2

「ねえ、あれ、なんだろう」

 リンが眉の上に手でひさしを作って東の地平線の先に目を細めた。太陽がまだ低い位置にあるので銃の照準器は使えない。

 砂漠の朝は気温が上がるごとに夜の結露が蒸発して薄い霧を作り出す。その霞んだ先に黒い影があった。

 見たことがある。士官学校しかんがっこうで散々目にした古い資料のなかにある。モノクロの写真から近年撮られたカラー写真まで揃っている──背筋が凍った。

「テウヘルの空中要塞だ! 距離は?」

「うーん、だとしたら距離は10里から15里くらいかな」

「あれの砲撃射程が約10里。まずいことになった。警報は聞こえないだろ」

「うん」

「観測所の班は何やってるんだ。来い、走るぞ。警報も信号弾もないとなると何か起きているかもしれない」

 すぐにでも無線で連絡を入れたかったが、たかが日常業務の歩哨でそんな大きい機材を持ってきていない。歩哨ルートを外れて防衛ラインの突端、西に向かって伸びる塹壕をふたりで走った。耳を澄ませてもしんと静まり返っている。軍靴が塹壕の底の木板を叩く音だけが反響する。

「待て」

 ニケは声を押し殺した。そして後ろを走るリンにハンドサインを送った。

 リンはそのハンドサインを見て、慣れた手付きで弾帯チェストリグから6発入りのクリップを銃の薬室に差し込み、コックを引いて装填した。さらに親指を安全装置に置いて周囲を警戒する。

獣臭けものしゅうだ」

「じゃあ、テウヘルが?」

「防衛ラインに浸透されているのかもしれない」

 ニケも負い革をぐるりと回してライフルを構えた。強靭な肉体のテウヘルに三三式では威力に不安があるが、無いよりはマシだった。

 歩みを進めようとした矢先、粗雑な重い足音が塹壕の曲がり角の向こうから響いてきた。ヒトのものじゃない。体重はおそらくその倍はある。

 そして──現れた巨体。真っ黒い毛に覆われ、顔は鼻先が伸び赤い目が光っている。細い鼻先がヒクヒクと動き敵の存在を感知した。薄く口が開いて反り返った鋭い犬歯をのぞかせた。

 獣人、テウヘル。軽々と大口径の機関銃を構え、簡素な弾帯チェストリグ を着ているが、肉体に纏う獣毛と分厚い皮、そしてバイタルゾーンを覆うように伸びる骨格のせいで銃弾が通らない──すべて教科書に載っていたこと。

 ニケの瞳が黄色に輝いた。テウヘルの銃口が動くより先にほんの数歩、地面を蹴っただけでニケは肉薄した。銃床でテウヘルの機関銃を叩いて反らした。銃弾は全く別の方へ飛び塹壕の壁に穴を作った。

 ニケは熱い血が心臓から流れ指先まで流れ着くのを感じた。力がみなぎり力を意のままに操りたいという欲望に満たされる。血の匂い。血の暖かさ。にわかに思い出す「たすけて」という先輩の最期の言葉──強烈な記憶フラッシュバック

 ニケは力任せに蹴った。テウヘルの膝が逆向きに曲がり、もんどりを打って倒れた。そこへ足を踏みつけ狙いを定めて素早くライフルの引き金を引いた。

 反動、硝煙の匂いそして銃声。ニケの足元で緑の鮮血を滴らせてテウヘルが動かなくなった。最初の戦果。

「ニケ! 新手あらて!」

 リンが叫んだ。

 塹壕の通路の先で機関銃を構えたテウヘルがこちらに向けて歩を進めていた。

 ニケが身を低くして銃を構えた──それと同時に弾けるような銃声が2つ、ひと連なりのように響き、テウヘルの巨体が崩れ落ちた。

 リンがライフルのコックを引く。途端に空になった薬莢が飛び出して塹壕の床に転がった。

「1丈そこそこの距離で外すわけ無いじゃん、このあたしが」

「あ、ああ。さすがだ。だがまだ終わったわけじゃない」

 ニケは動かなくなった死体を後にして走った。

 銃の安全装置は解除したまま。指も引き金のすぐ横で待機状態で走った。リンも遅れないようについてくる。テウヘルの空中要塞はまだ地平線の上から動かない。朝もやが立ち込めているからこの距離では基地から見えないだろう。早く手を打たないと。

