第29話



 うん?


 意識が戻った俺は、反射的に動きそうになるのを抑えて薄く目を開き周りを見る。


 周りは、父さんに母さん、沙希さんに紗枝、そして美雪がいて場所も神域に行く前の儀式をした部屋の中で木花咲耶姫が言った通りさして時間は経っていないようだ。


 そこまで確認してようやく俺は体を動かした。


「ふう」


「終わったか?蒼夜」


 俺が体を動かしてすぐに父さんが聞いてきた。


「うん、問題無く終わったよ」


「そうか、それは良かった。それで、どの神仏から加護をもらった?」


「月読命から貰ったよ」


 加護について聞いてきたから正直に話した、隠す事でもないからな。


「月読命?そうか」


「何か問題でもあった?」


「いや、問題ではなく月読命が加護を与えたなど初めて聞いたからな」


「そうなの?」


「ああ、神仏の中には滅多に加護を与えない存在が一定数いるんだ。気難しかったり他に理由があるとも言われているがな」


「へー」


 月読様、気難しい奴扱いされてたのか、でも加護を与えた存在っていたって言ってたのに父さんが知らないとは何千年も前の人とかに与えたのかな?


「そう言えば蒼夜、オレや唯達は神仏に言葉をもらったがお前はどうだった?」


「うん?ああ、貰ったよと言うより会ってきた」


 流石に術を教えてもらった事や木花咲耶姫にも会ったことは言わない方が良さそうだな。


「本当か!?」


「そんなに驚く事?稀にいるんでしょ?」


 父さんが驚いたことに俺が不思議に思って聞くと。


「驚くに決まっている、会うと言っても月読命のように最高位の神よりは力が劣っていたり、神になって自分の先祖だったりが大体だからな」


 へー、確かに母さんに沙希さんに美雪、三人も驚いてる。紗枝はなんか不思議そうに首を傾げているな可愛い。


「そうなんだ、確かにそれは珍しいかもね」


「それで、何か言われたりしたか?」


「ううん、特には。でも気に入ったとは言われたよ」


 神像作ってお供物しろとか、超越者になって会いにこいは言わないでおこう。


「そうか!そうか!それは良かった」


「ええ、本当に」


「蒼夜さん、凄いですね」


「若様、素晴らしいです!」


「にいさますごい!」


「ありがとう」


 俺が気に入られたと言うと、父さん以外にも今まで黙ってた母さん達三人も褒めてくれた。

 紗枝もすごいと言ってくれたけど、これは何のことだかわかってないな?あと、随分眠そうだ。


「さて、蒼夜の加護の件も無事に済んだことだし一旦お開きにしよう。蒼夜は疲れただろうから部屋で休んでいなさい。紗枝も眠たくなったろう?オレと唯は儀式に使った触媒などを片付けておくから部屋から出て構わない」


 父さんはそう言って母さんと一緒に儀式の後片付けを始めた。

 紗枝は儀式が退屈だったのか今にも寝そうになって沙希さんに抱っこされている。


 俺は、父さんに言われたように少し疲れているから美雪を連れて部屋に戻ろうかな。




_________________________________________



「ふぅー」


 儀式の部屋から出て自分の部屋に戻った俺は今、美雪に淹れてもらったお茶を飲んでいる。

 あと、月読様は少ししか経っていないって言ってたけどかなり時間が経っていたみたいでもう外は暗くなっていた。


「お疲れ様でした」


 美雪は自分の分のお茶を淹れたのか、湯呑みを持って俺の隣に座った。


「ああ、結構疲れたよ」


 主に術の鍛錬が。


「ふふ、そうでしょうね。私も直接お会いすることはありませんでしたけどお言葉を頂きましたからね。その後は緊張して、終わる頃にはへとへとでした」


 美雪も神から言葉貰ったんだ。でも、言葉をもらったってことは咲耶様から貰ったんだよなだったらよろしくとも言われているし言っておくか。


「あー、その方なんだけどさ」


「はい?」


「実は、月読命と会ったんだけど、そこに木花咲耶姫も同席しててね。それで美雪にもよろしくって言ってたんだ」


「ふぇ!!そうなんですか!?」


「うん、随分と美雪の事大事にしているみたいだったよ。俺にしっかり面倒見るように言ってきたし」


「ふえぇぇ、そんな面倒を見るようにって、そんな...」


 おや?顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 でもいっか、慌てる姿は可愛かったし咲耶様が面倒を見てって言った意味も多分、まあ、なんとなくわかっているつもりだからね。まだそんな勇気ないけど...


「ほら美雪、いつまで俯いてるの?」


「だって若様〜」


「何がだってなんだ?そんなに顔を真っ赤にして何か心当たりがあるのか?」


「ありませんよそんなこと!?」


「ほーん?」


「そ、そんなことは置いといて月読命様と木花咲耶姫様はどんな方でしたか?外見とか」


「誤魔化したな?」


「誤魔化してませんからー!いいから教えてください!」


「はいはい」


 そんなこんなで、美雪を揶揄いながら神域で何があったかを話してその日は過ぎていった。


 今日も月が綺麗だなぁ。








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 次話からかなり時間飛びます。

 あと美雪さんがはじめの設定と違ってポンコツ風味が出てきた気がする...




 前話で術式って出てましたけどこの作品での術式は霊力で描く太い線と細い線に炎や氷を意味する古代文字的なものを合わせることで作れます。


 これを使うのは基本的に超高難易度の術や複数人や触媒を使って行う儀式、そして長時間持続させる結界や封印で普通の術だと効果の向上に使えますが術式を組むぐらいなら九字や手印の方が楽だし便利です。


 前話で主人公が使っていた理由は術に制限付きで効果をつけるのが高難易度かつ初めてだったのと一部神が扱うような術を教えてもらっていたから念の為に使っていた感じですね。

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