29 少年少女は過去を乗り越え、今を生き、明日を目指す①
2020年4月5日。
最初のビッグウェーブが起きた日であり、7人もの仲間を失った史上最悪の一日。
その日は11時から世界が開き、その当時では珍しく、誰も大きなケガを負うことなく無事に討伐を完了した。
なんだか今日はやけに敵の湧きが温いなと思ったのを覚えている。
そして、そろそろ夕飯の時間だと、イカ焼きの匂いが充満した調理実習室にポツポツと人が集まり始めていた、その時だった。
“キーンッコーンカァンコーン”
“キーンッコーンカァンコーン”
不意に鳴り始めた鐘を前にして、誰しもが固まるのだった。
「
糸出さんの叫びを耳で捉える間もなく、歪む視界。
気づいたときには、校舎の前に投げ出されていた。
首を回せば、皆困惑の表情を浮かべながら同様に辺りを見渡していた。
皆が困惑していたのは、突如世界が開いたからだけではなかった。
どういうわけか、外は夜だったのだ。
誰かが始めたのをきっかけに、皆がスマホのライトで辺りを照らす。
そこへ聞こえてくるは、ボコボコと何かが泡立つ音。
音の発信源へスマホをかざせば、アスファルトが波打っているではないか。
咄嗟に腰に手を宛がい……顔が青くなるのを感じる。
卒業証書の筒を持っていなかったのだ。
当然だろう。夕飯に行く途中だったのだから。
それは皆も同じだったようで、能力の発動に道具が必要なメンバーは大いに慌て始める。
近くの民家へ調達しに行こうとした瞬間、盛り上がったアスファルトから飛び掛かってきたのは大きな大きな……ウナギだった。
パニックになりながら、それを避ける一同。
だが、地面の揺らめき、そして気泡の音はそこらかしらで聞こえ始める。
波打つウナギの群れが、無防備な俺たちに襲い掛かるのだった。
結局、樋本君の捨て身の特攻と糸出さんの禁じ手によって討伐は完了した。
だが、その代償は余りにも大きく……4人の生徒の命が失われた。
意気消沈しながら、物資調達を図る一同。
残り時間の関係で急がなくてはいけないはずなのだが、その手際は誰しもが鈍かった。
だが、そこへ慌てながら駆けつける
何でも、海浜公園のクジラの噴水に異常が生じているらしい。
話し合いの末、何人かの戦闘組が確認しに行くことになった。
俺とサスケも赤黒く染まった腕を携え、あとに続いた。
俺たちが噴水の前にたどり着いたとき、すでに噴水は光の奔流を噴き上げ、三つの光の塊が出来上がっている段階だった。
咄嗟に臨戦態勢をとる俺たち。
だが、すぐに武器を捨てて駆け寄る。
なぜなら、そこに現れたのは3人の生徒だったのだから。
一人目は独創的な髪型が特徴の小柄な少女、
魔改造が施されたカバンを抱え込んで落ち着きなく周りを見渡しているが、はっと俺たちに気づくと、そのカバンを後ろ手に隠した。
その行動の意味はイマイチよく分からないが、イインチョたちが喜ぶ姿が目に浮かぶ。
二人目はクマのようにずんぐりむっくりとした大男、
片膝立ちの状態で周りを見渡し、ゆっくりと立ち上がった。
久しぶりの友人との再会に近寄ろうとするが、俺の脇をすり抜け脇谷に駆け寄る一つの影。
見れば、クラスメイトの
突然の出来事に俺は驚くが、周囲は平然な顔をしている。
サスケが言うには、この二人は一昨年の夏から付き合っていたらしい。
脇谷は同じクラスだったのは1年だけだったものの不思議と馬の合う奴で、プライベートでもよく一緒に遊ぶ仲だった……はずなのだが、まったく気づかなかったな、うん。
いや、でも思い返してみれば、二人はよく一緒に居たような気もする。
一昨年の文化祭ではイインチョのクラスと合同開催した模擬店の店番を一緒にしてたし、去年はうちのクラスのお化け屋敷に二人で来てたし、今年は図書室に毎日のように二人で残って勉強を……って、ここまで言っておいてなんだが、よくこれまで気づかなかったな、俺。
