『裏2話』
リウル洞窟。ここは魔照石が採取出来る洞窟で、普段なら作業員が常駐して毎日騒々しく採石作業を行なっているのだが、今は先週発令された立ち入り禁止通達により、全ての作業を中断している。
「ディランからの連絡は?」
入口に手際良く結界石を設置しながら、マストが小声で確認してくる。こういう時は、さすがにあの間延びした話し方は封印されている。
「まだ、ありません」
「そうか、分かった。ここでディランからの連絡を待つ、リミットは30分だ」
そう言いながら最後の結界石を設置して、素早く結界魔法を展開していくマスト。この人はいつもながら本当に手際が良い。
その間、俺はディランにかけた『サイレント』の魔力感知を行いつつ、周囲を警戒していた…その時
ー『フォンッ‼︎‼︎』
ディランにかけた『サイレント』が突然強制解除された。これは『緊急事態の合図』だ。1人では対処できない敵に遭遇したか、緊急の救助者がいる可能性が高い。
「マスト隊長。ディランから連絡来ました。緊急です」
「場所は?」
「ミジク採掘場奥付近だと思われます」
「分かった。急いで向かおう。クイックを頼む」
「分かりました」
必要最低限の言葉を交わした後、俺はマストと自分に『クイック』をかけて、現場へ急行した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ〜…と、これは〜…」
現着するなり、マストがいつもの間延びした口調に戻って呟いた。この緊急時に、素にもどってる…これはかなり驚いてる反応だが…
…というか俺もかなり驚いた、いや驚いている。というのも、ここに来るまでの間は、どうせ立ち入り禁止を無視して、採石作業を行なっていた作業員が魔獣に襲われたのだろうと思ったのだが…
実際にそこにいたのは、低級魔獣に襲われて血を流して倒れている『魔石獣』と、その魔石獣を助けようとする『子供』だった。それも、その子供からは一切の魔力が感じられない…魔力量の少ない『劣等種』どころではなく、まるで絶滅した古代種、『人間』の様だ。
ー「ムゥゥ…」
魔石獣が苦しそうにうめいた。低級魔獣はすでにディランの魔法で絶命しているが、この傷は子供を庇って怪我をしたのだろうか、一目見て重症と判るほど出血量が多い、これはすぐに治療を開始しないとやばい。そう思ってマストの方を向くと…
「すまん、指示が遅れた。私は魔石獣の治療を行う。シスはこの子供の状態を見てやってくれ。ディランは周囲の確認を頼む」
さすが我らがマスト隊長。すぐに平静を取り戻して指示を出した。
それにしても、子供か…古代種どうこうはさておき、俺は子供が苦手なんだが…
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