第24話



「若様、大丈夫ですか?緊張してませんか?」


 母さんと美雪に甘やかされた翌日、今日は俺が神の加護を授かるための儀式をする日だ。

 どうやら美雪は心配しているみたいだが俺自身はなんとかなるだろうと思っている。


「大丈夫だよ美雪、もし神仏にあってもしっかり礼儀をわきまえていれば問題無いのだし」


「それはそうですが...」


 うーん、心配してくれるのは嬉しいけどここまでされると逆に緊張してきてしまう。


「心配されるのは嬉しいけどそんなにされたら逆に緊張してしまうだろう?」


「そ、それは、すいません...」


「ははは、珍しいね美雪がそんなに動揺するの」


「うう、それだけ若様のことを心配しているのです」


「わかったってば」


 うーん、こそばゆい。早く儀式の準備終わらないかなぁ。


 コンコン


「蒼夜様、蓮也様が儀式の準備ができたので儀式の部屋まで来るようにとのことです」


 お、ようやくおわったか。


「わかった、案内を頼む」


「かしこまりました」


「美雪もいくよ?ついてきてくれるのだろう?」


「はい!若様が心配ですからついて行きます」


 うーん、ここまで心配することなのかなぁ?


 そう思いながら、召使の案内に従い部屋に向かった。




_________________________________________



 儀式をする部屋についた。


 部屋の中は儀式を行うための触媒が置かれたり、陣が描かれてあったりしていた。


「来たか蒼夜」


「はい父さん」


「準備はできているな?」


「はい、出来ています」


 部屋の中に入ると父さんに母さん、紗希さんに紗枝と家族が全員集合していた。


「皆いるんですね」


「儀式はそれだけ重要だということだ。準備ができているなら早速儀式を始める、蒼夜は陣の上に座れ」


 父さんにそう言われ、俺は家族と美雪に見守られる中部屋の中央に描かれている陣の中心に座った。


「よし、座ったなら目を瞑り瞑想と同じように心を落ち着かせながら体全体に霊力を漲らせろ」


「わかりました」


 俺は父さんに言われた通りに目を瞑り瞑想を始め、霊力を体全体に流し巡らせた。


「これより儀式を始める」


 父さんはそう言った後、詠唱を始めた。


『天地人、森羅万象に宿し八百万の神々よ。今日この日、天峰蒼夜に神授の儀式を我、天峰蓮也の名の下執り行わんとし、供え祀る供物を持ってして何卒、神仏が力の一端を授け給わんことを聞食きこしめせとかしこかしこまをす』


 父さんが詠唱を終えると同時に俺の意識は白く塗りつぶされた。





_________________________________________




「ここは?」


 俺は意識が戻ると辺り一面、上も下も白い空間に立っていた。

 

 おかしいな?確か俺は神仏の加護を授かる儀式をしていたはず。最後の記憶は父さんが詠唱を終えると同時に意識が白く塗りつぶされたところまでで気がついたらここにいた。


「もしかして神域なのだろうか?」


 それであれば納得がいく、今の俺は確かに体がありはするが実際は精神体、魂だけの状態だろう。それに、儀式では神仏と会うことがごく稀にあるとも父さんは言っていた。


 だけど、それだったらどこにも神仏の姿どころか気配すらもないのはどういうことだろう?隠れているのなら、壁を越えて超越者になるどころか上の上にもなっていない俺に感知できないのは仕方ないとしてもそうしている理由が全くわからない。


「とりあえずもう少し待ってみよう。ただ、もしここが神域ではないならなんとか戻る方法を考えなければいけないんだが...」


 俺がそう呟き、ひとまず霊力を練ってみようとしたその時。


「やはりお前は面白いな」


 とても綺麗な声が聞こえた。


「っ、誰ですか?」


 こんな空間にいるんだ十中八九神仏かその眷属だろう。


「我の事か?」


 また声が聞こえた瞬間、目の前に誰かが突然現れた。


 それはとても綺麗な女性だった。最初に夜を連想した後もいくつもの言葉が浮かんできた。とても綺麗な漆黒の長髪、光を吸い込む黒曜石の瞳、この世のものとは思えぬ程整った美貌に着物越しでもわかる抜群のプロポーション、着ている着物も黒を基調として白の紋様が入ったシンプルでいて品があり、最上級の物と一目でわかる代物だった、肌も色白で透き通っており髪や瞳、着物が黒の中でとても映えていた。


「.........」


 俺はそのあまりの美しさにしばし呆然と見入ってしまった。


 ようやく意識が戻った俺は慌ててその場に平伏し。


「お初にお目にかかります。私は天峰蒼夜と申します」


 自分の名を名乗った。


「知っている」


 どうやら相手は知っていたらしい。


「其方のことは、昔から見ていたからな。其方も昔からほぼ毎日我の事を見ておったであろう。それも随分熱心に」


 昔から俺のことを見ていた?いや、それよりも俺も昔から見ていただと?しかも熱心に見ていた?そんな覚えはないはず、少なくともどこかの神社に行ったりした記憶はない。

 平伏したまま俺は考えを巡らせていた。


「まあ、そう言われてもわからぬのも無理はない。どれ、我の姿を見ることを許そう。面をあげよ」


 俺は言われた通りに顔を上げ、相手を見た。


「我はまだ其方に名乗っていなかったな。其方、我の名を当ててみよ。何、外したとて取って食ったりなどしない。気負わずに言ってみよ」


 俺はそう言われ目の前の神をよく見てみた。


 目の前の神は、全体的に黒を基調としていてそこに白が入る感じだ。そうだな第一印象はどんな物だったか、美しいや綺麗以外もっと別のことを思ったはずだ。

 あの時俺は...そうだ、夜を連想した。他には無いか?確か、神はこう言っていたな。昔から俺のことを見ていたと、だがそれに関しては覚えがない。

 あ、あと、俺も昔から見ていたとも言っていたな。他には無いか?他には...ああ!美雪が神仏の加護を得る際に相性もあると言っていたな、この相性は生まれつきの才能もあるがそれまでの行動にも関係があると言っていた。

 それならば、俺が毎日見たものはなんだ?逆に毎日見られていたものは?少なくとも人は関係ない、関係があるとすれば動物や自然現象、無機物だが夜を連想するものと言えば...月か!そうだ月だ!あの家で暮らしていて俺が毎日熱心に見ていたモノと言えば二つしかなく、片方は庭園で、もう片方は月、この中で夜に関連があるものといえば月しかない。

 そう考えて俺は納得した。俺は前世から月が好きだった、日本庭園も好きだったがそれ以上に月が好きだった。だから、転生した後も赤子の時に身動きが取れず見れなかった場合や雲で完全に月が隠れてしまった時以外は毎日見ていた。


「答えは出たか?」


 俺が考えをまとめていると、目の前の神が聞いてきた。


「もう少しだけお待ちください」


 ここまで来たら答えは出たようなものだ。相手は着物を着ていることや髪や目の色からしても日本の神だろう。何より、俺自身昔から続く退魔師の家系であり、外国の血は入っていない。そして、日本の神であり夜と関連があり俺が毎日見ていたモノ、つまり月と言うことはこの神の名前は。


月読命つくよみのみこと


 俺が名を口に出すと、神はとても綺麗な笑みを浮かべ。


「正解だ」


 そう答えた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る