ともかく、脇谷は俺にとって仲のいい友人だったのだ。
そして、三人目はクールな見た目の美少女、
周囲の反応が最も大きかったのは彼女だろう。
何せ彼女は有名人だった。
彼女は学校のアイドルであり……本物のアイドルだったのだから。
彼女はすぐ傍の脇谷たちと数言交わしたのち、あっという間に皆に囲まれた。
その際に一瞬だけ、こちらと目が合った気がした。
そして、時間もなかったため、俺たちはすぐにその場もあとにするのだった。
しかし、まさかこの後……第二の悲劇が待ち構えていようとは、この時の俺たちは知る由もなかったのだ。
今にして思えば、不注意極まりないとしか言いようがない。
だが、あの時の俺たちは思いがけず新たな仲間が加わったことで、どこか浮かれていたのだろう。
だから忘れていたのだ。
能力のことを。
俺たちは不思議な能力を手にした。
ならば新たに加わったメンバーも能力を手に入れているだろうことも、容易に想像が出来たはずだ。
そして、それは条件さえ満たしてしまえば、意思に関わらず、勝手に発動してしまうことも。
だからこそ、ここでしっかりと確認をとっておくべきだったのだ。
3時3分何してた……と。
その結果、第二の悲劇が幕を開けるのだった。
きっかけは何だったか。
亀田さんをおぶった脇谷が突拍子もない声をあげたのだった。
「あっ!」
「どうした?」
「そういや、靴ひもほどけてたんだった」
「おいおい、ここまで歩いておいて今更かよ」
「へへ、忘れてたんだよ」
気恥ずかしそうに笑う脇谷。
こいつは昔からこんな風にちょっと抜けたところがある。
「皆は先行ってて」
背中におぶさる亀田さんがそう告げる。
「おぅ、でも時間ないから急」
そこまで言いかけ、嫌な考えが頭をよぎると共に、全身を悪寒が襲う。
「なっ、なぁ……脇谷……お前……さ、時が止まったあの時……3時3分何してた?」
「あぁ?何って……こうやって屈んでさ、靴紐を結びなお……あれ?」
そこで脇谷の言葉は途絶える。
嫌な予感がしつつ、そちらに目をやれば……片膝立ちになったまま固まる脇谷。
だが、その様子はおかしい。
ゆっくりと視線を下ろせば……
脇谷の靴と地面のつなぎ目が無くなっていた。
「なんだよ!これ!!」
脇谷の大声で、周りも異変に気付いたようだ。
「早く!靴を脱げ!」
「やってるけど!なんか!脱げないんだよ!」
脇谷が靴を脱ごうと靴下に触れれば、一瞬で靴と靴下の境界線は無くなり、同化して一つの塊になる。
「うわぁあああああああああ!!」
だが、異変は止まらない。
指が一瞬触れたのか、ついには足やズボンまでもが地面と一体化し、脇谷はその場で動けなくなってしまった。
半狂乱になりながら、腕を振り回す脇谷。
「千鶴!」
「ひっ!!」
背中から飛び降り、駆け出した亀田さんへ手を伸ばし、腕を掴む脇谷。
考えたわけじゃないだろう。
まさに
だが……その行動は最悪の結果を生む。
「きゃぁあああああああああああああああ!!」
絹を裂くような甲高い悲鳴。
見れば、脇谷の掌を残し、亀田さんの腕と脇谷の腕が繋がっていた。
「離して!離して!」
「なんか離せねぇんだよ!どうすりゃいいんだ!どうすりゃ解除できんだよコレ!」
パニックになった脇谷が腕を振る度、亀田さんは振り回され、周囲の物も巻き込んでどんどんと一体化していき、脇谷を中心に歪な形のオブジェが出来上がっていく。
やがて気味の悪い音を立てながら、オブジェは周囲の物を飲み込み膨れ上がっていき、その中心では脇谷たちがまるで飲み込まれていくように見えた。
「脇谷!!」
一歩踏み出そうとするが、そこで止まる。
どうすればいい?
オブジェを斬れば進行は止まるか?
そもそも俺の能力で何とかなる類なのか?
