第38話



『偉大なる大地よ、霊力と供物を糧に、我が敵を討ち滅ぼす鋼鉄の使者を使わせん』


 印を組んだ俺は詠唱をしながら莫大な霊力を練り上げ、取り出した供物...透き通った二つの水晶に練り上げた霊力を込め術を完成させた。


金剛不壊神像こんごうふえしんぞう


 俺が術の名を唱えた瞬間、霊力を込めた水晶は光を放ちながら砕け散り、光が収まるとそこには鋼鉄でできた上半身裸で二メートル程の大きさがある仁王におうの如き神像が二体立っていた。


 この術は霊力の消費が膨大で、『九天神剣滅陣』よりも多いが作られた神像はとても強く上の中の鬼が相手でも引けを取らず、二体いれば上の上とも渡り合える。


 だが、


「まだ足りない」


 俺は顔を顰めながら呟いた。

 そう、確かに強いが相手は強大。俺があの鬼神を引き受ければ掛かり切りになってしまう。そうなれば残っていた上の上の妖数体に上の中の妖が二十体程が美雪達にいくことになる。彼女が倒してくれたのならいいがそんな美味い話があるわけもない。


「もう一つッ!」


 式神と神像に加え、美雪と楓の護衛達がいてもあの場に残っていた妖達を相手するには足りないと判断した俺はもう一つ術を発動させた。


『掛けまくも畏き、加護を与えし我が神よ、夜を統べし女王にして月の化身たる偉大なる女神よ、どうか我が声を聞き届け、願わくばこの窮地を脱する力を与えたまえ』


 これは所謂神降しの術だ。五歳の時加護を授かった際に月読様と咲耶様に教えられた術の一つ。

 本来この術はベテランの退魔師が儀式をしてこそ使える術だが、俺はそれを一人で行えるだけの霊力と霊力の操作技術を持ち月読様から強い加護を受けているから個人でも行使できる。

 今は深夜、しかも夜空には満月が輝いているため降ろせる力も普段より強いだろう。

 では、俺自身に降ろすのか?否、降ろすのは今俺が術で生み出した二体の神像だ。

 

 そもそも今回俺は護衛の依頼でここにきている。鬼神というイレギュラーがあったが、彼女の目的は興味を持った俺であり楓ではない。だが、彼女に邪魔され倒しきれていない妖の目的は楓だ。だから、彼女達を守る為に俺は可能な限り保険をかけておく必要がある。

 では、神像に月読様の力を降ろせるのか?答えはYES。神像を作った際に使われた霊力は俺のモノだし、強さは上の中はあり器としての強度は十分。むしろ金剛不壊故に実力以上の強度を持っている。また、神像を作る際の供物も水晶であり。月読様は占いの神としての神格もあり、占術の際に触媒として使われることの多い水晶とは相性がいいというのもある。


 そこまで考えた俺は神降しの術を発動する為に練り上げた膨大な霊力を全身に漲らせ、月を見て月読様に心の中で呼びかけた。


(今の俺では今起こっている全てに対処することはできません。どうか力をお貸しください)


 そうして念じていると。


《仕方のない奴だ、別に我と其方の仲であろう?その様に畏って願う必要はない。それに、今夜は随分面白いことになっているからな。器たる神像もなかなかの出来だ、存分に我が力を使うがいい》


 と、月読様から返事があった。


 返事をもらった俺は、発動直前だった神降しの術を発動させた。


『神降し:月読命』


 発動させると同時に、体に漲らせていた霊力は無くなり。代わりに、二体の神像に月読様の気配が宿った。


 よし、これならなんとかなるだろう。

 そう思った俺は、楓と話して逃げる準備を整えた美雪に言った。


「般若、俺は今から鬼神と戦ってくる。多分無視でもしたら何処までも追いかけてくるだろうからな」


「はい」


「その代わり、この式神達と二体の神像を護衛として置いていく。上の上の妖も追ってくるだろうから使い潰しても構わん。任せたからな」


「わかりました。安心して下さいしっかりと夜翁様の期待に応えて見せます」


 美雪は俺が任せると言うと、般若の面越しでも分かるほど覚悟を決めて頷いた。


「じゃあ、行け。俺はここで鬼神を待つ、それに追ってきた妖も多少は減らせるだろうからな」


「はい、御武運を」


 美雪はそう答えると楓達の方に行き、彼女達と俺の出した式神の群れと神像二体を連れて屋敷を離れた。





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 美雪達が屋敷を離れた後、俺は俺がぶつかった事でほとんど壊れた屋敷の真ん中で右手に蒼月を持ち背中に『九天神剣滅陣』を浮かべた状態で鬼神を待っていた。

 戦鬼夜炎はどうしたのか?確かにアレはいい刀だが、蒼月の方が良いし使い慣れている。そもそも、俺は二刀流もできるだけで本来は一刀流だ。

 『九天神剣滅陣』に関しても護衛対象が離れたことで既に結界は解除してある。

 

「来たな」


 気配を感じた俺は前を見た。


 そこには俺の倒し損ねた妖がいて、その後ろに鬼神が立っていた。


「グガァァァァ!!!!」


「ギギャァァァァ!!!」


 妖達は叫びながら俺に突っ込んできた。

 俺に攻撃する気はない様だ、奴等の目的はあくまで楓だからな。

 だが、全員を無条件で通すわけにもいかない。そう思った俺は『九天神剣滅陣』を放ち上の中九体を仕留め、右手の蒼月で上の上を一体斬り裂き左手で上の中を一体殴り殺した。


「まあ、このぐらいなら美雪達でもなんとかなるか」


 満足した俺は残りの上の中十体と上の上二体を通らせた。


「待たせたか?」


 妖を見送った俺は目の前の鬼神にそう聞いた。


「否、貴様の様な強者と戦えるのは久しぶりだからな。多少待つぐらいどうと言うことはない」


 彼女はそう返し、手にぶら下げていた刀を俺の方に向け構えた。


 さっきは我慢出来ずに俺のことを吹き飛ばしたくせに。俺はそう心の中で愚痴りながら蒼月を八相に構えた。


 そしてお互いに獰猛な笑みを浮かべた俺達はどちらともなく...


「「勝負!!」」


 ぶつかり合った。








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待たせたな(΄◉◞౪◟◉`)


ちょっと体調悪かったんや(´・ω・`)


追加、『金剛不壊神像』の消費霊力が『九天神剣滅陣』より多いのは『九天神剣滅陣』が後出しで霊力を追加して実力を発揮する術だからです。(そうじゃ無かったら攻撃防御治癒の出来る万能霊術としてとんでもない消費霊力になってます)

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