 西へ伸びる防衛ラインの突端にある掩体壕えんたいごうの手前まで来た。塹壕の陰から覗くと狭い掩体壕の中で真っ黒い体毛の巨体が蠢いていた。距離は目測で2丈ほど。射撃訓練でもここまでの近距離では撃たない。

 リンにハンドサインを送った。この距離では話し声はテウヘルに聞こえてしまう。

 ニケが引き金を引いた。3点バーストの制圧射撃で、入口近くにいたテウヘルは背中から後頭部までまんべんなく銃弾を浴びて倒れた。すかさず他のテウヘルは反応して物陰に隠れる。

 ニケは身を引いてプルバップ式の弾倉を交換する。その間にテウヘルは物陰から頭を出して機関銃を構えた。1匹が制圧射撃、そして他の仲間が突撃するという算段らしい。あるいはそう調教されたゆえの行動。

 リンが引き金を絞った。そして八二式ライフルの大口径の弾丸が掩体壕の銃眼を通り抜け制圧射撃を試みるテウヘルの顔面を打ち砕いた。リンは流れる手付きで次の弾丸を薬室に送り込むと隣の一匹の首筋を撃ち抜く。

 ニケが弾倉の交換を終えて銃を構えるころには、最期の1匹が顔面を撃ち抜かれ赤い眼球が飛び出るのが見えた。

「へへへ、どんなもんよ」

 リンは白い歯を見せて笑うと残った弾丸のクリップを排莢しポケットに仕舞うと新しい6発クリップと交換した。

「顔を撃ったのか?」

「うん。じゃないとバイタルゾーンまで弾丸が届かないでしょ」

「だが命中確率は低い」

「あたしは抜擢射手マークスマンなの。こんな距離で外すわけ無いでしょ」

「わかったよ。わかった。お前を信じる」

 ニケとリンは警戒を解かずに掩体壕まで進んだ。

 他にテウヘルの姿は無く掩体壕は、強化兵とテウヘルの死体が折り重なっていた。リンはすかさず倒れた味方の脈を取った。

「だめ、みんな死んでる。体もだいぶ冷たい」

「ということは1時間程度は経ってる。朝の薄暗い時間に近づいてきたんだろう」

 掩体壕の中を見渡した。通信用の機材が破壊されている。兵士たちの重機関銃も使われた形跡がない。

「弾を補給しとけ。もしかしたら今日は長い1日になるかもしれない」

 ニケは空いたポケットに補給箱から三三式ライフルの弾倉を詰め終わると、信号弾を持って野外に設置された迫撃砲に近づいた。

 その砲口の向きをクルリと基地側に向けると、信号弾の安全ピンを引き抜いてそして、発射した。

 昼間でも見えるピンク色の発光体が空高くまで飛びそして、輝きながらゆっくりと降下してきた。

 掩体壕に戻るとリンは倒れた仲間をテウヘルの死骸から引き抜くと開いたままの瞼を閉じてやっていた。全員の左耳に黄色いタグが付いている──強化兵だ。

「優しいんだな、リン」

「何もできずに死んじゃうのって、なんだかかわいそうで。あれだけ苦労して訓練してきたのに。この気持ち、なんだろう。あたし、間違っているかな」

「いや、その気持ちは至極まっとうだ」

 ニケが言い終わらないうちに基地全体から緊急警報が鳴り響いた。

「よし、すぐに戻るぞ。分隊に合流して小隊長からの指示を待つ。もしこれがテウヘルの大規模侵攻なら俺たちだけじゃどうしようもない」

 リンはうん、頷くと塹壕からわずかに頭を出して地平線の奥へ銃を向けると照準器越しに観察した。

「うわぁ、あれ多脚戦車ルガーだ。数も、1,2,3……ううん、いっぱい。陽炎でよく見えないけどその奥にもまだいると思う」

 警戒線を破壊する小規模浸透部隊、露払いのための多脚戦車ルガー、そして沈黙を保っている空中要塞。すべて士官学校の戦術理論で習った通りの基本。多脚戦車ルガーと随伴する歩兵は簡単に地雷原と鉄条網を突破できないはずだが。自分が攻める側だったら次に打つ手は……

