第68話
「のう、蒼夜よ」
「ん?なんだ?月読」
俺が居間で蒼月の手入れをしていると、紅葉と料理をしているはずの月読がやってきた。
「そこそこ前に、其方が喚んだ式神がいるだろう?」
「ああ、冥奈のことか?」
「うむ、その通りだ」
あの娘は、喚んだ後はそのまま家に置いている。今は...まあ、どっかにはいるだろう。
「それで?冥奈がどうしたんだ?それに、料理中だったはずだろう?」
「む、料理の方は大体終わって、あとは煮物を煮るだけになった故、紅葉に任せてきた。冥奈のことを聞いたのは、あの娘のことは昔から見守っておったからだ」
「そうなのか?」
まあ、確かに修行していたとはいえ、あそこまで月の力が強いのも珍しいが、加護とまでは言わずとも、月読が干渉していたなら納得だな。
「それじゃあ、喚び出すか?」
「ああ、頼めるか?」
「そのぐらいは良いさ」
さて、冥奈との間に繋がっているパスを辿って...ああ、今は天峰家が持っている山の中にある湧き水の出る池にいるみたいだな。
【冥奈?今来れるか?】
【あ!主人なのです!はい、冥奈はいつでも主人の元に行くのです!】
うむ、元気なようでよろしい。
冥奈の許可をもらった俺は、霊術を使い居間に冥奈を召喚した。なお、召喚の際に水などはしっかり拭かれた状態で来るので、居間が濡れたりなどはない。
「主ー!」
亀の状態で召喚された冥奈は、俺を見るなり人化すると、そのまま抱きついてきた。
最近抱きつかれることが増えたような?
そんなことを思っていると、興奮した冥奈は俺の胸に何度も頭突きをしてきた。
「主、久しぶりなのです!会いたかったのです!」
「痛っ、会えなかったのは謝るから、痛いから頭突きはやめなさい。月読もいるんだぞ?」
「ふえ?月読様ですか?」
ふう、助かった。
月読の名を出すと、冥奈は頭突きを止め、辺りを見まわし始めた。
そして、月読を見つけると、「ぴぎゃっ」と言う変な奇声とともに石のように固まってしまった。
「お、おい冥奈?どうした?」
俺の呼びかけにも答えない。
「何かしたのか?月読」
俺がそう問い掛ければ。
「い、いや!我は何もしておらぬ!ただその娘を見つめただけだ!」
と、慌てて弁解した。
うーん?なら何でこうなったんだ?
冥奈が固まった理由がわからず、俺と月読も固まっていると、
「ん?貴様等何を固まっている?」
「あ、ああ、紅葉か。いや、な?冥奈を喚んだのは良いんだが、月読を見た途端固まってしまってな。どうしたものかと思ってたんだ」
俺が状況を説明すると。
「ふむ?そんなことか。ならば簡単な話だ。冥奈は数千年にわたって修行していたが、その中で生来の水の力の次に月の力を多く蓄え、己のモノにした。そして、そこな月読は月と夜の神故な。驚きのあまり固まって...いや、その様子だと気絶したようだな」
つまり...
「月読が原因ということだな?」
「その通りだな」
そうして納得していると。
「ちょっと待てい!」
「「なんだ原因」」
「いや確かに我が原因かも知れぬが、我を一方的に悪者扱いするとは何事か!」
「いや実際の所、冥奈が気絶しちゃってるのは事実だし」
「うむ、小娘が気絶したのは貴様のせいぞ?」
「貴様らーー!」
こうして、冥奈が気絶から帰ってくるまで、月読の
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「大丈夫か?冥奈」
「はいなのです。ずっと憧れていた月読様に会えてうっかり気絶してしまっただけなのです」
ふむ、気絶から起きた冥奈の言い分を聞く限り、原因は月読だが、月読は悪くないようだ。
まあ、当の月読は「我のせいじゃないのに...」とか、「驚かせる気なんてなかったのに...」などと言って部屋の隅でいじけてしまっている訳だが......少し揶揄い過ぎたか。
「あー、月読?揶揄ったのは謝るから、部屋の隅になんていずにこっち来よう?」
「その通りだぞ月読。少し揶揄った程度でいじけおって」
「やっぱり我を揶揄っておったのか!」
「「そうだが?」」
やばいな。月読の反応が楽しくて、ついつい紅葉と一緒に揶揄ってしまう。
まあ、それは置いておいて。
「月読は冥奈に用があったんだろう?冥奈も起きたんだから、用を済ませたらどうだ?」
「ぐぬぬ、確かにそうだが...其方らが我を揶揄ったことは忘れぬからな?」
「はいはい」
恨みがましく此方を見る月読を適当に受け流し(ここ十年で鍛えたスキル)冥奈の背中を軽く押して、月読の方へと行かせた。
「あの......月読様?」
「なんだ?冥奈よ」
「月読様が冥奈を呼んだって主に聞きましたです。冥奈にどんなご用があるです?」
冥奈は少し怯えながらも、月読の前まで行き、そう聞く。
「ふふ、簡単な話よ。其方は数千年も修行して、しかも自覚はないかも知れぬが我を強く信仰していたからな。蒼夜の元にいるようだし会おうと思ったのだ。まさか我が其方を怒るために呼んだとでも思ったのか?」
冥奈が怯えているのを察した月読は、冥奈を膝の上に抱き寄せて、頭を撫でながらそう言う。
「うぅ〜、はいなのです。怒られると思っていたです」
「ふふふ、何も怒ることなどないのだから其方を怒ることなどあるわけがなかろう」
月読はそう言うと、更に強く冥奈を抱き寄せ頬ずりまでし始めた。
それを見ていた俺と紅葉は
「なんか和むな」
「うむ、親娘のほんわかとした場面を見ているようで、心が安らぐ」
と、紅葉が淹れてくれたお茶を飲んでいた。
「そう言えば、月読は紅葉にあとの料理を任せたと言っていたが、来て良かったのか?」
「残りは簡単な行程しか残っておらぬ。故に分身を出して任せてきた」
「料理にそんな高等技術を使うなよ」
「別に構うまい」
「はあ」
蒼月の手入れはともかく、符の方はいくつか書いてないんだが、まあいいか。
俺は、無駄に高等技術を披露した紅葉に呆れながらも、月読と冥奈の様子を見ながら、料理が完成するまでゆっくりとする事にした。
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公開時間間違えた。_:(´ཀ`」 ∠):スマヌ
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