第41話






「ここは...」


 気付けば私は知らない場所にいた。

 

 空は分厚い雲が垂れ下がり深々と雪が降っている。辺りは何もなく雪に覆われた雪原で遠くには真っ白な雪山見える銀世界だった。


「私はこんな場所を知らない。里にいた時も天峰家に仕えてからも見た事がない」


 でも、何処か懐かしいと感じていた。


 私は壁を一つ越えるために意識を内側に向け、雪女としての自分自身と向き合おうとした。だけどここはなんなんだろう?

 私自身の格好も槍はないしお面も無いけれど、それ以外はここに来る前と変わらない。

 これは、ずっと昔の先祖の記憶?それとも私の心の中を表しているの?

 結論が出ないままずっと悩んでいると変化があった。


「わっ!」


 急に天気が荒れ出したのだ。

 少し前までは風も吹かずに雪が降っていただけだったのに今では少し先も見えないほどの吹雪に包まれていた。


「どういうこと?」


 いきなりのことで困惑していると、ふと吹雪の中に道が見えた。

 実際に道ができているわけでは無い。けれど、雪女の本能なのか、はたまたこの空間にいる誰かによるものか、そこを通れば吹雪の中でも問題なく歩けると理解できた。


「とりあえず行ってみましょう」


 このままここにいても埒が開かない。

 そう思った私は、とにかくその道を進んでみることにした。


 そうして吹雪の中を進んでいくと、少しずつ吹雪が薄れて行き、空もいつの間にか吹雪く前の深々と雪が降り続ける空に戻っていた。


 そうして天気が元に戻り、辺りを見渡すと雪に覆われた銀世界のままで何も変わっていなかった.........一つを除いて。


「あれは?吹雪に覆われる前は無かったはずなのに」


 私はそう呟いて雪原の中に一つだけポツンと建っている家を見た。

 その家は現代の家と違い、江戸時代頃に建てられていた藁葺き屋根の家だった。

 その家の中からは、いくらか光が漏れており人がいるのが分かったが少し不安になった私は行くかどうかを躊躇してしまった。

 だが、このままでは氷漬けにした妖がいつ出てくるかもわからないので、覚悟を決めてその家に足を運んだ。





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 コンコン


「誰かいらっしゃいますか?」


 家の玄関についた私は扉を叩き、家の中の人に尋ねた。


「はーい、少し待ってくださいね」


 中の人はそう返事をし、言われた通りに待っていると玄関の方に気配が近づいてきて。


ガラガラガラ


「いらっしゃい、ようやく来たのね?」


 私は扉から出てきた優しげな妙齢の女性を見て驚いてしまいました。彼女の髪の色は銀色で瞳は空色、人間にいないわけではありませんが、このような特徴を持つ女性は大半が私と同じ雪女が大半だからです。


「ふふっ、驚くのも無理はないわね。でもお話は家に入ってから。お茶も出すから少し待ってね」


 そうして家の中に入ると、内装も江戸時代の家と同じで土間に台所があり居間には囲炉裏があった。

 居間についた私は、座布団に座って出されたお茶を飲みながら相手の女性が話し出すのを待っていた。


「さて、まずは何から聞きたい?」


 彼女はそう言った。


「それじゃあ、ここは何処なんですか?私は自身の心の中だと思っていたのですが...」


 不安そうに尋ねる私に彼女は


「安心して、ここは貴女の心の中であっているわよ。より正確には雪女としての、というのがあっているけれど」


 そう言った。


「では、なぜ貴女がここにいるのですか?貴女は誰なのですか?」


「私?名前を教えてあげる事はできないけど、私は貴女の遠い先祖に当たるわ。どうしてここにいるかは貴女が私の血を濃く引いているのと、私自身が神ではないけれどそれなりに力を持っているからこうしてここにいられるの」


 私は彼女の言葉に驚いてしまった。

 同時に、私の先祖とこうして会えるなんてという思いと、どうしてこんなところにいるのかという思いが混ざり合った。


「では、最初に言っていたようやく来たと言うのはどういう意味ですか?」


「そのままの意味よ、貴女好きな男の為に強くなりたいんでしょう?本来ならもっと早く来ると思ったんだけど、思ったより遅かったからついそう言っちゃったのよ」


 す、好きな男のため!?た、確かに私がここに来る事になった理由は若様に頼まれたあの妖を倒す為、ひいてはこれから先若様の足手纏いにならないようになる為に壁を越えようとした結果だけれど。そんな直球に言われても......!