 真っ青な空に甲高い風切り音が轟いた。

「リン! こっちだ」

 ニケは力任せにリンの弾帯チェストリグをつかんで掩体壕へ引きずり込むと備品棚にあったガスマスクを有無を言わせずにかぶせた。

 閃光と爆轟で空気が揺れた。地面が揺れて体が浮かび上がる。塹壕の細い溝を一陣の風が通り抜け、また逆方向へ吸い込まれそうになる。ニケはリンに覆いかぶさり、飛んでくる石礫いしつぶてから守った。

 辺りが静まり返った。日光が真っ黒な煙で遮られて夜のように暗い。

 リンはマスクを外そうとするが、ニケはやめさせ駆け足でひとつ後ろの防衛ラインへ後退した。

「何、いまの?」

 リンはマスクを脱ぎ捨てて大きく息を吸った。しかし途端に咳き込んだ。

「地雷原を破壊する唯一の手段、それがあれ。気化爆弾だ。変な臭いがすると思うが、可燃物質の燃えカスとあとはもろもろもの有害物質だ」

「ニケは、大丈夫なの。それに、あちこち何か刺さってるよ。血も……」

「すこし胸が苦しいだけ。大丈夫だ。傷もすぐに治る。大丈夫。ブレーメンの体はヒトよりも丈夫にできている。問題ない」

 しかし、深く息を吸うと肺の奥がつっかえる違和感があるし爆轟のせいで聴覚も耳鳴りが治らない。体に刺さった破片は引き抜くと少しだけ血が出たがすぐに止まった。

 しかし痛くない。手足も問題なく動くし銃だって壊れていない。まだいける。

 頭上では反撃の砲弾が一斉に飛び立ち、侵攻してくる多脚戦車ルガーに攻撃を加えていた。空中要塞は、しかし戦場から次第に遠のくように小さく見えなくなっていった。

「相変わらず神出鬼没だな、空中要塞は。とりあえず後方の部隊に早く合流しよう。ただテウヘルの先攻部隊が浸透している可能性がある」

「わかった。全部倒していくんだね」

「塹壕の上からでも飛び降りてくるかもしれない。前だけじゃない。上も見るんだ。臭いと気配にも注意して進む」

「さすがに臭いはわかんないよ」

 駆け足で塹壕を、右へ左へ曲がり司令部を目指した。懸念があるとすれば──ここは一五八〇高地の防衛線の南端。だとすればほかの塹壕にも浸透されているかもしれないし、そうなれば防衛ラインが崩れて後方のラーヤタイ市街まで被害が及んでしまう。

 普段の遭遇戦とは違う。テウヘルが本気になって侵攻をするなんて何百年ぶりだろうか。

 ニケは、今はとりあえず戦略は頭から外しておいた。そういうのは普段閑職かんしょくを持て余している基地司令がすればいい。そしてどんな指令でも達成してみせるし生き残って見せる。

 塹壕も指令所までの中ほどに来た。

 空気を揺らす砲撃戦の合間に甲高い銃声がわずかに聞こえた。

「敵だ!」

 銃を構える。味方の死体とそばに立つテウヘル。

 ニケは間断のない銃撃を放つ。ようやく1匹目を倒した。その巨体が倒れる隙間を縫ってリンのライフルから放たれた大口径弾が後ろに立つテウヘルの脇腹を貫通し、ふたつある心臓を一度に破壊した。

