第35話




「お嬢様をお連れいたしました。入ってもよろしいでしょうか?」


 さっき俺たちを案内してくれた召使の女性の声だ。

 どうやら俺が美雪の言葉に恥ずかしがっている間にそこそこな時間が過ぎたらしく、今回の護衛対象であるお嬢様が来たようだ。


「ああ、構わない。入ってくれ」


「失礼致します」


 俺が許可を出すと声と共に扉が開き、召使の女性を先頭に俺と同い年ぐらいの可愛い女の子と六十は過ぎていそうな巫女服に身を包んだ老婆、最後に護衛だと思うが歳が二十歳ぐらいで実力が上の下ぐらいの綺麗な女性が入って来た。

 彼女たちは部屋に入ってくると俺たちの向かい側に座布団を敷いて入って来た順に座った。


「早速失礼ですが、改めて貴方方が今回護衛の依頼を受けて来てくれた夜翁様とお付きの方ですかな?」


「その通りだ」


 お互いに座り、召使の女性がお茶を淹れてくれたところで老婆が話しかけて来た。


「では、実力を見せていただいてもよろしいでしょうか?義孝様が直々にご依頼なさった方だと言うのは理解しておりますが本当に実力があるのか不安視している者もおりますのでな」


 と、いきなり実力を示せと言われた。まあ、護衛に来た者の実力を確かめたいのは不思議でもないな。それに、不安視、か。それは多分護衛として一緒に入って来た綺麗な女性かな?屋敷を見た感じ彼女が一番実力が高く、この屋敷にいる人たちの指揮をとっているのはこの人か話しかけて来た老婆だろう。


「実力、か。まあ、義孝殿が保証していても気になるだろうし中には不安になっている者もいるだろうからな、構わない」


 俺はそう言って、全身から霊力を放ち机を挟んだ向かい側に座る彼女たちを軽く威圧した。


「これで確認出来たかな?」


 威圧したまま彼女達にそう聞くと、全員が顔をこわばらせたまま頭を縦に振り、老婆が慌てて口を開いた。


「はい!しかと確認いたしました!ですので霊力を抑えてください、お願いいたします!」


 老婆は大きな声で言いながら頭を机につくぐらい下げて来た。

 

 うーん、軽く威圧しようとは思ったけどここまで慌てさせる気はなかったんだけどな。


 そう思った俺は霊力を抑えて口を開いた。


「わかった、実力に納得できたなら構わない。それよりも護衛に関しては義孝殿から聞いてはいるが改めて聞かせてくれ」


「はい!ご説明させて頂きます」


 霊力を消したことでさっきよりはマシになったが、変わらず緊張した様子で老婆は話し始めた。


「まず、お嬢様が特殊な魔引体質なのはご存知でしょうか?」


「ああ、依頼を受ける際に聞いた」


 父さんが言っていたからな。


「それなら話は早うございます。お嬢様の体質は通常とは違い不定期に妖に場所がバレ襲撃されます。それはたとえ隠蔽結界を張っていても変わりません。ですので、ワシのように占術が得意なものが占い、襲撃がいつ起こるのかを知り対策を取ることで今日まで無事でした」


「ですが、今回の襲撃はこれまでとは桁違いのモノが来ると占いで出ました。本来であれば義孝様が部下を引き連れ護衛する予定だったのですが、それも急な用事で無理となったため依頼を出したと言うわけです。」


「ああ、その事も詳しくでは無いが聞いている。それでつまり何が言いたいんだ?」


 説明はわかるが結局はどう言う事だ?


「はい、ワシが言いたいのは襲撃の規模です。これまでも最低でも中の中の妖が来ており毎回少なくとも一体は上の下の中でも上位の妖や上の中の妖が来ておりました。その上で今回比べ物にならないと出たのです」


「なるほど、つまり今回の襲撃は上の上が出てくるだろうし、それ以外も数が凄まじいことになるということか?」


「はい、その通りでございます」


 なるほどねー、それは確かにヤバいわ俺の警笛がガンガンなるわけだし。でも、壁を越える機会としては悪く無いとも言える。


「そうか、とりあえずそのことに関しては問題無い。依頼の途中で逃げたりなどしないし今この場で依頼を中断したりもしない」


 恐らく老婆が少し回りくどく言ったのはこのことだろう。


「そ、そうですか」


「ああ、それで護衛に関してだが妖の対応は俺一人でやる」


 こんな機会滅多に無いだろうからな、本当にキツくなれば美雪に手伝って貰うがギリギリまで一人でやってみようと思う。


「それは大丈夫なのですか?」


「問題無い、この屋敷の者達はそこのお嬢様を守ってくれ。できれば一部屋に固まっていて欲しい。念の為俺の付き人もそちらに回す。安心しろ実力も上の中の中で指折りだ」


「で、ですがそれでは夜翁様の負担が凄まじいことになるのでは?」


 うーん、予想通り心配してくれたけど俺としては本当にいい機会なんだよな。


「心配は感謝するが俺としてもいい機会なんだ」


「いい機会と申しますと?」


「俺は上の上だがこの戦いを機に壁を越え超越者になれないかと思ってな。だから本当にキツくなるまでは一人で対処させてもらう」


「ちょ、超越者にですか。それならばワシも言うことはありません」


「感謝する」


「何を仰られます。依頼を受けて頂き感謝したいのはこちらです」


 そう言って老婆は頭を下げて来た。


「では、俺は妖が来るまで屋敷の屋根の上で待っていよう。般若、お嬢様の護衛頼んだぞ」


「かしこまりました。夜翁様」


 ちなみに、般若と言うのは美雪の偽名だ。


 俺は、話は終わったとして席を立ち部屋を出ようとした。


「お待ちください」


 だが、部屋を出る前にこれまでずっと喋らなかった護衛対象のお嬢様に話しかけられた。


「何だ?」


「あの、ワタクシは玉龍楓ぎょくりゅうかえでと申します。今回の護衛の依頼を受けていただいて感謝します。どうか怪我をしないようお気をつけください」


 ふむ、おとなしい子かなと思っていたが礼儀正しいいい子のようだ。これならば、俄然やる気が出て来たな。


「ああ、依頼を受けたからには成功させよう」


「ありがとうございます」


「それでは俺は襲撃が来るまで待機させて貰う。般若、頼んだぞ」


「はい」


 最後に俺は美雪に念押しして部屋を出た。






 

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