チョコレートパフェとカレーライス
藤泉都理
チョコレートパフェとカレーライス
嬉しい事にお客様は仰ってくれる。
マスターが作るチョコレートパフェを食べると。
マスターが作るカレーライスを食べると。
思うのだと。
やっと安心したと。
二方のお客様が。
「安心する~う~」
赤ら顔の彼女がチョコレートパフェを一口食すと、とろけ顔になった。
「安心する~う~」
赤ら顔の彼はカレーライスを頬張って頬張って噛みしめながらも一気に食べ終えてから、とろけ顔になった。
長い期間を要した仕事が終えるとお酒をしこたま飲んだのち、この喫茶店を訪れて、彼女はチョコレートパフェを、彼はカレーライスを〆に食べるのだ。
「ありがとうございます」
マスターはコップに水を継ぎ足した。
それぞれ違う円卓に背を向けて座る彼女と彼に。
結婚式でお祝い申し上げた夫婦である二人に。
初めてだった。
二人が喫茶店で一緒に居る姿を見るのは。
連れ立ってきたわけではない。
へべれけ姿で別々に来たのだ。
先に訪れたのは彼女。
後から訪れた彼は後姿ではあったものの彼女を見ていた。
が。声はかけなかった。
気付いていないのか、気付いていても声をかけなかったのか。
マスターには分からなかった。
ただ、マスターもあえて彼女と彼にお互いの存在を知らせなかった。
声は聞こえているのだ。
多分気付いていて、それでも話しかけていないのだと思うのでそうしたのだ。
酔っぱらっているので、気付いていない可能性も高いのだが。
「マスター。いつもありがとうね~」
チョコレートパフェをゆっくり食べ終えてお水も飲み干した彼女は、勘定を済ませると喫茶店を出て行った。
タクシーを呼ぼうか。
毎度考えるが、足元はしっかりしているので結局呼ばず仕舞いで終わるのだ。
「マスター。いつもありがとうね~」
カレーライスを三皿食べ終えてお水もたくさん飲み干した彼は、勘定を済ませると喫茶店を出て行く。
タクシーを呼ぼうか。
毎度考えて、足元はしっかりしているので結局呼ばず仕舞いで終わるのだ。
が。今日は違った。
出て行ったはずの彼は扉を開けて戻って来るや否や、眩い笑顔を向けて。
そして。
「本当にありがとうなあ。ますたあ。いっつも。これで。安心してあいつに会える~」
撫で声でそう言ったのだ。
「またのご来店を」
マスターはにっこり笑って、彼も見送ったのであった。
今日はきっと一人で家路を辿ってはいないだろう。
チョコレートパフェとカレーライスの容器を片付けながら、肩を並べて歩く彼女と彼を思い浮かべるのであった。
(2023.2.3)
チョコレートパフェとカレーライス 藤泉都理 @fujitori
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