第21話




 牛鬼を倒した翌日、紗枝と遊んだり美雪に甘えたりした日からもう一ヶ月ほどたった。


 この一ヶ月は、俺自身の戦闘能力向上の鍛錬以外にも、紗枝と遊び霊術を教えたり休み時間に美雪や母さんに甘えたりと充実した日々を過ごしている。それに、あれからもう一度だけ妖退治に出た。とはいえ、その時は異常個体が出ることもなかったし、1時間ほどで戻るよう言われていたので特に問題もなかった。

 

 今も朝の鍛錬が終わり、自室で美雪とお茶を飲みながらゆっくりしていた。


 コンコン


「蒼夜様、入ってもよろしいでしょうか」


「ああ、入っていいよ」


 手に持っていた湯呑みを机に置くと部屋に召使の1人が入ってきた。


「それで何か用?」


「はい、蓮也様がお呼びになっています」


「父さんが?何の用かわかる?」


「申し訳ございません。用件の方は聞いておらず、ただ蒼夜様を呼ぶようにと」


 父さんが俺を呼んでいるらしい。

 用件はなんだろうか?前回の紗枝達のようなことではないだろうし、妖退治に関することだろうか?


「わかった、今から行こう。案内してくれるんだろう?」


「はい」


「美雪もついてきてね」


「かしこまりました」


 用件はわからないが父さんが呼んでいることだし行けばわかるだろう。

 そう思い、召使に案内を任せ俺と美雪は部屋を出た。




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「こちらです」


 召使の人が案内してくれた部屋は前回と違い家族で集まったりする部屋だった。


「今回はこっちなんだね」


「前回と違い家の中のことなのでしょう。もしかしたら、若様が倒した牛鬼の使い道や神の加護のことかもしれませんよ」


「そうかもね」


 俺の疑問に美雪が答えてくれた。


 確かに牛鬼の素材の使い道は決まってないし神の加護に関する説明もまだ何もしてもらってないしな。


「それじゃあ入ろうか」


 俺はそう言って扉を開け部屋に入った。



「父さん来ましたよ」


「ああ、来たか。早速だが話があるからそこに座れ」


 中に入ると父さんと母さん、紗季さんがいる。紗枝は寝ているのかそれとも授業中か、それは置いておいて言われた通り座るとしよう。


「それで、今日はどんなようで呼んだの?」


「それについては今から話そう」


 父さんはそう言って居住まいを正した。


「蒼夜、神仏の加護については知っているか?」


「はい、美雪から大雑把に聞きました」


「なら細かく説明しよう。神仏の加護と言うのは10歳までの幼い子供に儀式を通して神仏が加護を与えてくださることを言うのだ、例えば美雪がどの神仏の加護を得ているか知っているか?」


「美雪は木花咲耶姫から加護をいただいたと聞きました」


「その通りだ、他にもオレであれば建御雷神たけみかづちのかみの加護を得ているし、唯であれば」


「私は鬼子母神きしぼしんの加護をもらっているわ。それに紗季さんも」


「はい、私は神功皇后じんぐうこうごう様に加護をいただきました」


 驚いたな、父さんと紗季さんが加護をもらった二神は戦神や軍神の神だし母さんが加護をもらった鬼子母神は子供の安全や安産の神であると同時に鬼神でもあるから全員退魔師として妖と戦うことを考えたら最適な神仏から加護をもらってる。


「三人共有名な神仏から加護をもらってるんですね」


「まあな、ともかく今は説明が先だ。このように儀式によって神仏から加護をもらえるわけだが、その儀式をお前にしようと思っている」


「それがどうしたのですか?大事なことだと言うことはわかるのですが、なぜそこまで真面目に?」


「そうだな、理由としては10歳までとは言うがより正確には7歳から10歳までの子供がやる事でお前はまだ5歳だオレは7歳になって半年ぐらい経ってからだったし、唯と紗季は9歳になってからだったんだ。お前の曾祖父、オレの祖父は6歳でやったがそれと比べても早い」


