第18話



 美雪と話してしばらく今だに俺は美雪の膝の上で抱きしめられていた。


「美雪ーいい加減離してってばー」


「ダメです。若様は普段甘えてくれませんからね、こういった機会はしっかり物にしなくてはいけません」


 俺の抗議を無視して更に美雪は強く抱きしめてきた。


「甘やかしてくれるのは嬉しいけどそれは明日甘えさせてもらうって言ったじゃん、それに探知の術に父さんっぽい反応が引っかかったからそろそろ着くと思うよ」


「むぅ、仕方ありませんね。明日しっかり私に甘えてくださいよ?」


「わかったってば」


 美雪は俺が明日甘えることを約束にようやく膝の上から解放してくれた。


「それはそうと、今回のことの父さんへの説明どうしよっか?」


「そうですね、そのままを話せばいいと思いますよ?術符を使って連絡した時も全てでなくても強い妖が3体出たということはすでに話してありますから、牛鬼の角や死体などを見れば誤魔化してもすぐにバレます」


「まあ、そうだろうね。牛鬼の死体と言えばあの異常個体の死体放置したままだけどあのままでいいの?」


 俺はそう言って倒された時のまま地面に放置されている牛鬼の異常個体の死体を指差した。


「あれはそのままで構いません。当主様に今回のことを説明する際に使います」


「そうなんだ」


 そうやって離しているうちに父さんもついたみたいだ。




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「大丈夫か?蒼夜」


 父さんは着いた瞬間そう言った。


「うん、ちょっと珍しいことに巻き込まれたけど俺も美雪も大丈夫だよ」


「はい、特に問題はございません。いささか若様が無理をなさりましたが既に治癒の術で回復済みです」


「そうか、無理をした内容は後で聞かせてもらうとして異常個体はどこだ?」


「それでしたら、そちらに死体があります。若様が倒されました」


 父さんの質問に美雪が答え、未だに血を流し続ける牛鬼の死体に視線を向けた。


「これは......本当に蒼夜が倒したのか?」


「はい、他2体の通常の牛鬼は私が倒しましたが、そちらの異常個体は若様が1人で倒されました」


「上の下に至った妖をか?」


 驚いたみたいだが、さすが父さん見ただけで妖の格がわかるらしい。


「はい」


「そうなのか」


 父さんは美雪の返事を聞いて少し考えたそぶりを見せた後。


「ハハハハハ!!!!そうかそうか上位の妖を蒼夜が1人で倒したのか!!!ハハハハハ!!!」


 そう言って俺の頭を笑いながら撫でてきた。


「うわっ父さんいきなり何するの」


「そう嫌がるな蒼夜、1人でしかも初陣で上の下の妖を倒すなど御三家に生まれた子だろうと滅多にできることでは無い。よくやった」


 父さんは嫌がる俺を無視して褒めながらも頭を撫で続けた。


「さて、これだけ愉快なことは久しぶりだが、いい加減夜も深い家に帰るぞ」


 父さんは撫でるのを止めるとそう言った。


「それはわかったけど牛鬼の死体はどうするの?美雪が倒した奴らは角だけが残ったから問題なく持って帰れるだろうけど俺の倒した異常個体の方は丸ごとだから持って帰れないよ?」


「それは安心しろ、今家の者たちもこちらに向かわせているからなアイツらに死体の後処理は任せよう」


「それでしたら、私が霊術で氷漬けにしておきましょう」


「おお、なら頼む」


 俺の疑問に対して父さんが答え美雪が死体を氷漬けにしてくれた。


「もう夜も深い、家に帰るぞ。唯も心配してるだろうしな」


「うっ、家帰ったら怒られるかな?」


「怒られはせんだろう、思いっきり抱きしめられはするだろうがな。そのぐらい諦めろ」


 父さんはそう言って早くいくぞと言わんばかりに歩いて行った。


 母さんからはやっぱり逃げられないよなぁ。




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 蓮也side


 蒼夜と美雪を連れて屋敷に帰った後、オレ天峰 蓮也は庭の東屋にいた。


「なあ慎吾、今回のことどう思う?」


 夏の涼しげな夜の中自分の向かいに座りツマミをつついている強面で荒々しい印象を相手に与える男、護衛兼友人の松屋慎吾まつやしんごにそう聞いた。


「そうだな、蒼夜坊ちゃんが5歳にして退魔師の家の本家筋の当主クラスの実力を持っていることはとても喜ばしいことではあるな、努力も怠ったりしないしな。でも、そうじゃ無いんだろう?」


「ああ、今回蒼夜が討伐した異常個体もそうだが今、日本中で強い妖が現れたり弱い妖でもかなりの数で群れて現れたりしているんだ。これらのことが無関係とは思えなくてな」


「全部誰かが裏で仕組んだとでも?」


「いやそうじゃ無い、時代の変わり目と言うのだろうか、何かしら大きなことが起き始めている気がするんだ。蒼夜の事もだが他の家でもかなりの才能を持った子が生まれてきていると聞いた。そして、それに呼応するように妖が強くなったり厄介になったりしているからな、無関係とは思えない」


 慎吾も馬鹿では無い、むしろその強面に荒々しい見た目とは裏腹によく回る頭脳と上の下という退魔師として十分一流と呼べる実力を持っているから天峰家の護衛たちのまとめ役をやっている。故にオレの言いたいことが理解できるだろう。


「つまりあれか?人間に強い奴や将来的に強くなれる奴が生まれたから妖も強い奴や異常個体が現れやすくなっていると?」


「その通りだ、下手をすれば封印されている奴らも出てくる可能性があるし、紗季の家を襲撃したあの妖だってそれらと関係があるかもしれない」


「マジかよ、ならどうする気だ?できることと言えば他の家にも知らせて蒼夜坊ちゃんや才能のある子供を鍛えて未来に備える事ぐらいか?」


「そのぐらいしかできないだろうな、それに他の家に関しても妙な動きをしているところもあるらしいし出来る事は少ない。念の為妖の封印や魔界の入り口などがある場所はこれまで以上に監視させるようにはしよう」


「わかったよ」


 まったく、蒼夜も随分大変な時代に生まれてきてしまったものだ、オレに出来ることといえばあいつが強くなり大きくなるまで守り鍛えることぐらいしか無い。それだって、今の調子なら10年も経たずに抜かされてしまうかもしれないし、本当に大変だ。


 オレは慎吾と酒を飲みながらそう思った。








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