第55話
「ふぅ〜」
今、俺は緑茶を啜っている。まあ、昼食後の休憩時間みたいなものかな?
ちなみに、昼食は焼肉だった。なんでも美雪の故郷である雪女の里から熟成肉が送られてきたらしい。
雪女の里は雪女たちが暮らしやすいように、一年中雪で覆われているから、肉やら魚やらを腐らせずに熟成させたりする技術が発展しているんだと。
「そう言えば蒼夜様。当主様達がそろそろお帰りになられると先程連絡が来ましたよ」
そんなことを考えていると、紅葉にスマホの使い方を教えていた美雪が、思い出したようにそういった。
「ん?そうなのか。思いの外長くかかったんだな。帰ってきたら依頼の内容がなんだったのか聞いてみるか」
なお、父さんたちに紅葉のことを説明しなければならないわけだが、特にこれと言って良い案は思いついていない。そして、俺が頭を悩ませる元凶であるこの鬼は、美雪に使い方を教えてもらったスマホに齧り付き、「ほー」や「ふむふむ」などと夢中になっている......ゲンコツ落としてもいいかな?
「む?何か吾にようか?」
どうやら俺の不穏な考えを察したらしく、紅葉はスマホから顔を上げて俺の方を向いた。
「いや?父さんや母さん達にお前のことをどう説明したらいいのかと考えていただけだ」
俺はゲンコツしようなどと考えていたことを悟らせないよう大袈裟に肩をすくめた。
「説明ならば簡単だろう。俺の嫁と言って抱き寄せでもすればそれだけで説明になる」
えー、ここにブァカがいます。そんな事したら両親と紗季さんはともかく、紗枝が黄泉津大神になって文字通りの地獄になる。
俺は自意識過剰ではないが、紗枝が稀に見せる俺への執着心はちょっと度を越して以上と言えるほどだ。そんな紗枝の目の前で嫁だと言いながら抱き寄せるなど、ただ自殺志願者である。
そのことを紅葉に説明すると
「ならば仕方あるまい。吾と蒼夜の馴れ初めを一から説明するとしよう。なに、鬼の女が己を倒した相手に惹かれてその相手と夫婦になるのは別に珍しくもない」
アンタ最古の鬼神だろ。普通の鬼と一緒にできるかい。
そう思っていると、紅葉は続けてこう言った。
「それに、再三言ってはいるが吾は蒼夜が吾以外に何人娶ろうが、しっかり吾のことを見ているのならばそれでいいからな。そもそも、既に美雪と月読を堕としているのだから今更一人増えたところで気にするはずもない」
まあ、確かにそう言ったけど...それに二人を堕としている自覚はあるけども...
「って、紗枝は妹だぞ!?嫁にするわけないだろ!」
「可笑しなことを言う。別に兄妹間で結婚する事など珍しいだけで無いわけではない。それに、既に超越者となった以上神の端くれと言える故、血が濃すぎて問題が起こるということもない」
「ぐっ!」
そう、紅葉のいっていることは何ら間違ってはいない。何を隠そうこの世界、兄妹間で結婚してはダメなどという法律がないのだ。
そのせいで、兄妹間で結婚している人々はいるし、退魔師の本家筋の人の中にもあまり公にされていないだけで多少は兄妹婚をしている者はいる。
「確かにそうなんだが...そうなんだがぁ...」
だが俺は前世の記憶を持つ者。こちらの世界に染まり、記憶が薄れている部分も少なからずあるが、覚悟を決めた上で一夫多妻に対しウジウジする程度には前世の倫理観を引っ張ってはいるわけで...
まあ、この執着が恋愛的なモノではなく物に対する執着と同じ可能性も捨て切れないので、その時まで先延ばしにするとしよう。
「はあ、とりあえずその話は一旦置いておこう。それで、説明するにあたって問題とかはないよな?昔に退魔師の家の当主やら嫡男やらを殺していたりしたら面倒なことになるんだが、そういうのはないよな?」
紗枝のことを未来の自分に託した俺は紅葉にそう聞いた。
実際、人間と契約を結んで友好的になった妖の中にはかつて退魔師を殺した存在も少なくない。理由は様々で、単純に妖だから攻撃して返り討ちにされただの、退魔師側がクズで手を出した結果殺されただの、他にも妖側が瘴気などで狂った結果殺してしまっただのと、色々ある。
ただ、こういった記録が退魔師の家に残っていると、中には敵討や汚名返上のためにその妖に復讐しようとする手合いが少なからずいる。そういった場合は御三家が間に入るんだが、紅葉の強さを考えると御三家の当主を殺していたりしていても何ら不思議ではないので、こうして聞いたのだ。
「なるほど、確かに怨みなどは千年以上の時が経とうと残る事も多いからな。だが、吾は特に誰かを殺したりはしておらん。殺しても大体が退魔師として追放された救い用のない者達だし、御三家とも軽く手合わせをしたことはあれど、何かしらの怨みはない」
「それなら安心だ」
なら後は俺が上手く説明するだけだな。
ちなみに、美雪はこの話の間ずっと俺にスマホを向けて写真を撮っていた。
何やってんの?
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イェーイイェーイイェーイ(壊れた)
最近本当に暑いですね、作者は電車で着けるマスクに対してブチギレてます。
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