第43話


 ようやく主人公に戻ってきた(´・ω・`)




_________________________________________





「うぉっ!?」


 俺と鬼神が戦い初めて、少し時間が経った。その間に俺がわかったことは、今のままでは勝てないと言う誰にでも分かりそうなことだけだ。


 だって、コイツ強すぎんだもん。鬼としての身体能力に膨大な霊力を使った周囲一体を焼き尽くす業火、そして長い間研鑽を積んだことがわかる刀術。たとえ攻撃を受け流しても、骨にヒビが入り筋肉が千切れ、傷を負う。控えめに言ってなんで歴史書とかに出てきてないのかって言うレベル。


「おいお前ぇ!強すぎんだろ!!お前の事どこぞの山の鬼大将や女狐と違って資料に残ってないってどう言う事だ!!!」


「カカカカ!!吾は人を喰らう趣味も無ければ権力なぞにも興味無いからな!!小童や性悪とは違い強者と戦えればそれで良いのだ!!!そんな事より、妖を通してよかったのか?気にしてある奴がいた様だがな!」


「アイツなら何とかするから問題ない!てかとっととくたばらんかい!!」


 たくっ、話してる時ぐらい攻撃の手を緩めろよ!俺は心の中で愚痴りながら蒼月を振るい、霊力を込めて数を増やした神剣を雨の如く降らせる。


「中々の威力!だがまだ足りぬぞ!」


「上等じゃあ!!」


 俺は斬天神月を放ち、後ろに飛ぶと詠唱を始めた。


『五行輪転、龍となりて神威を示せ』


 個人的にはこの術はあまり好きじゃない。早い話、霊力消費がシャレにならないからなんだが、そんなこと言って場合ではない。それに見合った威力はあるしな。

 なお、これは天峰家のご先祖様が生み出した奥義の一つである。あと、斬天神月は普通に受け止められた。


五行神龍ごぎょうしんりゅう


 術を行使すると、木・火・土・金・水。それぞれ五行で体を形作った二十メートルほどの大きさの五頭の龍が頭上に現れた。

 今回は詠唱を短縮したが、それ以上に霊力を込めたから完成度としては十分だ。


「行け!」


 俺は更に数を増やした神剣と共に、龍達を嗾けた。


「ほほう、素晴らしいな!数百年ほど前に天峰家の陰陽師が使っているのを見たが、それと比べても遜色無い...いやそれ以上だ!」


 奴はそう言って全身と刀に炎を纏い戦い始めた。

 てか、数百年前に見たことあるってマジもんの骨董品じゃねぇかよ。さっきもさり気なく平安時代にいた酒呑童子を小童とか言ってるし。


「さて、せっかく出した龍もそんなに持たなそうだし、全力を出さないとどうにもならんな」


 俺は光や木の神剣を、治癒術の媒体にして傷を癒しながら本能のままに詠唱を始めた。


『果てへと至り、先へと進め。神仏であろうと我は止められぬ、一度は死に生まれ変わったのだ、今更何を躊躇うものか』


 詠唱とは言えないナニか。だが、口は動き止まらずにうたい続ける。

 残り全ての霊力を出し尽くし全身に巡らせ更に先へ、魂を超越させる。


『滅びに瀕し死の淵に立て、己が肉体己が魂を追い込み続けよ』


 術で出した龍が、神剣が、形を保てなくなったのか陽炎のように揺らめく。

 全身から血が吹き出し、魂が悲鳴を上げる。


『壁を砕き、限界のその先へ』


生絶死超せいぜつしちょう


 本能のままに詠唱を続け術を完成させた瞬間、俺自身を中心に爆発が起こり辺り一帯を吹き飛ばした。




_________________________________________





「ここは...」


 意識を失っていたのか横たわっていた俺が目を覚ますとそこは辺り一面真っ暗闇の空間だった。

 俺はついさっきまで鬼神と戦っていたはずだが、どうなっているんだ?疑問は幾つも浮かんだが、気にしても仕方ないので一旦脇に置いておく。

 この空間は不思議なことに暗闇のはずなのによく見え、俺自身も不思議と落ち着いていた。


「なんか体の調子が変だな...」


 そう、起きてからと言うものしっかりと体があるのに、どこか実態がない様な変な違和感を覚えていた。


「ここはどう言った場所なのか」


 俺がそう言った瞬間、暗闇に包まれた空間に一つの扉が現れた。


「何だ?この扉は。いきなり現れたが、誰かいるのか?」


 当然誰からか返事が来るわけもなく。いつまでもここにいる訳にはいかないので、その扉をくぐった。


「うおっ」


 扉をくぐり暗闇の道を進んだ先には、また同じ様な暗闇の部屋があった。ただ、前の部屋と違うのはナニカが砕けた欠片の様なものが宙に漂っている点だ。

 俺は、それを見て不思議と組み立てなくてはと思った。

 試しに手を伸ばしてみると、宙を漂っていた欠片の内の一つが手に収まった。


「なるほど、こうやって組み立てていくのか」


 どうやるのか理解できた俺は黙々と組み立て続けた。




_________________________________________




「完成だ!」


 欠片を組み立て続けてしばらく...ようやく完成した。

 完成したソレは円球で淡い光を放ち点滅していた。


「ん?消えた?」


 だが、完成した円球は少しの間点滅するといつの間にか消えてしまった。


「どうなっているんだ?」


 不思議に思っていると...


「おお?右足がしっかりとそこにある感じがする?」


 ここに来てから、あるはずなのに実体が無いような違和感を覚えていた体の内、右足だけがまともな感覚を取り戻したのだ。


「もしかしてそう言うことなのか?欠片を組み立て体を元通りにしろと言うことか?」


 俺がそう考えていると、いつの間にか目の前にこの部屋に入ってきた時と同じ様な扉が出現していた。


「いくしか無い、か」


 急かされるかの様に前回よりも近くに出現した扉に俺は一旦考えを棚上げして次の部屋に行くことにした。







_________________________________________





「これで最後だな」


 あれから、さらに五つの部屋で欠片を組み立てて左足、両腕、胴体、頭と体の感覚を完全に取り戻した俺は七つ目の部屋の欠片を組み立てて、完成させた。

 俺の直感では、恐らくこの部屋が最後で、クリアすれば現実に戻れるだろうと感じていた。


「これで戻れるはずだ。にしても難しかったな」


 この部屋はこれまでの六つの部屋にあった全ての欠片を足した数以上の欠片があり、これまでの部屋の十倍ほどの時間がかかってしまった。


 そうして俺が待っていると、手に持った欠片を組み立てて出来た円球が浮かび上がり、目の前で白い扉に変形した。

 同時に、体全ての感覚が戻ったのに何処かポッカリと穴が空いている感覚がようやく埋まった。


「ふむ?この部屋で組み立てたのは魂とかだったのかな?まあ、出られるみたいだし後で月読様にでも聞いてみよう」


 ようやく出れる。俺は何とも言えない達成感と共に白い扉を開け、強い光に包まれた。


 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る