第1話 私にアレが?…そしてチュートリアル?

ポタ…

ポタッ…ポタッ…


「冷たっ…」


額に落ちてきた水音で目が覚めた私は、体を起こして、自分の額に触れた。この手触りにこの形…どうやら私はまた人間として生まれ変わった様だ。でも…


何か違和感を感じる…。


近くに姿を映すようなものがないので、とりあえず体全体を触ってみる。頭の髪の毛から顔…、鎖骨、胸部…そして腹部を、さらに下へと進めた時に、手に何か異物が当たった…


「んんんんっ⁉︎⁉︎⁉︎」


こ、このフニャっとしてる、ソフトな触り心地の物は…も、もしかして‼︎‼︎


慌ててズボンを引き下ろし…直接目で確認した私は…


「あ…ち〇こ、付いてる…」


と、思わず放送禁止用語を呟き、静かにズボンを引き上げた。


…。


こういう時にどういう反応をするのが正解かは分からないが、いまいち思考が追い付かず、薄い反応になってしまった。


それにしても…ここはどこだろうか?まるで洞窟の様な空間で、定期的に水滴が頭上から落ちてくる。外ではないが、人工的な建物の中ではなさそうだ。しかし壁面には光る石みたいなものが埋まっていて、トイレの照明くらいの明るさを保っていた。


…。


ともかく、今の自分の姿の事も含めて状況を把握しなければ…

 

-ドンッ‼︎

 

そう思った矢先に背中に衝撃を受けて、驚き振り返ったら…


「ムゥゥ〜」


なんと…背中にぶつかってきた物体は、可愛い毛皮フサフサの生物だった。楕円形のフカフカクッションに目とシッポをくっつけた様な姿で、なぜか額には綺麗なグリーン色の宝石が埋まっていて…


そして鳴き声は「ムゥゥ〜」って


「か、可愛い過ぎだろっ‼︎‼︎」


お、思わず大きな声を出してしまったが、その超可愛い物体は、なぜか私を見上げて「ムゥームゥームゥームゥー」と鳴き始めた。


「どうしたの?私に何か言いたい事があるの?」


ずっと鳴き続けてるので、何か言いたい事があるのだろうが…何を言ってるのか全然分からん。でもとにかく可愛い…。


はっ…‼︎ これはもしや異世界転生後の最初のイベント的なやつだったりして…仲間になりたいって言ってるのかな?


と、都合のいい解釈を思いつき、勝手に名前を考える事にした。


可愛くムームー鳴いてるから…やはり『ムームーちゃん』いやそのまま『ムー物体』…いやちょっと捻って『ムン助』…いややっぱり『ムーちゃん』

 

「よし、君はムーちゃんで決定だぁ‼︎」


「ムゥームゥームゥームゥー‼︎ ムッ〜‼︎‼︎」


あれ?なんだか猛烈に反論してるような大声になったけど…ん、あれ?いやそもそも…モンスターって最初から仲間になる設定だったかな?たしか最初に戦って勝利してから仲間になる的な感じだったかも…いやでもこんなに可愛いいし、モンスターって事はないよね…と思い、改めてムーちゃんに話しかけようと、しゃがみ込んだ瞬間…


「ムウォォォォォッ‼︎‼︎‼︎」


やはりモンスターだったのか、ムーちゃんががいきなり数倍くらいの大きさに巨大化して、私にぶつかって来た‼︎


ーバンッ‼︎‼︎


見事に吹っ飛ばされて背中から地面に落ちたが、それと同時に私を突き飛ばしたムーちゃんの呻き声が聞こえた。


「えっ、どういうこと⁉︎ムーちゃん⁉︎」


急いで身を起こし近づいてみると、ムーちゃんが毛のないトラみたいな動物に押さえつけられてもがいている…‼︎


「わ、私を助けてくれたの⁉︎」


なぜかは分からないが、状況的には私をトラみたいな奴からかばってくれた様である、が…あっ‼︎


やばいっ‼︎トラみたいな奴が、ムーちゃんに噛み付いてるっ‼︎ どうしよっ助けなきゃ‼︎


あまりの事に完璧にパニクってる私だが、とにかく助けなきゃと、近くに落ちていた小石を拾って思いっきりトラもどきめがけて投げつけた。


ーヒュゥゥ…ゴンッ‼︎


超安易な攻撃だったが、ぶつけた場所が奇跡的にトラもどきのこめかみ辺りにヒットしたようで…


「ガゥゥゥゥ……‼︎‼︎」


怒ったトラもどきがムーちゃんから体を離して、私の方をターゲットにし、唸りながら近づいてくる。


「ヒィィっ‼︎」


思わず情けない声を漏らす私、何も考えずに石投げたけどこれはやばい…。もしかしてこのトラはバグ?チュートリアルに出てこないでしょ、こんな強そうなモンスターっ‼︎‼︎


てか死ぬ前に異世界転生BLものを読んでいた私だけど、いざ自分がリアルに異世界転生したとなると…ここで何かチートな能力が覚醒するとか、そういう期待は一切湧いてこないのが不思議なもので、目の前に迫ってくる恐怖と、なぜか自分をかばってくれたムーちゃんの安否だけで頭の中でいっぱいになり、全く身動き出来ない。


うわ、もう目の前に牙が見える…っ‼︎


せめて、私が食べられてる間にムーちゃんは逃げてほしい…そう思って、目の前に迫る牙の前で眼を閉じた、その時…


ーーー‼︎‼︎


ピカッ‼︎ と強烈な光が空から降ってきた。(ような気がした。目を閉じていたから見えてはないけど)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る