第22話



 

「ふう、とりあえず儀式の話はこれで終わりだ」


 そう言って、父さんは肩の力を抜いて姿勢を少し楽にした。


「儀式の話はってことは、他にも何かあるの?」


「ん?ああ、あるぞ。とはいえ儀式の話と比べたらそんなに大事な事でもないが」


 父さんはそう言った。

 他に用事なんてあったかな?儀式に関しては美雪に前もって聞いてたけど、それ以外のことは特に何もなかった気が?


「何かあったっけ?」


「おいおい、美雪から聞いてないのか?お前の倒した牛鬼に関してだよ。アイツの死体を解体して得た素材を使って何か作らないかってことだ」


「ああ!そういえばあったね。でも何か作るって言われても特にないんだけどなぁ」


「そういうな、アレはお前が初めて倒した強敵、しかも初陣でだ。記念も兼ねて何か考えてみろ」


 父さんに言われて少し考えてみた。


 確かに前美雪に牛鬼の素材に関して言われていたことがあったな。うーん、でも改めてどうすると言われてもなぁ。


「うーん、父さん牛鬼の素材は何が取れたのですか?」


「あの牛鬼から取れた素材は角に骨、皮に武器の棍棒から取れた特殊な木材だな。他にも血や肉、内臓に筋なんかも取れたが、これらは既に薬などにして使ったり売ったりしてある。蒼夜も使わないだろうからな、筋は弓が欲しいなら必要かもしれないから一張分は残してある」


「ありがとうございます」


 確か、角とか骨は砕いたり溶かしたりして鉄と混ぜ合金にして武器を作れるんだったか、それなら刀にしてもらおうかな、蒼月は強いけど俺の体に合わせて小さくなっている。成長すれば戻るだろうけど今のうちから本来の太刀の大きさに慣れてもいいだろう、それに素材的にもちょうど揃っていると言えるし。


「それでは、刀を作って欲しいです」


「刀か、大きさはどうする?今のお前に合わせた大きさにするか?本来の大きさの刀にしても大太刀のように大きかったり、太刀であっても作り方で随分変わるぞ」


「大きさは普通の太刀で大丈夫です。作り方は詳しくないので最も素材を活かせて良い物ができるのならなんでもいいです」


「わかった」


「ところで、牛鬼の素材の質はどの程度ですか?あと、量も刀は作れるみたいですけど、どのくらい残りまか?」


「それなら安心しろ。牛鬼は強さこそ上の下だったが潜在能力が高かったのか素材の質は下手な上の中より断然良い。量も角や骨を素材に鉄と混ぜ合わせて刀を数本は作れる」


 それは良い、これなら出来上がる刀にも期待できそうだ、それに刀を数本打てるだけの量があるのなら美雪の槍も作ってもらおうかな。あの槍は確かに質はいいけど美雪がさらに強くなることを考えたら少し物足りない。その点、下手な上の中より質のいい素材を使えば強くなっても十分使えるだろう。

 

「それなら、美雪の槍も頼んでも良いですか?」


「え!?」


 おや?美雪が随分びっくりした顔でこっちをみてる。でもこれから先、俺が強くなって妖退治に出る時美雪にもついてきて欲しいんだよね。実力が足りないのならともかく、今の時点でほとんど上の中と言って良い実力を持っているから十分ついて来れると思うし。


「そんなにびっくりしてどうしたの?」


「えっと、その、若様が倒した牛鬼の素材なのに私の武器を作るために使うと言うのはその...」


「別に遠慮しなくても良いよ。量は刀数本を打てるだけの量があるし、それに美雪はこれから先も妖退治について来てもらうつもりだからね。どうせ使うなら、強い武器の方がいいでしょ?」


「それはそうですが、本当によろしいのですか?」


 珍しく美雪が無表情を崩して聞いてきた。いや、最近は普通に表情崩れているからそうでもないな。


「いいってば、妖退治についてきてもらう以上、いい武器を使った方が安全にもつながるしね」


「若様、ありがとうございます」


 しっかり、納得してくれたようだ。


「というわけで、父さん。俺の刀と美雪の槍を作ってもらっていいですか?」


「ああ、わかった。美雪、槍の形は今使っているものと同じでいいんだな?」


「はい、幼い頃から使っていたので同じ形がいいです」


 美雪の槍は和槍で、石突から穂先までが大体2メートルかそれより少し短いぐらいで刃の長さは30センチから40センチほどの両刃だ、柄が白く青の模様が描かれているのが特徴だ。


「蒼夜、刀と槍以外はないか?」


 そう父さんに聞かれた。

 他の物か、防具は...いや防具がいらないわけでわないが甲冑などはいらないな基本的に今俺がもっている着物みたいな布の防具の方が個人的に好きだ。だから特にないんだが脇差なんかもなぁ、どうなんだろう?


 ん?いや待てよ。父さんはさっき牛鬼の筋を弓一張分残してあるって言ってたな。前世の知り合いに、弓道をやると心が落ち着くと言っていた奴がいたな。やるのは弓道ではなく弓術だろうけど、刀や霊術、その他の勉強の合間に息抜きとしてやるには良いのでは?紗枝と遊んだり美雪や母さんに甘えるのも息抜きにちょうど良いが体を動かしながら息抜きができるのなら弓もいいだろう。


「では、弓が欲しいです」


「弓か?一応そう言われた時のために牛鬼の筋は少し残してあるが本当にそれで良いのか?」


「はい、刀や霊術の鍛錬も良いですが、弓には心を落ち着ける効果があると聞いたので息抜きとしては丁度良いと思いました」


「わかった、それなら牛鬼の素材を使って作るのは刀と槍、そして弓この三つでいいんだな?」


「はい、でも本当に素材は足りるのですか?」


「ああ、角や骨を使うとはいえ金属と混ぜて合金にするからな。甲冑などと言われれば足りなかったかもしれないが、牛鬼自体が異常個体で6メートルもあり取れた素材も多かったからな問題はない」


「それではお願いします」


「任せろ。話はこれで全部だ、お前はもう部屋に戻って明日の儀式に向けて心を落ち着かせておけ」


「はい」


 ふう、それじゃあ部屋に戻って縁側で瞑想でもしていよう。







 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る