第64話








 高校襲撃から一月、あれから俺は高校に一度たりとも通えていない。

 理由は簡単で、あれを皮切りに邪神の信徒や魔界の奴らがあからさまに動くようになって俺にも仕事が回ってきたからだ。


「だけど多くね?」


 そう、多いのだ。確かに一人一人が邪神の加護でも受けているのかやたらと強いが、それでも俺に回ってくる仕事が多すぎる。

 そして、もう一つ面倒...いや?面倒というほど面倒ではないんだが、なんとも言えないのが


「仕方ないわよ。他の方々は方々で封印されている大妖が解き放たれないように監視したり、解き放たれた大妖を討伐したりしているんですもの」


「確かにそうだがな」


 あの襲撃以来、美雪が一時的に里に帰っているのを聞いたのか、宝生院菫が俺に付き纏うようになった事だ。


 まあ、付き纏うとは言うがストーカーみたいなものではなく、いつの間にか俺の両親や紗枝、紅葉に美雪にまで許可を取って来て、とても拒否できる状況ではなかった。


「それはそうと、高校中退とか嫌なんだが?」


「仕事の最中は公欠扱いだから安心しなさい。それに、私がこうして貴方について来ているのも、補佐もあるけれど勉強で不足しているところを休憩時間に教えたりするためだし。まあ、貴方の場合歴史以外は問題ないみたいだけど」


 そりゃそうだ、これでも前世はそこそこいい大学行ってたからな。流石に歴史は一部の偉人の性別が逆になってたり、やった偉業が違ったりしていたから勉強することになったが。


「それと、そろそろ邪神や魔界関係は一旦落ち着くみたいだし、明後日ぐらいからは高校に行けると思うわよ?」


「本当か?」


 実際高校デビューはオワタ\(^o^)/ぐらいに思っていたから、行こうが行くまいがどうでも良くなっていたが、まあ行っておこう。


「ええ、本当よ。それと、私も明後日ぐらいに教師として復職するから困った事があればいつでも会いに来ていいわよ」


「それは有難いな。なら、頼らせてもらうよ菫」


「ええ♪いつでもどうぞ♪」


 おおう、やけに上機嫌...


「それじゃあ、今までありがとう。明後日...からか?高校でも頼むよ」


「ええ、私も楽しかったし、学ぶことも多かったわ。高校では教師と生徒の関係にはなるけど、私には敬語を無理に使わなくてもいいわよ?」


「それは...まあ、元に戻すのも面倒だしそうさせてもらうか」


 こうして、仕事漬けの日々は終わり、俺は菫と別れて家に帰った。





_________________________________________

_________________________________________






「ただいま〜」


「おお、帰ってきたか」


 俺が家に帰ると、父さん達は出払っているようで、少数の召使と紅葉しかいなかった。


「ああ、紅葉か。すまんな、最近仕事ばかりで構ってやれなくて」


「構わぬ。夫の帰りを待つのも妻の務めと言うだろう?それに、その間料理を練習してな、そろそろ帰ってくる頃合いと思い作ってある故、是非食べてくれ」


「へえ、それは楽しみだな」


 ちなみに、紅葉は別にメシマズではない。ただ、作る料理は平安、戦国、江戸などの昔ながらな和食が多く、最近の食事を色々と聞いてからは母さんに習ったりスマホで調べたりして、洋食や中華を作れるように練習していたようだ。


「それで、何を作ったんだ?」


「鍋だな。少し季節外れかも知れぬが、滋養強壮に良い物を多く摂れるのが何かと考えると、鍋を思いついてな。それにしても今の時代は良いな。様々な調味料があり、料理が楽しい」


 鍋か。最初に紅葉の手料理を食べた時は、白米に味噌汁、焼き魚に漬け物といった標準的な和食だったが、十分に美味しかったし、勉強して様々な調味料を使えるようになって作った料理と考えると楽しみだな。


「それじゃあ早速食べようかな」


「うむ!吾は食器などの準備をしてくる故、着替えてくるといい」







_________________________________________

_________________________________________





「どうであった?」


「ああ、とっても美味かったよ。大満足だ」


「それは良かった。あれだけ美味そうに食べられるとは、作った甲斐があったと言うもの」


 いやあ、本当に美味かった。鍋は醤油と出汁ベースで野菜も味が染みて美味かったし、他にも長芋をすったとろろなんかも美味しかった。


「ところで、蒼夜よ。今夜吾の部屋に来てくれぬか?」


「おう?そりゃ、いきなりだな。まあ、今夜は暇だし構わないが、何の用か聞いてもいいか?」


「それは内緒だ。来てくれればわかる」


「わかったよ。それじゃあ八時くらいに行けばいいか?」


「うむ、待っておるからな」


「ああ」


 それにしても用事ってなんだ?街に出たいとか?でもそれなら父さん達にでも聞けばいいわけで...


「うーん、分からん」


 分からないことは棚上げして、自室まで戻った俺は着替えを持って、疲れを癒すために風呂に向かった。







_________________________________________

_________________________________________


 今更ですけど、霊術の中には体の汚れを消し去ってうまい具合に保湿してくれる便利なものがあります。なので、数日間仕事のしっぱなしで風呂に入ってなくても清潔そのものです。


 あと、作者はクタクタに鍋の出汁を吸った白菜が好きです(これが美味い)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る