第31話



「ハッ、セイッ、ゼァッ」


 美雪と妖退治に行った翌日、俺は朝から庭で蒼月を振い鍛錬をしていた。


「ふうぅぅぅ、一先ずはこのくらいでいいだろう」


 いつも通りの鍛錬メニューをこなし霊術で出した水を飲み、置いておいた布で汗を拭く。


「それにしても、やっぱり最近おかしいよなぁ」


 俺が今考えていることは妖についてだ。

 というのも、俺が5歳の時に倒した異常個体のように強い妖や、昨日の牛鬼のように集団でいる妖がここ10年ぐらいとても多くなっているようだ。

 それ自体は、昨日も思ったようにゲームの開始が近づいているという理由で納得できるが、だからと言ってそのままにしてあげることでもない。

 父さん達は退魔師として活動しているから必然的に影響をモロに受けるし妹の紗枝は体質的に妖なんかを引き寄せやすい、それに本家の嫡男という立場から見れば分家の者達にも気を配らなければならないなどなど考え出したらキリがない。


「でも、まずは強くなるのが先だろうな」


 そう、これから先それこそラスボスみたいな奴であれば確実に超越者と呼べる強さを持っているだろう。

 俺は上の上ではあるが、壁一つ分の差は大きく俺も壁を越えなければ対抗するのは厳しいだろう。

 では、壁を越えるにはどうすればいいかについては人それぞれとしか言えない。

 と言うのも、普通に暮らしていてある日壁を越える者もいれば、自分より強い相手にに稽古をつけてもらったり鍛錬をしていて壁を越える者、自分と同等以上の者との戦闘の中で壁を超える者など様々だ。そんな中で俺は自分より強い者との戦闘で壁を超えることができる類だ、わかってるならやれよと思うかもしれないが俺より強い相手と言えば大半が超越者で少なくとも本気で相手をしてもらわなければ壁を超えるのは難しい。

 それを考えると命懸けになるのでおいそれとやるわけにもいかない。


「はあ、前途多難っていうレベルか?これ」


 俺はため息をついて頭を抱えた。


 そんな俺のところに。


「頭を抱えてどうしたのですか?兄様」


 可愛く、それでいて綺麗に成長した紗枝が来た。

 ちなみに、紗枝は伊邪那美命から加護を授かったらしい。だけど、たまに怖くなるのを見ると伊邪那美は伊邪那美でも闇堕ちした後の黄泉の国の黄泉津大神よもつおおかみの方では無いかと思ってしまったりする。


「兄様、何か失礼なことを考えてはいませんか?」


 紗枝はそう言って目が笑っていない笑顔を向けてきた。


 そういうところだぞ。


「いや、そんな事はないよ」


「それで、兄様は何故頭を抱えていたのですか?」


「ああ、それはな、昨日美雪と一緒に妖退治に行ったのは知っているだろう?」


「はい」


「その時に、武装した牛鬼が十体に牛鬼ほどではないが、力を持った鬼が武装して数十体いたんだよ」


「それは...」


「俺やみゆきからすればどうと言う事はないが、他の者達からすれば危険だし前からではあるが、いくらなんでも最近は色々と不穏すぎるんだよ」


「それは確かにそうですね。兄様が頭を抱えるのもわかります」


 俺の説明に紗枝は納得してくれたようで顎に手を当てて頷いていた。


「それで、紗枝は朝早くに俺のところへ来てどうしたんだ?いつもは美雪と一緒にもう少し経ってからくるだろう?」


「あ、はい、その事なんですが、父様が呼んでくるようにと言っていました」


 昨日、妖の群れを倒したばかりなのに次の日に呼び出しとは嫌な予感しかしないのだが...


「内容について何か聞いてる?」


「いえ、でもとても大事な事らしいです」


「このタイミングでそれは嫌な予感しかしないのだよ」


「諦めてください」


 俺の抗議は紗枝に切り捨てられ、俺は肩を落としながら紗枝について父さんのところへ移動した。




_________________________________________



「父様、兄様を連れてきましたよ」


 そう言って紗枝はノックもせずに扉を開けて部屋の中へ入っていった。


「呼ばれたから来ましたよ、父さん」


 俺もそれに続いて部屋の中へ入った。


「よく来たな、蒼夜。紗枝も連れてきてくれてありがとう」


「いえ、それでは私はこれで」


「ああ」


 紗枝はそう言うとすぐに部屋の外へ出てしまった。


「それで、父さん。昨日妖退治に行ったばかりなのに何の用ですか」


「新しい任務、より正確には護衛の依頼だな」


 護衛の依頼?珍しくはないが何故うちに?


「護衛の依頼なら父さんが受ければいいのでは?何故俺を呼ぶんです」


「いや、そうもいかん。相手の要望が上の上の強さの退魔師を指名しているからな。また、依頼相手は御三家の一つ玉龍家ぎょくりゅうけの当主の弟でな断るのが難しいんだ」


「いや、御三家の当主の弟なら自分でなんとかできるでしょう?他の人を守るにしても自分で守ればいいものを何故?」


「護衛対象は彼の娘でな、護衛の理由は紗枝の体質と似た体質だからだそうだ。また、彼自身どうしても外せぬ用事のせいで他の者に頼む他ないらしい」


 えぇー、んな馬鹿な。でも紗枝と似た体質という事は潜在能力は高いのだろうが妖を惹きつけるなどの理由かな?それなら場合によってはかなり強い妖が来てもおかしくはないが。


「理由はわかりました。受けるのもやぶさかではない。だけど、今依頼が来た理由を教えてください。いくら親とはいえ四六時中側にいるわけでもないのに何故今回うちに依頼してきたんですか?」


「あそこの家には占術が得意な老人がいてな、かなりの確率で内容が当たるのだ。これまでもそうして妖の襲撃からその子を守っていたようだが今回は特別らしくてな、いつもより強い妖が来るようで最高戦力である彼自身が護衛できなくなってしまった以上、自分と同格の者に護衛を頼みたいそうだ」


 なるほど、それならもしかしたら俺が壁を超えることもできるかもしれないな。

 それにしても、体質は仕方ないとはいえ妖に襲撃されるなんてちょっと可哀想だな。


「はあ、わかりました、その依頼受けますよ。あと、美雪も連れて行っていい?襲撃の規模によっては1人だと自信がないんだけど」


「勿論連れて行って構わない。受けてくれてありがとうな蒼夜、彼とはそれなりに仲が良くてな、なんとか力になってやりたかったんだ」


「はいはい、それで護衛する日はいつ?他にも詳細について教えて」


「ああ、色々と聞いているからな。今から話そう」


 こうして、父さんから少しばかり面倒そうな依頼を受けることになるのであった。


 あと、俺の鍛え上げた第六感が警笛を鳴らしているのは何故だろう?今回の護衛はそんなにヤバいのかね?





_________________________________________



どんな敵出そうか迷ってたりする。

できるだけヤバいやつ出したいんだよね強さのインフレみたいな感じで。



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