第59話





 陣の放った光に俺たち三人は咄嗟に目を閉じた。


 そして、光が消えて目を開けると陣がなくなり、陣のあった場所にいたのは一尺程度の全身真っ黒なニホンイシガメだった。


「キュイキュイ」


 そのニホンイシガメは俺の方に歩いてくると、目の前に止まり頭を上げて可愛く鳴いた。


「お前が俺の呼び出した霊獣か?」


「キュイ」


 ふむ、意思疎通はできるな。まあ、霊獣だから知能は高いのだろう。だが、見た目で判断する気はないが随分小さいな。


「お前のその姿は本来の姿か?それとも小さくなったり変身したりしているのか?」


「キュー...キュイィ...」


 んー?これは肯定と否定か?と言うことは変身では無く大きさを小さくしているだけか。


「そうかそうか。小さくなっているのか。ところで、俺は式神契約のためにお前を呼んだのだが、契約してくれるのか?何かしら条件があるのなら出来る範囲ではやるが」


「キュイキュイ、キュアァ〜キュ」


「へぇ、霊力供給と美味いものか、量もそのぐらいなら問題は無いぞ」


「キュイィ〜」


「ああ、契約成立だな」


「ちょっと待て」


 と、亀と交渉して契約を結ぼうとしたところで、何故か固まっていた紅葉から待ったがかかった。


「どうしたんだ紅葉?交渉は問題なく済んだが...」


「ああ、いや、交渉自体は問題ないと思うぞ。ただ、この亀に聞きたいことがあってな」


「聞きたいこと?」


「そうだ」


 まあ、問題ないだろ。俺も契約が済んだら色々聞こうと思っていたし。何故詳しく調べもせずに契約しようとしたかって?一目見て気に入ったからだが?


 それはそうと、紅葉が亀と話し始めたな。


「まずは貴様はなんという名だ?」


「キュイ」


「なに?名前が無いだと?まあ、それは良い。それにしても随分月や夜の力を感じるが、月読から加護でももらっているのか?」


「キュキュイ、キュアキュイ」


「ほぉ?修行していたらこうなったと?なるほど、いつもは池や湖などの水の中に潜み月夜だけ水から出て月の光を吸収していたのか。ふむ、力の積み重ねを見ると少なくとも数千年は生きているようだしそれ相応に強いだろうな」


 へー、召喚した亀は思ったより凄かったみたいだ。


「ところで紅葉、そろそろ契約してもいいか?」


「ん?ああ、すまないな。もちろん構わん。それと、契約したら名前をつけてやるといい。此奴は名前がないようだからな」


「わかった」


 それじゃあ、契約しますかね。

 俺は亀の頭に手を乗せ詠唱を始めた。


『今ここに、森羅万象を通し我と汝、えにしを結ばん』


『契約』


 すると、俺と亀の体が少し光、霊力のパスのようなものが繋がった。


「それじゃあ、これからよろしく頼む」


「キュイ!」


 お?契約を結んだからか何を言いたいのか、より正確にわかるな。それにいくつか情報が流れてきたが、紅葉の言った通り年齢は細かくはわからないが数千歳、あと種族名が...これは鏡月霊亀きょうげつれいきかな?初めて聞くが、新種なんてこの世界では珍しくないからいいか。


「はっ!」


 そうしていると、紅葉と一緒に固まり、ずっと動かなかった父さんがようやく動き出した。


「父さん、俺コイツと契約したから。よろしく」


 とりあえずそういうと。


「お、おお、わかった。オレは少し用事を思い出したから先に行くぞ?」


「え?ああ、わかったよ」


 何故かぎこちない動きで移動していった。


「それで蒼夜よ、此奴に名前をつけねばならんぞ?」


 と、亀を指でおちょくっている紅葉に言われた。あっ、指噛まれた。


「そうだなぁ、でも何か良さげな名前思いつく?」


 そう俺が聞けば


「知らぬ、蒼夜がつけよ。そもそも我は名付けなどしたことが殆ど無い」


 と、亀を指先にぶら下げながら言った。

 

 てか、それ痛くない?え?痛くないの?まあ、いいけど。


 名前なーどうしようなー。

 そう考えていると、ふといい名前が頭に浮かんだ。


「うん、冥奈めいなにしよう」


 すると、それを聞いた亀は紅葉の指から口を離し、こちらを向いて嬉しそうに


「キュイキュイ!」


 と、鳴いた。


 よし、気に入ってくれたみたいだし何より。


 名付けに満足していると、紅葉が


「ほう、しっかりと女子の名をつけたか」


 ん?


「どういうことだ?」


「なんだ、気付いていないのか?冥奈は雌だぞ?」


 知らんがな。


「お前女だったのか?」


「キュイ」


 マジかよ。


「冥奈は人化を知らぬ様だからな。あとで教えてやろう。其方が望めば吾と一緒に蒼夜を夜這いしても良いぞ?」


「キュア?キュイキュイィ♪」


 驚いた俺を置いて、紅葉と冥奈はそんな会話をしながら戯れていた。


 なお、それを聞いていた俺は驚きを抑えた後に紗枝に対する言い訳を考える必要が出てきたかもしれないことに胃を痛めていた。


 はぁ






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 亀は本来鳴き声はありませんが、物語描くのが大変になるので勝手に鳴き声突っ込んでおきます(まあ、神獣だしええやろ)

 また、亀は大山咋神の神使ですが別にいいとします(無理矢理でもいいなら月読の占いと亀甲占いでゴリ押しですかね)


 あと、詠唱文の参考になりそうなのあったら教えてくれません?(頭捻っても出なくなってきたよ)_:(´ཀ`」 ∠):

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