最悪、脇谷の腕を落とせば……。
いや、そんなこと考えている間にもどんどんと脇谷たちは飲み込まれて。
「ジンスケ……助け」
縋るような視線でこちらへ助けを求める脇谷。
「今行く!」
一歩踏み出そうとしたその時だった。
「行っては駄目」
そう言いながら俺の前に立ちはだかったのは、鯨伏さんだった。
「鯨伏さん!どいて!」
「駄目。あなたまで飲み込まれてしまうわ」
「だからと言って、仲間を見殺しになんてできない」
「あなたが行ってもどうしようもないの」
「そんなのやってみないと分からないじゃないか!ともかく早くしないと!」
「分かるのよ!……それにもう時間もないでしょう?」
「それはそうだけど」
「おい!何やってる!早くしないと本鈴が……何だアレは!!」
いつまでたってもついてこない俺たちを不審に思ったのか、先行していた崇たちも戻ってくる。
「なぁ……ジンスケそこにいるんだろ?助けてくれよ……俺たち友達だろ?」
「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」
「なぁ頼むよ……助けて」
その言葉を聞いた瞬間、身体は勝手に前に動き始め……ガクンと止まる。
「行かないで!」
振り返れば、必死な形相でこちらを見つめる鯨伏さんと目があう。
その細く長い指が俺の腕にメリメリと食い込んでいた。
「ここは引きましょう……お願い」
そのか細い腕の一体どこからひねり出しているのか不思議になるくらいの強い力で、ぐいぐいと俺の腕を引っ張る鯨伏さん。
「ジンスケ!本当にもう時間がないぞ!」
「……でも」
「嘘だよな……おい!ジンスケ!」
「ジンスケ!」
「ごめん」
その一言を呟き、身体を反転させる。
「……ふざけるな!見殺しにするのか!俺たち友達だろ!」
「何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で」
「鬼!悪魔!人でなし!」
「あぁあああああああああああああああああ」
「……苦し」
「……嫌……助け」
背中に突き刺さる罵倒と悲鳴。
人よりも優れたこの耳は、他の誰よりも最期まで声を拾う。
子供の頃から耳がいいのを自慢に思っていた。
だが、この時ばかりはそれを忌々しく感じるのだった。
「ごめんな……千鶴」
「……」
かすかに聞こえたその音を最期に、公園は元の静けさを取り戻すのだった。
“キーンッコーンカァンコーン”
本鈴が鳴ったのは、俺たちが校門を潜ってすぐのことだった。
途中からは全力疾走して、本当にギリギリ何とか間に合ったといった様相だ。
あとほんの少しでも判断が遅れていれば、きっと俺たちは世界の崩壊に巻き込まれていただろう。
どう考えても助ける時間などなかったし、たとえ助けられてもあの状態の脇谷と亀田さんは歩ける状態じゃなかっただろうから、二人を背負っていたら余計に間に合わなかったはずだ。
だから、あの判断は間違っていない。
間違っていなかったはずなのだ。
だが、本当にそうなのだろうか?
躊躇わず、もっと早く判断していれば?
最初の段階で動いていれば、せめて亀田さんだけでも助けられたのでは?
そして何より、最初に訊くべきだったのだ。
3時3分何してた……と。
何よりも二人の言葉が罵倒が
俺たちは仲間を見捨てた……見殺しにしたのだ。
ほんの先月までは共に机を並べ学び、下らない冗談を言い合い、笑いあったかつての級友たちを。
いや、俺たちじゃない。
脇谷が呼んでいたのは俺の名前。
ならば、見殺しにしたのは……俺ではないか。
崩れ去る世界をじっと見つめながら、血で黒く染まった拳を震わすのだった。
「ちょっといいかしら?」
背中越しに聞こえた声の主は鯨伏さんだった。
「……何かな?」
振り返ることなく、そう尋ねる。
「少し話したいことがあるの……ついてきてくれる?」
「ごめん……また今度じゃ駄目かな?」
「えぇ、駄目ね。悪いけれども大事な話だから」
返ってきたのは予想外の答え。
「……わかった」
だが、彼女の真剣ながらもどこか震えるような声色を前にし、俺はそう答えを返すのだった。
彼女についていってたどり着いたのは、一年生の教室だった。
静かに扉を開ける彼女に続いて、中に入る。
当然ながら、教室の中はがらんとしていた。
そして、彼女は自然な動作でかつて自分の席だった場所へ座る。
次いで、何かを訴えるようにこちらへ顔を向ける。
意図を把握した俺は記憶を探りながら、少し離れた位置へ赴き、椅子を引いて尻を載せる。
鯨伏さんは悲しそうに少しだけ微笑むと、おもむろに口を開くのだった。
「脇谷君と亀田さんのことは残念だったわね」
「……」
「きっとあなたは自分が見殺しにしたと思っているのでしょう?」
「……」
「でも、違うわ。あなたを引き留めたのは私。だから、あなたが気に病むことではないの。彼らを殺したのはあなたではなく、私」
「そんなことはない……あれは……不幸な事故だったんだよ……」
「でも、あなたはそう思ってはないでしょう」
「……そんなことは」
「私も人を殺すのは初めてだったわ」
「だから、あれは不幸な事故で」
「ねぇ……かぁ君」
突如彼女の口から飛び出た一言で、一瞬にして思考が停止する。
今では幼馴染しか知らぬはずの懐かしい呼び名が、なぜ彼女の口から出てくる?
