第17話
「それにしても疲れたな」
牛鬼を倒した俺は、体全体に治癒霊術をかけて地面に座っていた。
「美雪の方はどうだろう?問題ないとは思うけど」
念の為探知の術で確認。お?ちょうど終わってこっちに来ているみたいだ。
「若様!大丈夫ですか!?」
「ああ、この通り牛鬼を倒して大丈夫だよ。怪我には治癒の術をかけてもう完治しているしね」
美雪は全速力で走って来たみたいで肩で息をしていた。そして、来た勢いのまま俺のそばまで近づいてきた。
「早かったね美雪、そっちは大丈夫だった?」
「大丈夫でしたけど若様は本当に無事なんですね?念の為、怪我が無いか体を見せてください」
俺の質問に美雪はそう言って俺の体を持ち上げ地面に座り、膝の上に俺を乗っけた。
「ねえ美雪、これ結構恥ずかしいんだけど...」
「わがまま言わないでください。心配したんですから、というかまだ若様は5歳なんですから甘えていただいてもいいんですよ?」
「それじゃあ、明日は紗枝と遊んだりする予定だからその時に甘えさせてもらおうかな」
「ええ、是非ともそうしてください」
俺の抗議を無視した美雪は話をしながらも、俺の腕を持ち上げたりして怪我が無いか確認し、念の為と治癒の術をかけてくれた。
「そういえば、妖って死体が残るのと残らないのがいるよね?俺の倒した牛鬼は死体が残ってるけど美雪の方はどうだったの?」
俺は、美雪の思っていたよりもボリュームのある胸に後頭部を預けながら気になったことを聞いた。
「私が倒した2体は角が残りましたが体の方は消えたので自然発生型の個体ですね。おそらく若様が倒した異常個体も自然発生でしょう」
そう答えながら4本のそこそこ長い角を見せてくれた。
それにしても、角が残ったのはなんでだ?俺の倒した奴みたいに強く無ければ死体は残らないのでは?それとも弱くてもゲームのドロップアイテムみたいに一部だけ残ったりするのかな?
「角だけが残ったってどう言うこと?一定の強さより弱ければ死体は残らないんじゃなかったの?」
「ああ、説明不足でしたね。より正確には一定の強さが無かったとしても、倒した際にその妖の特徴的な部分や力の強い部分、またはその個体が使っていた武器などが残ることがあるんです。それでも餓鬼のようにあまりに弱すぎれば何も残りませんが」
「へー、それはわかったよ。じゃあ、美雪の倒した牛鬼は角を残す以外だと他にはどんなものを残すの?」
「そうですね、他でしたら皮であったり、武器や防具を身につけていたらその武器や防具が残ることもあります」
なるほど、鬼なんかの妖は角に皮、武器や防具なんかを残すのか、にしても美雪さっきからすごい頭撫でてくるんだよなー。そんなに撫でるの楽しいのかな?恥ずかしいからもうちょっと控えめにしてほしいんだけど。
「それはそれとして若様?異常個体を倒していますけど本当に無理はしていないですね?牛鬼は真っ二つになっていますし後ろの森がかなり吹き飛んでいるんですが?」
「アハハ、本当に無理はしてないよ。まあ、戦っている時にとんでもなく楽しくなって夢中になったりはしたけど」
嘘は許さないと言わんばかりに美雪に見られ、正直に話した。
「怪我が無いようなのでとやかく言いませんが、それはそれでとんでもなく不安になりました。これから先、今回みたいな事はできるだけしないで下さいね」
「絶対に、とは言わないんだね」
「退魔師として生きていく以上無理はつきものです。しないに越したことはありませんが、紗季様のお父様が自身を犠牲にして妖に重傷を合わせたのは当主様にお聞きになったのでしょう?」
「うん、聞いたよ。すごい人だよね」
「はい、とてもご立派です。ですが、死んでしまったことに変わりはありません。私は、若様にそんな無理はしないでほしいのです」
美雪はそう言って俺のことを優しく抱きしめてくれた。
俺は、美雪の手に自分の手を重ねながら。
「それは難しいね、その人は家族の為に命懸けでやったんだろう?だったら俺だって父さんや母さん、紗季さんや紗枝、そして美雪のような大切な人のためなら無理をすると思うよ。それに、俺はどうやら戦闘狂の気があるみたいなんだよ、さっき話している時も楽しくなったとか夢中になったって言っただろう?だから、強い妖と戦うことになったら嬉々として戦うかも知れないんだ」
「それなら1人で戦うっていうのをやめてください。私も若様に置いていかれないように強くなりますから。1人で無理をするのはダメです。いいですね?」
美雪に怖い顔で見つめられながらそう言われた。
「う、うん。わかったから顔離して!近くて恥ずかしいから!それにいい加減、膝からおろしてってば!」
「いいえ、ダメです。若様には他にも言いたいことが沢山あるのです。当主様が来るまではこのままで話を聞いてもらいます」
これはどうやら逃げられないようだ、諦めよう。でも、こうして心配してくれているのが実際にわかるととっても安心するな。と、俺は美雪の話を聞きながらそう思った。
「ちゃんと聞いているのですか?若様」
「聞いてるってば!」
......美雪は少し面倒な性格なのかもしれない。
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