第25話
目の前の神、日本神話の最高神である
「失礼ながら、私の記憶が正しければ月読命は男神とされていたはずでは?」
「そんなことよりも、その堅苦しい言葉遣いをやめよ。普段通りに話したとて、他の神はともかく我は罰したりなどせぬ」
「わかりま...わかった」
質問は無視され、普段通りに話せと言われた。不敬な気がするが、罰せぬと言ってくれたのだからその通りにしよう。でもなんでだろう?性別不詳の神とされてはいるが、数少ない記録では男神だったはずなんだが。
「そんなに我の性別が気になるか?」
「あっ、その...はい、とても気になります」
俺の考えていることがお見通しのようなので素直に聞いてみることにした。
「なに、簡単なことだ。元々、我の加護を得る者は少ない。適性が無いのではなく、我以上に我が姉、天照を始めとした他の神仏の方がより適性が上ということだ。それに、我は神としての格は高いが、あまり人の子等に知られていない、知られていても他の神を信奉していることが多いからだ」
「なるほど」
「そして、其方の知る我が男神という記録に関しても、我の姿や声を正しく認識できず勘違いしたり、話し方のみで判断したからであろう」
「そうだったのですか」
それは驚いたな。確かに神仏、その中でも高位の存在であれば人間が正しく認識できなくてもしょうがないだろう。ましてや、相手は神話の中ですら兄弟神である天照や素戔嗚と違いあまり有名では無いからな。
他にも聞きたいことがあるから聞いてみよう。
「それでは、こうして会うことができたのですし俺には貴女の加護を受け取るだけの才能があるということですか?」
「いや、才能はあるにはあるが特別秀でているわけではない」
「では何故?」
「我が其方を気に入ったからだ。本来であれば声をかけるのが精々だっただろうが、このようにして会えたのは其方が幼い頃から鍛え。また、先日壁を超えて先に進んだからだ」
「壁を超えた?」
「少し前に鬼と死合うていただろう。あの時だ、其方は己より秀でた相手を倒すために意識を変えた。其方は実戦を経験していなかったが故に己の力に比べ精神がいささか釣り合っていなかったのだ。まあ、釣り合っていないと言っても未熟とかではなく単純に経験不足と言うやつだ」
そう言った後に「それに、毎日毎日飽きもせず熱心に我の事を見ていたのだ、会ってみたくもなる」と言って微笑んだ。
俺は、少しの間その笑みに見惚れた後なるほどと思った。
それにしてもよく見ておられる、さっき俺のことを見ていたという言葉は本当だったらしい。
実際、生まれてすぐに霊力を鍛え始め刀も教えられた事と前世で聞き齧った事を混ぜ合わせながら自分に落とし込んでいたし。牛鬼と戦った時も心の底から楽しいと思い興奮したが、今思えばアレが壁を超えたということだろう。今俺が一番好きなことは何かと聞かれれば月を眺めることと答えるだろうからな。
そう考えてみると、よほど他に才能がなければ月読命以外に加護をもらうなんてこともないだろうと思った。
「そうなのですか、それはとても嬉しいですね」
「嬉しい?」
「ええ、だってそうでしょう?今こうして貴女と話せるということは、才能があるとはいえ幼い頃から自分を鍛えた事や、自分が好きで毎日していたことが認められたようなものなのですから」
実際、その通りだと思う。月読命も才能はそこそこしかないと言っていた、ならば今こうしてここにいるのは俺が自分を鍛え、実戦で壁を超え、なにより自分が心の底から月が好きなのが理由なのだから。
「アハハハハ!其方はやはり面白いな。そのような事を言うとは。そうだな、確かにその通りだ。それで、其方は我が加護を受け取るのか?」
「えっ?拒否とかできるのですか?」
「普通はできぬ、基本は一方的に与えられるものだ。言葉を聞くことができても其方のように神に会えてもそれは変わらぬ」
「ならどうして俺には選択肢が?」
「それは我が其方を気に入ったからだ。捻くれた者ならいざ知らず、己の気に入った者に対し嫌がることなどするものか。まあ、加護を拒否されるのは途轍もなく悲しいことではあるがな?」
そう言って、神は小さく笑った。
「それにだ、こうして神に会えたとて其方のように平然と話ができる者など早々おらぬ。神仏との会合はそれだけ精神を磨耗させる。もし出来るとすれば、その者がとても珍しい者か、もしくは、なんらかの理由で精神や自我、魂が鍛えられ、神と面と向かって話しても大丈夫かのどちらかだ」
そう言われて俺の心臓は跳ね上がった。
おそらく、月読命が言っているなんらかの理由は俺が一度死んだことだ。多分相手も全てを知っているわけではないだろうが、赤子の時から月を見ていたのだし多分転生者だとほとんどバレていると思った方がいいか。
「そうなのですか」
「まあ、もし其方に覚えがあったとしても話したく無いのなら無理に聞き出したりなどはせぬ。話したくなったら話すが良い」
月読命はそう言ってくれた。
「ありがとうございます」
俺は感謝した。相手は神とはいえ、言わなくてもいいと言ってくれるのなら言葉に甘えたい。
「それで、其方は我の加護を受け取るか?」
そう言えばその話をしていたんだった。
俺の答えはもちろん決まっている。
「はい!喜んで受け取らせていただきます」
「そうか、それでは今から其方に加護を授けるとしよう」
月読命は、安心したように息を吐き出すと俺の方に手を向けた。
俺は、思ったより人間みたいなところがあるなと思いながら加護を授かる時を待った。
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日本書紀と古事記が混ざってても気なさないでください。
あと、他の作品でも男神が女神になる事多いから別にいいですよね。基本性別不詳の神ですし。
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