混乱する頭で疑惑の目を向ければ、彼女は更に続ける。
「きっとあなたにはこれからも多くの試練が訪れるわ。数えきれないほどの辛いことや悲劇も。傷つき、倒れ、自分の無力ゆえに仲間がいなくなっていく。いっそ死んでしまった方が楽になれると思うこともあると思う。でもね……あなたには生きてほしいの」
「そりゃさ……望んで死ぬつもりなんてないし、出来るだけ頑張るけどさ。でも、こんな異常事態が続くんじゃ、いつかは」
「この物語には終わりがあるわ」
何てことでもないように彼女の口から告げられた言葉。
「え……何言って」
「この世に終わりがないものなんてないもの」
「あぁ、そういうこと」
「それに死んでしまったら、そこで物語は終わりでしょう?」
「そりゃそうだね」
「でも、私はあなたには生きていてほしい。死んでほしくないと思ってるの。あなたには、過去を乗り越え、今を生き、明日を目指して欲しいの」
鯨伏さんはそう言い切ると、立ち上がり扉へ向かい始めた。
俺も立ち上がり、そのあとを追うが……つい言葉が口から漏れ出る。
「えぇっと、大事な話って……これ?」
「えぇ、私にとっては大事な話」
鯨伏さんはこちらを振り向きながら、そう告げた。
その顔はどこか達観したように見えた。
だが、寂しそうに眉を下げ、口の端を上げるとこうつぶやいた。
「でも、そうね……もうあと一つだけ……これを渡しておきたくて」
ぐいぐいと近寄ってくる彼女はポケットに手を入れ、何かを取り出した。
「ロッカーのカギ?」
彼女の掌の中にあったのは、タグのついた小さな鍵だった。
「あの頃は本当に忙しくて、持って帰る暇もなかったから」
「もしかして俺に取って来いってことかな?」
「お願いできるかしら?大切な物が入ってるの」
「知らないかもしれないけど、今3階は」
「一旦裏庭に出て、非常階段を使って東棟の3階まで登り、通常の階段で2階に下りる。そのあと、渡り廊下の屋根の上を通って本棟へ移動し、手前の階段を昇れば、11組のロッカーへ行けるわ」
「えっ……何でそんなこと知って」
「よろしく……ね」
密着する距離まで近づいた彼女は俺の掌に鍵を押し付けるように指を絡め、そして、踵を少しだけ上げ……。
そこからは頭が理解を拒んだ。
オーバーヒートする思考と身体、そっと押される背中。
耳元で囁かれた四文字の言葉。
どこか現実感のないまま、出来の悪いロボットのように四肢を動かせばいつの間にか教室の扉を潜っていた。
「永かった私の物語はこれで終わり……願わくは」
最期に聞こえた、彼女の音。
そして、入れ替わりで誰かが入っていった気がするが、どうも記憶が定かではない。
彼女のいう通りに移動すれば、確かに11組のロッカーの前にたどり着いた。
そして、張られたシールを頼りに探せば、すぐに見つかる彼女のロッカー。
鍵を差し込み回せば、小気味いい音を立てながらシリンダーが回転する。
取っ手を掴んで扉を開ければ、中に入っていたのは新品同様の教科書たち。
そして、手作りの狐のお面と、デカデカと「=0」とプリントされた懐かしのクラスTシャツが出てきた。
大切なものとはこれのことだったのだろうか?