「あたしたち、いいコンビね。これで銃床のマークがまた増えた」

 はねっ返りなリンの軽口──それにどう答えようか考えているとき、気配があった。焦げ付く煙の間から獣臭も漂う。

 頭上からテウヘルの巨体が落ちてきた。それはニケとリンの間に立ち、手には重厚なナタを持っていた。

 ニケが振り返ったときにはすでにナタは頭上に振り下ろされる寸前だった──とたんに体中の血が湧き心臓もひと繋がりのように早く打つ音が耳に響く。すべてが自分以外が全て緩慢な動きに見える。

 振り下ろされるテウヘルの右手をつかむと、ニケは素早く腰の拳銃を引き抜き3発、テウヘルのボディアーマーの隙間から弾丸を打ち込んでひとつめの心臓を破壊した。そして垂直に飛び上がっ側頭部の毛に掴みかかり眼球の隙間からさらに2発を打ち込んだ。

 毛むくじゃらの巨体は緑の鮮血を撒き散らしながら、少しだけ体を震わせたかと思ったがすぐに動かなくなった。

「くそ。臭い体毛がそこら中に」

 ニケは古びた私物の自動拳銃をホルスターに戻した。

「すごい、ニケ」

「ん? 何が」

「目がね、黄色に光ってた」

「そりゃまあ、ブレーメンだからな。本気を出したらこうなる」

 しかし──息を整えるようにして深呼吸をした。正式に成人したブレーメンなら、剣を持っているブレーメンならこの程度で息が上がったりはしない。これ以上テウヘルと遭遇すると身が持つかどうかわからない。

「移動しよう。とにかく味方と合流するんだ。3度目の幸運は無いかもしれない」

「え、今の実力じゃないの?」

「油断するつもりはない、という意味だ」

 銃弾の残りを確かめると再び走り出した。第1の防衛ラインは味方の強化兵の死体だらけだったが第2の防衛ラインに到着するとテウヘルの死体もあちこちに転がり、味方の一般兵が強化兵を指揮しながら応戦していた。

「リン、あそこの斜面を登っているテウヘル、背中に梱包爆薬を背負っている。見えるか」

「んーとちょっとまってね」リンは塹壕の壁をよじ登って土嚢の縁に銃を置くと照準器を覗き込んだ。「うへ、この距離で良く見えたね。距離は……っと1町半」

 リンはかりかりと照準器の距離を調整する。テウヘルの一団はすでに味方の重迫撃砲の陣地に迫っていた。

 1発目の銃声で1匹のテウヘルが倒れた。身構えたテウヘルの攻撃部隊に向けて果断な銃撃が加えられる。リンは素早い手付きでボルトを前後させ装填しては発射し、弾丸はバイタルポイントへ吸い込まれるようにして当たった。

 ずるずると塹壕の斜面を滑り降りてきて、リンは自慢げだった。空になった弾薬クリップを排莢し、新たなクリップを叩き込む。

「よくもまあ、あれだけ当てられるものだ」

「弾がこうしてこうして、こう飛んでいくから、腕の位置をこうしてこうして……頭の中で計算するの。あれ? ニケは苦手なの?」

「できるさ。教練で習った。だがもっと敵の近くで戦うほうが好きだし、狙撃は俺のしょうに合わなかった。たった6発なのにためらいなく撃てるのが──」

「すごいでしょ」

「ああ、すごいすごい」

 ぽんぽん、とリンの頭を叩いてやった。

「今の、もう一回してほしいな」

「何言ってんだ。早く戻ろう。分隊が待ってるし小隊長を怒らせたらまた面倒だろう」

 リンは不満げに頬を膨らませた。どこかその姿は遠く里で待っているであろう幼なじみを彷彿とさせた。剣技の力比べて負けるたびにこうして頬を膨らませていた。多少手心を加えて勝ちを譲ればその後数日間はその勝利を吹聴していた。

 もう戻れない日々。残された道は人々を守るために戦う道だけ。

 基地の外縁部にずらりと並んだ重砲が一斉射を繰り返した。大きく弧を描いて空中で炸裂し塹壕に迫るテウヘルを肉片と緑の鮮血に変えた。空中要塞が去って意気揚々と戦車も塹壕を越えて出撃した。

