第27話
月読命が木花咲耶姫を呼び出し、俺が彼女に自己紹介をしてからしばらく、俺は彼女に抱きしめられていた。
「あらあら、貴方が蒼夜くんだったのね。美雪ちゃんの目を通して見てはいたけど実際に見るとやっぱり可愛いわ」
「むがむがむが」
抱きしめられると必然的に彼女の体の柔らかさやいい匂いで包まれるわけだが、同時に口や鼻が塞がれて息ができなくて苦しい。
「何をやっている咲耶、今すぐ其奴を離せ」
「えー、いきなり呼び出したのだから少しぐらいいいでしょう?」
「ダメに決まっておろう!いいから早く離せ」
「仕方ないわね、わかったわよ」
月読命が木花咲耶姫に離せと言ってくれたおかげで渋々ではあるが俺は解放された。
「ぜーぜー」
解放された俺は、床(全面白張りで床なのか地面なのか分からない)に膝と手をついて全力で呼吸した。
「災難だったな」
「こうなる前に止めて欲しかった」
月読命が俺の目の前まで来て言ったので俺も抗議しておいた。
「男としては幸せなのではないか?」
「命の危険が迫ったんだが?」
ああ言えばこう言う、これ以上は不毛そうだったのでこの話はここまでにしておく。
「それで月読、私を呼んだのは何の用があってなの?蒼夜くんと会わせるためだけではないのでしょう?」
ようやく本題に入れそうである。
「うむ、我は蒼夜に加護を渡そうと思っているのだがな。我の加護を受け入れられるものは少ない、それに受け入れられたとしても弱い加護ばかりでな。蒼夜は神域に呼ぶことまでできたからな強い加護を渡そうと思うのだがどの程度がいいか分からなくてな」
「あら、そうだったの。そうね、加護は基本的に相手がよほど規格外でなければ与えることのできる上限より少し下ぐらいね。規格外の子に渡しすぎれば道を踏み外すこともあるし、上限以上に渡しても扱いきれずに自分を傷つけてしまう可能性もあるから」
「ふむ、そうなのか?では蒼夜を見てやってくれ、我ではどの程度が規格外かわからぬのでな」
「わかったわ」
木花咲耶姫が俺がどの程度加護を受けられるのか見てくれるらしい。
それにしても加護は本人の才能に準ずるんだな、規格外がどの程度かは分からないけど上限以上の加護は与えられた側が危険っていうのは過ぎたるは及ばざるが如しとも言うし理解できるな。
そんな事を考えていると、木花咲耶姫は俺のことを見終わったようだ。
「あら、美雪ちゃんを通してある程度知ってはいたけど本当に規格外ね。まだ5歳なのにもうここまで来ているなんて凄いわ」
褒められた。
「ありがとうございます」
一応お礼を言っておく。
「それで咲耶よ、我は此奴にどの程度まで加護を与えていいのだ?」
「少し待って、だってこの子大きい壁はまだ超えていないけど小さい壁はいくつも超えてるし精神は強く基礎もしっかりしているからあんまり与えすぎたら天照などに怒られてしまうわ」
「むぅ、それは面倒だな。ならばもう少し待つ」
ふむ?大きい壁は多分上の上から超越者になる場合の壁だろう。小さい壁はよく分からないが牛鬼と戦った時に越えたと言う壁か?それとも別のだろうか?精神と基礎に関しては、基礎は生まれた時から固めていたし精神は一度死んだのだから言うまでもないか。
「よし、もういいわ。決めたから」
「そうか、それでどの程度までなら大丈夫なのだ?」
おや、もう決めたらしい。さて、俺はどの程度の強さの加護をもらえるのだろうか?
「そうね、だいたいこの程度かしら」
木花咲耶姫はそう言って手のひらを上に向けその上に小さな光球を出した。
その光球は、大きさこそ小さいがそこから発せられる力はとても強かった。
「うん?その程度しかダメなのか?もう少し強くてもいい気がするのだがな?」
月読命がそう木花咲耶姫に言うと。
「ダメよ、あんまり与えすぎてもこの子のためにならないのだから。それでも納得できないのなら神降しの術を教えてあげなさいな」
「それなら、まあ、仕方ないか。わかった、そうしよう」
そう言って月読命は納得したようだ。
「それでは蒼夜よ、こちらに来い。今度こそ其方に加護を与えるからな」
そう言って俺に向かって手招きした。
「わかった」
俺はそれに従い、月読命の近く彼女の目の前まで行った。
俺が目の前まで行くと彼女は俺の頭に手を翳した。
「それでは、今から加護を与える」
「はい」
彼女の言葉に、俺は返事を返して加護が与えられる時を待った。
だが、少し経っても彼女は何もしなかった。
「えーと、さっきもそうだったけど今度は何?」
俺が聞くと。
「うむ、其方は久しぶりに我が加護を与える相手だこんなありきたりな与え方でいいのかと思ってしまってな」
そんな事を言ってきた。与え方は何でもいいのでは?などと思ったが一応聞いてみる。
「与え方で何か変わるので?」
「いや、変わらぬ。しいて言えば我が満足する」
どうやら何も変わらないらしい。
何じゃそりゃ、とも思ったが久しぶりに加護を与えられるからテンションが上がっているのかもしれないと思い何も言わなかった。
「それならどんな与え方でもいいけどできれば早くして」
「うむ、では目をつぶれ」
俺は言われた通りに目をつぶった。
「それでは、今度こそ加護を与える」
月読命がそう言い俺の頭の左右を両手で包み少し上を向かせた、すると...
「ちゅ」
「!!!???」
額にとても柔らかい感触が触れた。
驚いた俺が、慌てて目を開けると目の前で月読命が微笑みを浮かべながら俺の方を見ていた。
「今、何を...?」
俺が聞くと。
「加護を与えただけだ」
「額にキスしていたけれどね」
月読命はそう答え、その後に木花咲耶姫が付け足していた。
そう言われてみると何か力が宿った感じが明確に伝わってくる。
それはそうとキス?マジで?やっぱりさっきのってキスだったんか。
その事を自覚すると、たちまち心臓の鼓動が速くなった。
「久しぶりに加護を与えられるからって随分はしゃいだわね」
「黙れ、確かにそれもあるがそれ以上に我が此奴のことを気に入ったからにすぎぬ」
そんな事を月読命と木花咲耶姫が話していたが、俺は全く気にならず額にキスされた事に呆然としていた。
「ほれ、いつまでぼけっとしている。せっかく加護を与えたのだ何か言わぬか」
そう月読命に言われ、ハッとなった俺は慌てて。
「ありがとうございます」
と、そう言った。
「うむ、それと蒼夜これからは我の事を月読と呼んで良いぞ。其方のことはとても気に入っているし加護も与えたのだからな」
「あら、それなら私のことも咲耶でいいわよ?それから、美雪ちゃんのことしっかり面倒見てあげてね」
二柱の女神にそう言われ、俺は慌てた。
「えっと、流石に呼び捨てはできないから月読様と咲耶様でお願いします。それから美雪には、むしろ俺が面倒見てもらってますからね何かあったら俺が何とかします」
何とかそう返した。
「むう、今はそれで良い。その代わり壁を超えて超越者だったか?その境地に至った時は我のことは呼び捨てで呼べいいな?」
「わかりました」
「それじゃあ、私のことも超越者になったら呼び捨てで呼んでね。それから美雪ちゃんのことひとまずはそれでいいけどくれぐれもよろしくね」
「はい」
何とか納得してもらえたようだ。
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