い顔をしながら、彼女たちの身を案じていた。
「シラキ? どうしたの、顔怖いよ」
フレイズが彼の顔を覗いてそう言った。その瞬間に彼の顔は和らいで、怖い顔ではなくなった。自分がそこまで考えてしまっていることをようやく自覚して、彼はは願する。その顔を見て、妖精たちも安心したように笑った。
「帰ろうか。ご飯も食べてないし、お腹減ったよね」
彼がいつもの優しい口調で喋ったため、彼女たちもその話題に乗り、口々に好きなことをしゃべる。白希はそれぞれの話にしっかり返事をしている。彼らはテレポートで空を移動しながら、家に帰った。
家の庭の辺りにテレポートして、家の中に入った。リビングに移動して、コンビニで買った夕食を取る。弁当を電子レンジで温めようとして、その必要がないことに気が付いた。彼は魔法を使えるのだ。電子レンジで五分も待たずとも一瞬で温められるのだ。彼は六つほど買った弁当にそれぞれそっと触れて、火の魔気を弁当に流す。すると、火は出ずとも弁当が熱を持ち、温まった。それをフレイズがおおーと言っていた。弁当やオカズの蓋を開けたのは良いが、彼はとあることに気が付いた。
この世界の弁当は人間向けのものがほとんどだ。妖精用なんて物はあるはずもない。つまりは、人間用に作られた者では明らかに彼女たちには多いのだ。
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