「それの何が問題なのです?やろうとしたと言うことは俺が儀式をしても大丈夫と思ったからなのでしょう?」


 実際そうだろう。俺は今世ではまだ5歳だが前世も合わせれば25、肉体はともかく精神は多少変化はあっても十分成熟していると思う。


「まあ、そうなんだがな。それでもやはり不安はあるんだよ」


「はあ、でも俺に話したと言うことは儀式を行うのでしょう?」


「そうだ、だから今から儀式について話す。儀式ではお前は基本床に描いた陣の上に座り、心を落ち着かせ瞑想していればいい。ただ儀式の最中、特に加護をもらう際に神仏と会うかもしれないんだ。実際、オレと唯そして紗季は会うことこそなかったが言葉をいただいたことはあるからな。お前は控えめに言って天才だ、僅か5歳で異常個体の牛鬼を倒すし刀や霊術の腕前も一流、特に霊術は自己改良したり新しく生み出したりする始末、だからもし儀式で神仏に会うことがあれば無礼なことは決してしないように」


 なるほど、確かに子供それも小学校にも通っていない幼い子であれば神仏と出会い無礼を働くこともあるだろう。それこそ、鬼子母神などの子供を守る神仏であれば大目に見てもらえるかもしれないが、気性の荒い神や仏であればその場で殺されても文句は言えないと言うことか。


「わかりました。もし神仏に出会うことがあっても決して無礼な真似はせず礼儀正しくしています」


「絶対にそうしてくれ」


 父さんは安心した様子でそう言った。


 そういえば、神仏の加護と言うけれど他の家、特に力の弱い分家や退魔師の家系でない一般人の人なんかはどうなんだろう?聞いてみよう。


「ところで父さん、神仏の加護と言うのは他の家の人や分家の人、一般人の人なんかはどんな神仏から加護をもらっているのですか?」


「どんな神仏から加護をもらっているか?か、そうだな、まずは我が家と同格、つまり本家筋の者たちや上位の実力を持つ分家などだな。これらの家の者はオレと同じように建御雷神などの力のある神仏から加護をもらったり先祖に安倍晴明あべのせいめい菅原道真すがわらのみちざねなどの死後、神になった人達がいた場合は彼等から加護をもらったりもするな。他の分家に関しても加護を授ける神仏の力が弱かったり授けられる加護の力が本家筋の者と比べ弱かったりするが、これは才能が関係したりもするからなんとも言えん。とはいえ、鍛えれば加護の力が強くなるからそこまで気にする事でもない。そして、一般人の人たちは基本的に神社や寺などでその地域に根ざす退魔師の家の者が大勢を同時にやる。大体がその土地を守護する産土神うぶすなのかみや家系を守護する氏神うじがみ、そして道祖神どうそしんなどが協力して無病息災などの加護を授ける。ごく稀に才能を持った子が力を持った神から加護を授かることもあるが、これは稀なことだ」


 なるほど、産土神はその土地の守護神だし氏神も氏族を守護する神、道祖神も道端に佇み疫病や悪霊が町などに入らないようにする神だからな。そう考えたらこれらの神が協力してその土地に住む者たちに弱いとはいえ加護を与えるのは当然か。


「そうだ、でも実際に一般人の人の中からその土地の神とは別の神から加護を与えられる人はどのくらいいるの?」


「稀なこととは言ったが、これは退魔師として十分活動できることを基準にした場合だ。警察などに所属し餓鬼などを祓ったり、妖関連の事件が起きて退魔師が来るまで結界を張ったりするぐらいの実力であれば毎年少しはいる」


「それはそうと貴方、蒼夜の儀式をいつ行うかは決めないのですか?」


「む?ああ、そうだったな。儀式に必要な物は揃っているからいつでもできるが蒼夜はいつ頃がいい?」


 やっぱり実力が低くても毎年少しはいるんだ。それはそうと儀式か、母さんが父さんにいつやるのかを尋ねて父さんはいつでもいいと言ったけどどうしたものか。


 んー、でも善は急げとも言うし今日は流石にアレだから明日にしよう。


「では、儀式は明日でお願いします」


「わかった。では準備をしておく」


 父さんはそう答えた。さて、今日はこれだけかな?他にも何かあるのかな?







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 神様多すぎ問題。有名どころを出すかマイナーな神を出すか迷いますね。



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