第34話
俺と美雪が屋敷に人を呼びに行った門番とは別のもう一人の門番に話を聞き少し考え事をしていたら、屋敷に人を呼びに行った門番が一人の女性を連れて戻ってきた。
年は四十ぐらい、着物を着ていておそらく召使いの一人だろう。実力は中の下から中の中ほどか、召使いがこの実力であると考えると義孝さんはかなり用心しているみたいだな。
「遅れて申し訳ありません。お二人が夜翁様とお付きの方でよろしいでしょうか?」
「ああ、その通りだ。義孝殿から護衛の依頼を受けて来た」
召使の女性が確認をとって来たので、退魔師の身分を示すカードを見せた。
このカードは退魔師にとっての身分証のようなもので、カードには名前と実力のみが記載されている。玉龍家を始めとした御三家や上位の家系であれば家紋も入っている。
なお、今の俺は正体を隠している状態なので名前と実力以外は何も書かれていない。
「かしこまりました。それではお屋敷にご案内いたします」
「よろしく頼む」
確認が終わったようなので、カードをしまい召使の女性について行き俺と美雪は屋敷に入った。
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「お手数ではありますが、これからお嬢様と会って頂きますがよろしいでしょうか?」
屋敷に入ってしばらく、客間に通された俺と美雪は案内をしてくれた召使の女性にそう言われた。
「構わない、今回は護衛依頼だからな。護衛対象と会っておいた方がいいだろう。それに、いくつか聴きたいこともあるしな」
「ありがとうございます。もう少ししたらお嬢様がこちらに来られますので、それまでお寛ぎ下さい」
「ああ」
会話が終わると、召使の女性は客間を出ていった。それでは俺は、護衛対象が来るまで客間で茶菓子などを食べて待っていよう。あとは、何か美雪と話でもするか。
「なあ、美雪」
「なんでしょう。若様」
「最近新しい技を練習しているみたいだが大丈夫か?」
俺が何故美雪にこんなことを聞いたのかと言えば、最近美雪は新しい技を練習しているらしいが、定期的に俺の部屋まで爆発音が響いて来たりしてその後美雪の姿を見ると所々に包帯を巻いているからだ。
「順調ではありませんが、まずまずと言ったところでしょうか。ですが、何故お聞きになったので?」
「まあ、俺が気になったって言うのと毎日爆発音が響いたり、その後に包帯を巻いている美雪の姿を見たからかな」
「それは...心配をおかけして申し訳ございません」
美雪はそう言って頭を下げて来た。
「いや、それば別にいいんだ。俺も新しい術を作ったりする時に怪我をしたりするからね。でも、今美雪が開発している技がどんなものかは聞かせて欲しいな」
「そうですね、今私が練習しているのは炎と氷を同時に扱う術です。ご存知の通り私は雪女ですが木花咲耶姫様の加護で炎も人並み以上に扱えます。そして、木花咲耶姫様は火の神であると同時に水の神としての神格も持っておられるので、その加護を受けた私ならばやれるのではないかと思って練習しているのです」
「なるほど」
確かに咲耶様はいくつかの神格を持っていてその中に火神と水神の神格があるから美雪もできるだろうけど、単に炎と氷を同時に扱うならあまり難しくなく俺も氷炎滅剣陣なんかを扱えるからそれとはまた別なのか?
「それは俺のように炎の剣と氷の剣を同時に作って扱うとは別のものなんだよね」
「はい、私が今練習しているのは文字通り同時に扱う、つまり炎が燃えながら凍り氷が凍てつきながら燃えると言う矛盾した技なんです」
あー、確かにそれなら爆発も頷ける。術は基本的に相反してたり対極のものを混ぜるのは簡単ではない。陰陽を使った結界や陣はあるけどこれらは同時に使っていても俺の氷炎滅剣陣のように一つの術として使っているだけで本当の意味で混ぜずにそれぞれ別の役割を持たせているから出来ていることだ。
「うーん、それは確かに難しいな。実際俺もできるかどうかで言えば出来るかもしれないがやるには長い時間練習しないといけないだろうし」
「ですよね、まだ全然できてないのにいつ出来るのやら」
そう言って美雪は項垂れてしまった。
うーむ、これから護衛なのにこれはいけない。何かフォローせねば。
「でもさ美雪、実際美雪は木花咲耶姫の加護をそれもかなり強いものを授かっているのだからできないことはないと思うよ?それに美雪は雪女で妖だから氷の扱いだけでなく霊力の扱いも本能的にわかるんだろう?ならもっと自分の雪女としての部分や木花咲耶姫から授かった加護に身を任せて力の流れのままにやれば案外うまく行くんじゃないかな?」
「本当ですか?」
「まあ、確証はないけど少なくとも他の人に比べて美雪は種族面や加護の面でとても優位に立っているから何かしら大事な部分を見つけられればできると思うよ。俺も新しい術を作る際は本能的にやったりふとした拍子にこうだ!ってなることが多いからね」
「それなら、私も頑張ってみます。そして若様のお役に立ちます」
どうやら、美雪は立ち直ってくれたみたいだ。でも、お役に立ちたいって言うのはなんか恥ずかしいな。
「美雪?今のままでも十分役に立ってくれているよ?」
「いえ、そうはいきません。私の実力は若様に劣っていますから出来る限り若様の役に立てるように頑張らないといけません」
美雪は強い眼差しで俺を見ながらそう言った。
あはは、やっぱり嬉しいけど恥ずかしいな。
「どうしました?若様」
「いやなんでもない」
美雪に不思議なものを見る目で見られた俺は、召使の女性が扉をノックするまで恥ずかしさで茶菓子やお茶を食べては飲んでを繰り返した。
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