 2丈の口径がある滑空砲で粉塵の向こう側の多脚戦車ルガーへ直接射撃を食らわせていた。遠くテウヘルの攻撃部隊と味方の陣地の間で爆風で粉塵がもうもうと巻き上がっている。

 大丈夫。このままいけば勝てる。こちらは緩やかな丘の上の陣地にいる。そして周囲は遮蔽物のない荒野。敵の攻め方はひとつしかないし兵士たちも訓練通り動いていた。

 ニケが戦う味方の間を沿って歩いているときだった。地面が揺れて炎の熱い空気が顔や鼻腔に感じた。さっと身をひるがえすと、破壊された味方戦車の砲塔が宙を舞い、塹壕に落下した。何人かの兵士が巻き添えになって下敷きになるのがわずかに見えた。ニケが辺りを見渡すと次々と戦車が火の手を上げて行動不能になる。

 塹壕から僅かに顔を出して敵の姿を見やった。

 もくもくと立ち込める砂塵から多脚戦車ルガーが現れた。4枚の盾兼脚部は多少は被弾して変形しているものの戦闘能力は健全だった。戦車からの砲撃はすべて盾に弾かれている。車体下部と地面の間からは重機関銃が塹壕を丁寧に掃射し、対戦車ロケット弾を構えた強化兵の頭を吹き飛ばした。

 そして──ずらりと多脚戦車ルガーが並んだ。効力射撃の前兆。

 振り返って──叫んだ「伏せろ、リン!」



 どこまでもどこまでも──落ちていく感覚。

 どこまでもどこまでも──沈んでいく。いや漂っているのか。

 かつての幼なじみの顔が見える。まだ子供の頃の横顔で、腰まである長い髪がたゆたっている。畑の横に大きなため池があって、短い夏の間にそこで遊んだ。どちらが長く潜れるか、速く泳げるか。そんな他愛無たあいない勝負ばかりをやっていた。

「もう終わり?」

 自分の声だった。自分・・が、目の前で喋っている。

 沈んでいく自分、それとは真逆で正立したままじっと見ている。

 声──目付きが悪いのに。

 確かに、こうして自分の姿をまじまじと見たらひどく目付きが悪い。それなのにリンはあんなに懐いてくれた。

「もう諦めるのか?」

 夢? 幻? 鏡写しの自分? いや違う?

「そう、違う」

 もう一人の自分がニヤリと笑った。鷹揚に後ろ手に手を組んだまま逆さにぶら下がった自分の周囲を歩いている。

 しかし自分は声を出そうにも、出ない。指先ひとつも動かせない。

 姿がグニャリとねじれて変わった。知らない人。知らない顔の少女というより幼女。光り輝く金髪が水中のような空間にたゆたっている。

「まあまあ、ひとまず落ち着け、ブレーメンの人の子。思念共有、つまり君の頭の中に直接話しかけている。ゆえに主観時間は加速しているのだ」

 幼い子供の声だ──だが彼女の言葉の意味がわからない。

「生を諦めて死を迎え入れるとは。ここでも・・・・そうだ。どのをたどってもここで枝葉・・がちぎれてしまう。なんと嘆かわしい。ゆえに1つ約束をしよう、ブレーメンの子。現実世界ではおよそ0.001秒後にお前は死ぬ。その運命を変えてやろう。どうだ。約束だ。面白い世界線をつむぐために」

 一方的に話しかけてくる存在。その存在についての思い当たる節があった。

 嘘まやかしだと思っていた──邂逅かいこうの儀。シャーマンがア・メンと会話するというあの儀式。子供心ながら演技だと思っていたし大人たちだって真に受けていたわけじゃない。

 選ばれた者のみがア・メンと会話を行える。故に我らは神に愛されている民ブレ・ア・メンだと。

「──なぜだ」自分の声が出た。「そんなたいそれた・・・・約束があるというなら、俺は代わりに何をすればいい」

「ふむ、それがブレーメンのやり方か? だが我は一向に興味がない。ただ唯一。そう、小僧は世界線を無数に生む“変数”だ。ただ我をたのしませてくれたらそれで良い」

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