「しょんにゃわけ無いじゃないですか!私は上の上の妖に勝つ為に、壁を越えようとしてここに来たんです!」


「ふふっ、思ったより初なのね。まあ、揶揄いの心がないと言えば嘘になるけれどそれは一先ず置いておきましょう。時間もそれほど無いみたいだし」


 はっ、そうでした。今はまだ大丈夫でしょうが『封獄氷縛』もいつまでもはもたないでしょうから早くしなくては。


「そうです、私は早くしないといけないんです。壁を越えられないならこのままでも戦わないとあの人の期待に応えられない」


「安心して、その為に私が出てきたんだもの」


 私が焦って戻ろうとすると、落ち着いてお茶を飲んでいた彼女がそう言った。


「では、どうやるんですか?私には時間がないんです」


「焦らないの。今から言うことをよく聞きなさい。貴女がしようとしている事はわかっているわ、だから氷の扱い方を教えてあげる」


 彼女はそう言うと掌を上に向けて、そこに氷を出した。


「私達雪女は氷や雪の霊術を得意としているけれど火は得意としていないわ。その理由は簡単で、私達が持つ霊力そのものが氷の属性を帯びているからなの」


「それは知ってます」


 でなければ、そもそも雪女などと呼ばれない。


「それでね、貴女の場合は炎にもいくらか適性があるせいで本当の意味で雪女としての力を使えていないの。別に他の雪女と比べて魔力に帯びている氷の属性が弱いわけではないわ。むしろ強いもの。ただ、炎も使っているから無意識のうちに少し押さえ込んでしまっているだけ」


「では、どうすればいいんですか」


 私の問いに彼女は


「簡単よ、思いっきりやりなさい。私達雪女は様々なモノを凍えさせ、凍らせる存在。生物も、そうでない物も。時には、時間や空間などですら氷に閉じ込めるほど。だから貴女は一度思いっきり霊力に宿る氷の属性を意識して周りに放出しなさい。貴女の実力ならそれだけで地面や草木、空気を凍らせることができるわ」


「でも、それだけでは再生能力に優れたあの妖は倒せません。それに、私がやろうとしているのは氷と炎を混ぜる事です。そのやり方を教えてください」


「ふふっ、やり方は自分で考えるものよ?それに私も炎を使えはするけど貴女ほどではないもの。でも、貴女は木花咲耶姫様の加護をもらっているのでしょう?なら、木花咲耶姫様に祈って炎をより正確に操れるよう手助けして貰えばいいわ。常日頃から神頼みをしているならまだしも、強い加護を受けているのだったらそのぐらいの頼みは聞いてくれるはずよ」


 彼女はそう言った。

 確かにそうだ。自分の力でやらないと本当に身につけたとは言えないかもしれないが、今は神頼みでもいいからできるようになるのが先。


「確かにそうですね。少し、自分を追い詰め過ぎていたみたいです」


 焦るあまり、誰かに頼ることを忘れていた私はそう言って自嘲した。


「気付いたならそれで十分よ。それじゃあそろそろ時間ね」


 彼女がそう言うと同時に、辺りの空間がぼやけ始めた。


「ご先祖様!ありがとうございました!」


 現世に戻ることを理解した私は、彼女にお礼を言った。


「良いのよ、貴女は私の子孫なのだから。それから、この戦いが終わった後は一度里に帰ってきなさい。里のはずれにある祠は知っているでしょ?私はそこにいるからまだ貴女に教えていないことも沢山あるし、絶対に来なさい」


 薄れゆく意識の中で彼女にそう言われた私は、そのことを忘れないように記憶に刻みつけた。






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難産やった。(΄◉◞౪◟◉`)



最近この作品異世界ファンタジーじゃなくて現代ファンタジーじゃね?って書いてて思ったんですけど実際どっちなんでしょう?変えたほうがいいとかあったらコメントお願いします。(´・ω・`)





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