第52話





「ぐでーー」


 家に帰った翌日。俺は有言実行とばかりにだらけていた。

 昨日は帰ってきてからすぐに寝てしまい、起きたのは今日の朝だった。


 幸い?父さん達は、依頼があったようで総出で対処しに行っているようだ。


 まあ、少なくとも紗枝に対する言い訳を考える時間ができたのは良かったと言える。


「ほほう?では我に対する言い訳を聞こうか?」


 俺はその声が聞こえると同時に、真っ白な空間に転移させられていた。

 てか、ここって五歳の時に月読様に加護を受けて、その後も夢の中とかで呼ばれてた場所じゃあ...?


「こちらを向け。我を無視するのか?」


「ふぁ!?」


 もう一度声をかけられ確信した俺は、頭の中が真っ白になり飛び起きた。


「これは月読様。昨夜はお力をお貸しいただきありがとうございました」


「そのことは別によい。それより、我に言い訳があるのではないか?」


 言い訳?そう言えば最初も言い訳を聞くとか言ってたな。でも言い訳と言われても何を言えば......ん?

 

 訳が分からなかった俺は月読様を見てある事を思い出した。


 その事とは美雪と遊んだらしている時に紗枝が向けてくる嫉妬の視線だ。まあ、正確には美雪に向けてだったんだろうが、あの時の視線は嫉妬の感情が多分に含まれていた。

 そして、月読様はあの時の紗枝の視線と同類の視線を向けてくる。本来であればわからなかっただろうが、仮にも超越者の壁を越えた身。そのぐらいは察知できるようになっていた。


「嫉妬......?」


 そして俺はつい口に出してしまった。


ギロッ


「ひぇ!?」


 睨まれた。

 月読様に思いっきり睨まれた。多分図星をついたんだろうが、このままではマズいと思った俺は急いで言い訳をするべく口を開いた。


「あの、月読様...」


「月読」


「えっ?」


「月読」


 俺は彼女の言葉に当時のことを思い出した。


【流石に呼び捨てはできないから月読様と咲耶様でお願いします。】


【むう、今はそれで良い。その代わり壁を超えて超越者だったか?その境地に至った時は我のことは呼び捨てで呼べいいな?】


 だったはずだ。つまり...なるほど、呼び捨てで呼べと言うことか。


「えっと...月読?」


 俺がそう呼ぶと、彼女は普段無表情な顔を満面の笑みに変えてすぐ側まで寄ってきた。


「もう一度」


「月読」


「もう一度」


「月読」


「もう一度!」


 いや待て。流石に話が進まないからいい加減やめないと。


「あーもう!話が進まないだろ!後で何回でも呼ぶから一旦ストップ」


 俺の言葉に月読は


「むぅ、仕方あるまい。後でもっと呼ぶのだぞ?絶対だからな?」


 と、子供のように言ってきた。


「わかったから。それで?俺を今回呼んだのは名前の呼び方とか、言い訳とかのため?」


「それもあるが別のことだな」


「別のこと?」


 月読は俺が尋ねると、いつもの顔に戻り真剣な声で言い始めた。


「内容としては蒼夜が連れ帰った紅葉に関することもあるが、他のこともある。まずは他のことを話そう。紅葉のことは簡単ではないからな」


「わかった。それで?他のことの内容は?」


「蒼夜も退魔師として活動しているなら魔界などと呼ばれている場所のことは知っているだろう?」


「そりゃもちろん」


 魔界。最初に聞いたのは初めて妖退治に出た時で美雪から軽く聞いただけだった。その後退魔師に関して勉強するにつれて、魔界とは回廊と呼ばれるこの世界と魔界を繋ぐ通路によって行き来ができる。そしてその回廊は全世界にあり、場所は決まっていて日本では退魔師が、西洋なんかでは魔術師ウィザード払魔師エクソシスト、あとは教会などにおける異端審問官や聖騎士などが常駐して監視している。まあ、それとは別にランダムで短期的に開いて一定数の妖を送り込み閉まる回廊もあるが、それに関しては詳しくわかっておらず、向こうの知能の高い妖がやったとか自然現象だとか言われてる。

 俺としてはどっちもアリだと思うけどね。美雪の故郷の雪女の里みたいに人と契約していて、知能面であれば高い知能を持つ妖も少なくないし。


「それで?魔界がどうしたんだ?」


「その魔界で色々とゴタついているみたいなのだ」


「ゴタついてる?」


 どう言うことだ?もしかして魔王的なのがいて国を作ってるとか?...普通にありそうだな。

 それで国の中で混乱が起こりコッチにまで影響を及ぼしているとか?


「蒼夜のことだから予想はしているだろうが、魔界にいる妖は知能が高いモノが多い。まあ、同種であっても知能が高い個体と低い個体がいるが上位の力を持つ妖の多くが高い知能を持っていると考えていい。そして、その魔界には人間達に対して侵攻しようとするモノも少なからずいる」


「それは予想していたよ?でも何か問題なのか?昔にも普通にありそうだけど百鬼夜行的な感じで」


 この世界だと百鬼夜行は何種類かあって、前世みたなモノや人為的なもの。多分魔界が原因のもあるだろう。


「確かに今までもあったが、今回はかなり大規模なようでな。我のように強い加護を与えた人間がいる場合はその者を呼んで警告し、場合によってはその人間の体を依代に地上に降りることもある」


「でもそのぐらいだったらそんなに深刻じゃないんじゃない?確かに人間としては大変なことだけど、神が直接介入するほど?」


 神降し自体は術としてあるし俺も昨夜使ったけど、これはあくまで神の力を降ろすのであって神自身を降ろして擬似的に地上に降臨させる術ではない。

 そして、神が直接介入すると言うのは神話の時代が終わってからは余程のことがなければありえないことである。

 例外的に神が直接介入することもあったが、それにしても月読のような高位の神は介入せず、道祖神や産土神、氏神などの一方の守護神が介入した態度だ。


「魔界だけなら良かったのだが、邪神も蠢いていたな。奴らの加護を得た者達も動いているようだ」


 どんなことだろうと考えを巡らせていた俺は月読の言葉にこれ以上ないほど納得した。


 俺はこの世界をゲームだとは思っていない。最初は思っていたが生きていく中でそんな考えは消し飛んだ。ただ、同時に薄っすら残るゲームの記憶と同じ部分が少なくないのもまた事実であり、今回月読が言及した魔界の騒動と邪神やその加護を得た人間たちのことで確信した。この世界はやはりゲームのような部分があり、ゲームに例えるならばストーリーが動き始めたと言うことだ。







_________________________________________



邪神は名前はありませんが禍ツ神として認識してください。


ちなみに、楓ちゃんは本来のストーリーですと死んでいたり、死んでなくても闇堕ちしてたりします。






毎回書くたびに瀕死になっている作者の応援をどうかお願いします_:(´ཀ`」 ∠):

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