第53話
「どうした?」
俺が考え込んでいると、月読はそう聞いてきた。
「いや、なんでもない。少し考え事をしていた」
それにしても、高校入学少し前にしてようやくストーリー開始か。もしかしたら楓を護衛した日の出来事がきっかけかもな。元々妖が増えているとかは十年前からあったが、あくまで少しだったし。
「それならいい。では本題に入るとしよう」
「さっきのが本題じゃないのか?」
「確かに重要だが、他の神も人々に知らせているからそれほど重要ではない。今回我が呼んだ本題は紅葉のことだ」
「紅葉のこと?」
なんだろ?この感じだと嫉妬とかではなさそうだが、さりとてふざけた内容でもなさそうだな。
「蒼夜よ、其方は紅葉についてどれほど知っている?」
「そうだな。鬼であることは当然として、力を制限しているのとかなり古くからいる存在ってことぐらいだな」
「その通り。大まかには合っている。より正確に言うのなら、紅葉は鬼の中では最古の鬼神であり、力も制限しているとはいえ我や姉を始めとした上位の神とも正面切って戦える存在だ。毘沙門天や不動明王などは何度も悔しい思いをさせられているようだがな」
マジか?割とシャレにならんな。前世の神話などと違って迦楼羅などが伝承通りにインドラなどより百倍も強いなどと言うわけではないが、上位の神はその位にあった力と権能を有しており、決して侮れる存在ではない。
しかも最古の鬼神ってことは月読と同年代って考えることもできるよな?
「それって相当じゃないか?建御雷神や素戔嗚尊なんかとも同格って考えても良さそうだが...それに最古というぐらいだし年に至っては月読と同じぐらいなのでは?」
「実際、あのバカでマザコンの弟は徹底的に叩きのめされたし、建御雷は稽古をつけてもらったことが何度かあるそうだぞ?年に関しては詳しくは知らん。アレと初めて会ったのは生まれてからそれなりに年が経ってからだった故そこまで差はないだろうが細かい数字はわからん」
そこまでとは知らんかったな。あとで本人に詳しく聞いてみるか。
「へー、でもなんで紅葉のことが本題になるんだ?」
「我がアレのことを知らぬからだ。アレは鬼神であるが故に何処ぞの邪神よろしく変な誘惑などはしないだろうが、我のように神域から人の世を見てきた神ならいざ知らず、ずっと引きこもっていて埃を被った骨董品はどのような行動をするかわからぬからな」
めちゃくちゃに言われてるな。ただまあ、否定できないところもあるにはあるわけで...
そう思い俺が口を開こうとすると、後ろから声が聞こえた。
「随分な言いようではないか月読。そんなに蒼夜が吾に取られぬか心配か?安心せよ、此奴は吾が一人で独占できるほど小さな男ではないし吾自身独占しようとは思っていない」
後ろを振り返ると、そこには紅葉が立っていた。なるほど、これまでの話を聞いていなかったら驚いただろうが、話を聞いた後だとこのぐらいは出来るのかとむしろ納得してしまうな。
「来て早々なんだ。別に貴様如きに取られる心配なぞしておらぬ。そもそも、いつ我が此奴のことを好きだなどと言った?」
「可笑しなことを言うではないか。加護を与えた以上それ相応に蒼夜を気に入っているのだろう?それに、仮に好きでないとして何故吾が好きかどうかを言っていないのにそのようなふうに言ったのだ?」
「なっ!そ、それは話の流れでだな...!」
「ほれ、どもっておる。全く誤魔化せていないではないか。素直になればいいものを」
「だから違うと言っているだろう!!」
ふーむ、いきなり来たと思ったら月読と口論になるとは...にしてもどうやって来たんだろ?空間系の霊術に転移なんかはあるし、俺も使えるけど似たものだったら後で教えてもらおうかな。
俺が考え事をしていると二人の口論も終わったようだ。
「まあ、そこまで認めないなら仕方あるまい。それで?蒼夜と何を話しておったのだ?」
「ふん!ただ貴様に注意しろと言っておいただけだ。ほとんどの神やそれと同等の力を持った者達が皆神域や己の作った領域へと消えたというのに、あいも変わらず人の世をふらついている最古の鬼神など危険物でしかないだろう」
あながち否定できない。
「確かに危険物と言えるな」
認めるんかい。
「だがまあ、無闇に騒ぎを起こすつもりはないぞ?無事夫も見つけられたしな。ハエが鬱陶しければ手も出すだろうが、基本はのんびりするつもりだ」
「別にそこまで心配はしていない。平安の世や江戸の世、何かと面倒の起こる時代においても貴様は馬鹿騒ぎなどは起こさなかったからな」
「そう言ってもらえるとありがたい」
「だが、あまり蒼夜に面倒を掛けるなよ。其奴は我が気に入っているのだからな」
「そのぐらいはわかっておる。大体、もうしばらく後とはいえ伴侶になる相手に面倒ばかりかけるほど落ちてはおらぬ。ではな、蒼夜。吾は先に戻る。この拗らせた神に何かされそうになったら吾に言うが良い」
「誰が拗らせた神だ!この場で斬り捨てられたいのか!?」
「ではな」
紅葉はそう言うと、姿を消した。目の前で見た感じだとやっぱり空間系の術のようだ。
ちなみに月読は額に青筋を立てているが、怒っても仕方ないと思ったのかため息をついて首を振った。
「まったく。アヤツめ、今度あったら一度は平手をくらわせてやる」
「それにしても二人は元々顔見知りみたいだったが、どこであったんだ?」
俺は苦笑いをしながらそう聞いた。
「む?まあ、初めて会ったのは我の領域だったな。姉に任せられた国にいたわけだが、旅をしていたらしい奴にもそこで会った」
「相当昔みたいだな」
「そうだな。絡みは少ないが、昔は時たまあってはいた。...ところで蒼夜よ、先程紅葉が我のことを揶揄っていただろう?」
あー、俺のことを好きだとか嫌いだとかのことかな?
「あー、そうだな」
「その事なのだが、売り言葉に買い言葉で好きでは無いなどと言ったが、真に受かるでないぞ!?」
「あ、ああ」
それって...どういうことだ?
「ともかく!我の話はもう終わりだ。邪神どもの件、くれぐれも気をつけるのだぞ」
月読はそういうと俺に向かって手を振った。
俺は、送還されるのだと気付き大人しく受け入れた。
チュッ
そして、唇に触れた柔らかい感触と、「我は貴様のことが好きだ」という月読の言葉を聞きながら俺の意識は白く塗りつぶされた。
_________________________________________
やあ(´・ω・`)
生きてるよ( ˙-˙ )
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます