『裏1話』

 四方を海に囲まれたミルズ大陸、その中央に位置する魔法共和国家『ツェントルム』

 この国は、異なる種族が協力して作り上げている巨大国家である。運営は周辺に在する各部族の国から選出された代表からなる議会によって行われる。国民は皆各部族の国から集められ、各国一定の人員を一定の期間派遣し、定住させる決まりとなっている。国内の各部族の勢力は常に公平に保たれ、争い事が起こることもない。時々、森や洞窟で発生する魔獣の脅威を除けば、この国は長らく安寧の時を過ごしていた。


▲▽▲▽


「お〜い、シス〜、ディラン〜、そろそろ出発だぞ〜」


 この、逐一間延びした喋り方で話しかけてくるのは国家警備隊第3部隊所属、先行隊リーダーのマストだ。ハイオークでは珍しく回復系魔法を得意とし、おっとりとした印象とは裏腹に、常に冷静な判断で、的確な指示を出してくる頼れる上司だ。


「ん〜。今日はリウス洞窟だな〜。先日、魔照石の採取に入った者たちが、低級魔獣を見たと言っているらしい。え〜我々は偵察隊として、現状を確認しにいくぞ〜」


「りょーかいッスっ‼︎」

「分かりました」


 北西の森で魔獣の出没報告が挙がり始めて早くも1ヶ月が経過していた。相変わらず初動の遅い国家警備隊がやっと腰を上げて派遣したのが我々国家警備隊第3部隊先行隊である。


「リウス洞窟かぁ、なぁシス。魔照石が落ちてたら持って帰ってもいいよな?ちょうど俺の部屋の魔照石、魔力がなくなってきてさぁ。部屋ん中暗いんだよなぁ」


 この…仕事現場で窃盗をしようとしているアホな獣人はディラン・バルフォイ。給料が入るとその日のうちに全額カジノに寄付をする危篤なバカ。


「お前、夜目が効くんだから照明いらないだろ。てかそもそも魔照石の加工出来ないだろ?」


「え?何言ってんの?もちろん加工はシスが担当だよ。お前加工魔法得意じゃん。あと、俺は夜目が効いても、夜を共に過ごす恋人達は違うからさ、そもそも明かりがないと、夜目が効く種族以外を部屋に連れ込めないじゃん、あはは」


 ああ、そうだった。こいつはバカの上に女ったらしのクズだった。


「お前達〜、もう少しで結界樹を超えるから警戒しろよ。あと、魔照石はパクったらすぐバレるからやめといた方がいいぞ〜」


 マストは歩く速度を少し落とし、警戒の眼差しで結界樹を見上げた。この木の先は定住者のいない地域で、用がない限りは立ち入りが禁じられてる。リウス洞窟はここからさらに北に進み、国境のギリギリ手前に位置する洞窟である。

 

「はい、これから先は結界の外で〜す。無駄口はなしでよろしく。んで、洞窟付近に着いたらシス、いつも通りディランに『サイレント』かけて、ディランはいつも通り先行、偵察してね〜、以上」


「ウィッス‼︎」

「分かりました」


 いつも通りの間延びした口調の指示で、我々は結界樹を超え、リウス洞窟へと足を進めた。

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