ちょっとした気恥ずかしさと疑問を抱きながら、それらを手ごろな袋へまとめて入れれば、そそくさと元来た道を戻るのだった。
だが、裏庭に出た時点で……異変に気付く。
温室の近く、祠があった場所に開いた大穴。
その手前にさっきまではなかった物が置いてあったのだ。
何かの予感か。
全身が凍えるのを感じながら、ゆっくりゆっくりとそれへ近づいていけば……。
それは、きれいに揃えられたローファーと、その上に置かれた学生証。
そして、その学生証に写っていたのは……。
フラッシュバックする記憶。
俺は……その場に崩れ落ちるのだった。
結局、皆で学校中を探したものの、ついぞ鯨伏奈々実は見つからず、状況を鑑みて自殺という判断が下るのに、そう時間はかからなかった。
7人の仲間が死亡し、1人の仲間が加わった。
史上最悪の日はこうして幕を下ろしたのだった。
2020年6月11日1時36分 三重第三高等学校 グラウンド
「以上が4月5日に起きた悲劇だよ」
一部はぼかしつつも大体の出来事を語り終えた俺は、近くに置いてあったマグカップを手に取り、ほろ苦いコーヒーを喉の奥へと流し込む。
「ふむ……なるほど」
親指の爪を鼻頭にあて、長考するケイト。
真っ暗な地面に映像が照射される。
「色々と合点がいったし、不可解な点も数多くあるが……」
そこまで言うと、指を離す。
「大変だったのだな……色々と」
「まぁ……うん」
珍しく素直な友人の慰めの言葉に、どうも調子が狂ってしまう。
「ふむ……記憶をほじくるようで忍びないが、もう少し詳しく聞かせてもらえぬだろうか?」
「えぇっと、何についてかな?」
「このあと来るだろうビッグウェーブのことだ」
「うぅ~ん……とはいっても、なぜか夜なのと開始時間が読めない点を除けば、普段と変わらないって印象かな。マップや敵も特別って感じじゃないし。まぁ、まだ二回しかやってないから何とも言えないけどさ」
「だが、今回は3回目のビッグウェーブだ。何かあっても可笑しくはない」
「うん、そうだね」
そうなのだ。
何かにつけて3にこだわったこの世界。
3回目のビッグウェーブとなれば、ケイトのいう通り何かあっても可笑しくはないだろう。
先程語ったためか、どうしても思い起こされるのは彼女の言葉。
この物語には終わりがある……か。
今回がそうであることを、心から願うのだった。
「もう一点。開始時間が読めないとはどういうことだ?」
「なんか知らないけど、変な時間から始まるんだよ」
「変な時間?」
「うん、最初は4月5日の晩御飯時でしょ。次は5月8日の夜中」
「ふむ……」
「33日と3時間3分おきかなと思ったんだけど、どうやらそれも違うんだ」
「詳しい時間は覚えていないのか?」
「いや、それが一回目は突然の出来事だったし、二回目は予測してずっと待ってたんだけど全然こなくてさ……あれ?気のせいなのかな、今日はないのかなって思ってたら、急に来たんだよ」
「何か規則はありそうなものなのだがな」
「開始時間はランダムとか、この理不尽な世界ならありそうだけどなぁ」
「勘弁してほしいよね……」
「それで今日はこうしてずっと待っているわけか」
「そういうこと」
周りを見渡せば、皆がグラウンドに座り、その時を待っている。
リラックスした状態とは到底言えず、皆緊張しているのが見て取れる。
「これは精神面での負担が大きいな」
「うん……でも、いつ来てもいいように備えなくちゃいけないんだ。明日を生き残るためにも」
「あぁ……そうだな」
そして、気持ちを緩めることもできず、ただただ時だけが過ぎ去るのだった。
……。
……。
……。
……。
……。
“キーンッコーンカァンコーン”
“キーンッコーンカァンコーン”
不意に二重に鳴り始めたチャイム。
「来た!備えろ!!」
「
ぐにゃりと視界が歪めば、校門の前に着地する。
それと同時に風を切り裂きながら飛んでいく糸出さんのパペットたち。
「え……こんなことって」
「どうしたの?めぐり」
「マップは……三重市全域です!」
「はぁ!?」
「おい、ケイトどうす……」
驚愕しながらケイトの方を見れば、その場で腕時計を見つつ固まるケイト。
「おい、どうしたんだよ!」
「前回は23時3分から始まったのではないか?」
そして、ポツリと呟く。
だが、その問いかけは、どこか確信を含んでいるようだった。
「えっと……言われてみれば、たしかにそうだったかも」
「やはりそうか。オレは莫迦か……終了時間から逆算すればすぐに気づけることではないか。ビッグウェーブは33日と4時間おきだ」
「4時間……何でそんな中途半端な」
「もう一点確認だ。ビッグウェーブの開始時だけ鐘は二重に鳴るのか?」
「……そういえば、たしかに開始時だけ二重に鳴るね」
「やはりか……2020年3月3日15時3分から3日と15時間33分毎に開く世界、そして、33日と4時間毎にビッグウェーブは訪れ、その開始時には二重に鐘が鳴る……そうか……そういうことだったのか……」
そして、ブツブツと呟き始める。
「なんかわかったのか!ケイト!」
「あぁ、すべてわかった」
「すべて?」
「あぁ、この理不尽な物語の終着点がな!」
そう言いながら突き出してきたのは、左手に巻いた外国モノの腕時計。
液晶に記されていた文字を読み上げる。
2020年6月11日3時3分3秒 3度目のビッグウェーブが始まった。
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