第42話





「さっきのは...」


 銀世界から戻ってきた私は少しの間意識がぼんやりとしていました。


ピシピシ、ピキピキ


 ですが、氷が軋み割れるような音を立てた事で知識がはっきりとしました。

 意識がちゃんと戻った私は辺りを見回して現状を確認しました。すると、私が沈んでからさほど時間は経っていないようですが、神像が戦っていた場所では既に妖は倒されていますが式神は全滅、神像も今にも崩れ去りそうな状態でギリギリの戦いだった事がわかります。

 楓様達の方も、何名か致命傷ではないもののかなりの重傷で後ろに下げられてはいるようですが、既に妖は瀕死で直ぐにでも倒されるでしょう。


「という事は、残りはこの妖のみですか」


 私は氷にひびを入れ、拘束から抜け出そうとしている妖に向き直りそう言いました。


 私に出来るでしょうか。

 術を発動しようとして不安になった私は、あの世界であった先祖を名乗る女性の言葉を思い出しました。彼女は雪女としての本能のままに思い切りやればいいと、加護を授かった木花咲耶姫様に祈り、頼ればいいと言ってた。ならば、その通りにやってみよう。もし失敗したらその時にまた考えればいいだけのこと、そう思い残りの霊力を全力で解き放ちました。


『我は雪女、万物を凍てつかせる氷の化生けしょう


 私は雪女だ、数多を凍て付かせ氷で包む災禍の妖。


『我は炎の神子、火の神より強き加護を受けし者』


 私は木花咲耶姫様に加護を受けた存在だ。

 雪女でありながら炎を扱える異端であり、火の神でもある木花咲耶姫様に目を掛けて頂けた。


『我、今ここに相反せし炎と氷、二つの事象を混ぜ合わせん』


 私は雪女としての力、空間や時間さえも凍り付かせてしまうような恐ろしい力を解放し、我が身に止める。同時に、私が受けた木花咲耶姫様の加護、火の神としての神格を持つ彼女に雪女としての力に負けないほどの強い炎の力を彼女に祈る。

 

《ふふっ、ようやく私に頼ってくれたわね?貴女は真面目に考えすぎてる所があるから私は心配なの。力は貸してあげるから思い切りやりなさい?それと、私の事はこれから咲耶と呼ぶように。異論は認めないわ》


 ありがとうございます咲耶様。


 そうして、私の体には全てを凍て付かせる氷の力と、全てを焼き尽くす炎の力が宿った。


「慎重に、間違えないように...!」


 少しでも間違えたらただでは済まないような状況、だと言うのに私はとても落ち着いていて、湯水の如く消費される霊力酷使される肉体、それらを無視して術を完成させに行く。


『なれば、この氷炎を持って我に歯向かいし愚者に無慈悲な裁きを』


 若様に...蒼夜様に授かった氷炎黒槍の力にも頼り、混ぜ合わせた氷と炎を制御する。


 妖は既に氷の大半を砕き、今にも私に向かって突撃しそうな状況。


氷禍神炎ひょうかしんえん


 術の完成、槍に数多を焼き尽くす氷、凍て付く炎が宿る。


 すると、氷を全て砕き拘束から抜け出した妖が全力でこちらに向かってきた。


「グガァァァァァァァァァァ!!!!!!」


「来なさいッ!」


 私は術を維持するので精一杯、とても動けない。なら相手が向かってくるのを待ちカウンターを打ち込むのみ!


「グゥゥォォォォォォ!!!!!」


「ハァァァ!」


 妖は全ての霊力を振り絞ったのか、全身から淡い光を放ちながら一回り太くなった腕で拳を放った。

 私はその拳を前に倒れるように進むことでギリギリで躱し、髪の毛を何本か千切られながらも『氷禍神炎』が宿った槍を妖の体の中心へと突き入れた。


「グォォォォォォォ!!??」


「アァァァァァ!!!」


 妖は槍を突き刺され、炎と氷でその体を崩壊させながらも私のことを殴ろうとする。対する私は更に槍に霊力を込め、より術の効果を高め槍を深く突き刺した。


 十秒?一分?十分?時間の感覚がわからなくなり、無我夢中で槍を突き刺していると。

 いつの間にか妖の声が聞こえなくなり、槍が体から抜けて後ろに倒れた。


「はぁはぁはぁ、終わったの?」


 妖が倒れた後、しばらくの間呆然としたままでしたが、時間が経つにつれて妖を倒したという事実がジワジワと私を襲ってきました。


「やれた、やれましたよ若様...!」


 はっ!つい喜んでしまいましたが、楓様達の方は先ほど確認した時まだ終わっていませんでした。

 そのことに気づいた私は、そちらを向きました。すると、ちょうど楓様が私に向かって飛びついてきたところでとても驚きました。


「般若さん!」


「わひゃあ!楓様!?」


「やりましたね!妖を全て倒せました!」


 私に抱きついた楓様は、涙を流しながら喜んでいました。

 そうですよね、これまで何度も襲撃されていて、今回は特に酷い襲撃しかもこれまで護衛をしてくれていた父親がおらず、依頼で来た者が護衛となれば不安になるという者。


「大丈夫ですよ、楓様。もう楓様を狙った妖は全滅しました。あとは夜翁様と鬼神の戦いを見届けるだけです」


「でも大丈夫でしょうか?」


「ふふ、大丈夫ですよ。夜翁様は負けません」


 私は不安がる楓様の頭を撫でながら、未だに戦闘音の聞こえる屋敷の方を向いてそう言いました。


 若様は式神や神像を全て私に渡されました。私達を心配したのもあるのでしょうが、式神達を使わずとも鬼神を倒せる、倒すという意味でしょう。

 なら私は信じて待つのみです。





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_:(´ཀ`」 ∠):



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