第16話




「まったく、生半可な霊術が効かないって理不尽だよねぇ」


 俺、天峰 蒼夜は牛鬼と相対しながらぼやいていた。


 実際、美雪が使った『氷槍』と言う霊術は中級ではあるが、美雪は種族が雪女つまり氷や雪などの霊術に関しては得意中の得意であり限定的ではあるが、術の効果を一段上げることができる。


 それなのに、それを受けた牛鬼は無傷異常個体とはいえ結構ぶっ飛んでいる。


「グォォォォォ!!!」


 そんなことを考えていたら、今度はこちらの番だと言わんばかりに棍棒を振り上げた牛鬼が突撃してきた。


『木よ、我が霊力を糧に敵を縛り捕らえよ。霊樹纏縛れいじゅてんばく


 この術は、五行で言う木に属し霊力を糧に成長した木を使って相手を縛り付け捕まえる術だ。


 術が発動し霊力によって成長し強度なども格段に上がっている木が牛鬼を捕える。それでも完全には止まらず、おそらくそれほど時間をかけずに術を破られるだろう。


「だったら、追加でさらに縛りあげればいい」


『金気よ、我が霊力をもって鎖を生み出し、敵を拘束せよ。剛鉄縛鎖ごうてつばくさ



 霊力を元に鉄を作り出し鎖へと変え、敵を捕まえ動けなくする術を使い既に木に捕まっている牛鬼をその上から更に縛り上げる。


「グオォォォ!!グォォォ!!」


 ギチギチ!ガシャガシャ!


 2種類の霊術で縛り上げられて尚も逃れようと牛鬼が暴れまわる。


「仕上げだ」


 俺は牛鬼を捕まえながらそう言い、4本ずつ残っている氷剣と炎剣を牛鬼に向かって解き放った。


 ドゴォォォォォォン!!!!!!


 計8本の剣が牛鬼に当たると同時に大爆発が起きた。

 理由は、氷剣や炎剣などの術は相手にぶつかると同時に霊力を解放する事でその属性に応じた爆弾になる。それを利用し、極寒の氷と灼熱の炎を同時に解き放ち水蒸気爆発を発生させ牛鬼にダメージを与えた。

 余波は、体に纏った結界で問題無く対処、それでも爆風で数メートル後ろへ吹き飛ばされたから凄まじい威力だったことがわかる。


「おいおい、これでも倒せないって強すぎない?」


 ただ、これだけのダメージを受けても牛鬼は倒れなかった。爆発によって起こされた土煙で状態は見えないが、戦い始めてから常時発動している探知の霊術が牛鬼の反応をとらえたままだ。


『強風』


 霊術で風を起こすと、牛鬼の姿が現れた。流石に無傷とはいかなかったらしく全身に火傷を負い所々から血を流して左腕に至っては一部が炭化している。それでもあの爆発を受けてその程度の怪我ですみ、傷口の治癒まで始まっているのだから正真正銘の化け物である。


「これは霊術で決着をつけるのは無理だな」


 そう、これ以上の威力の霊術を使おうと思ったら時間がかかる、相手が待ってくれるとは思えないし1人で時間を稼ぐのも無理だろう。理由としては、霊力の量と操作性が優れていても体が出来上がっていないため一度に使える霊力の量には限界があるからだ。


「大人の体だったら存分に肉体改造できたんだけどな」


 俺がそうぼやいていると、牛鬼はこちらに向かって棍棒を投げてきた。

 俺はそれを横に転がることで回避した。


 ゴガガガガガ!!!


 俺が避けた棍棒は後ろの地面に当たり土を抉り取りながらどこかへ行った。


「馬鹿力め!」


 俺は罵りつつも蒼月を構え牛鬼に突撃した。

 力や防御では敵わないが速さと小回りであればギリギリ牛鬼に勝てるからだ、故に超接近戦で牛鬼を倒す!


 牛鬼は無事な右腕で殴りかかってきた、俺それを避け拳風で体勢を崩しながらも腕を切りつけたが浅い傷しかつけることができなかった。


 今度は、俺が速さを生かし牛鬼の後ろへ回り込みアキレス腱を切ろうと足を切り付ける。だが牛鬼に回避され、そのまま回し蹴りを放たれた。


 ドンッ


「グフッ!」


 俺は回し蹴りを後ろに跳ぶと同時に無詠唱で強度重視の小さな結界を俺と牛鬼の足の間に作り出し受けたが全て破られ霊光天鎧にも大きな罅を入れられた。


「マジかよ、完全では無いがかなり硬いんだぞこれ!」


 いや、完全に破られて骨を折られたり重傷を負うよりマシか。にしても本当に強いなコイツ、俺は初めての強敵に恐怖を覚えると同時に興奮もしていた。俺に戦闘狂の素質があるのか死の危険を前に狂いかけているのかはこの際どうでもいい、今はそんなことよりもコイツを叩きのめすのが先だ。


『風よ、我が身を包み何人も追いつけぬ疾さを我に。風神之加護ふうじんのかご


 俺は興奮のままに肉体強化系統の上級霊術を発動した。


 発動した瞬間、詠唱している間に近づき俺のこと殴らんと拳を振り上げている牛鬼に向かって突撃した。


 ブシャァ!


「グモォォォォ!?」


 俺が牛鬼の脇を抜け後ろに回ると同時に奴の脇腹から大量の血が迸った。

 風神之加護は対象者の速度を格段に上げる、また副次効果で肉体に風を纏わせる事により手や足、武器などによる攻撃力を上げると言う効果がある。その効果で斬れ味の上がった蒼月を使い奴を切ったのだ。


「牛野郎、楽しもうぜぇ!!」


 俺は気付けば笑っていた。出せる限りの速度を出し牛鬼の周りを駆けながら蒼月で切りつけ返り血を浴び、反撃を受ければ後ろに跳びながら結界と治癒の術を無詠唱で発動させ被害を最小限にし攻撃を続けた。

 それでも何箇所か骨に罅が入った。


 ザン! ザシュ! ズバ!


「グオォォォォ!!グルモォォォォ!!」


 俺が何度も傷を付けると、怒り狂った牛鬼が霊力を体から吹き出させ炎の鎧を全身に纏い辺りを焼き払い、同時に右腕を引き絞ってカウンターの構えをとった。


「なるほど、それがお前の切り札全力か、良いじゃないか!!」


 律儀に答える必要はないが、どうせなら相手の全力を打ち破って勝利したい。そんな欲求が俺の体を支配した。


 俺は、風神之加護により体に纏っている風に更に霊力を注ぎ、なおかつ蒼月にも全力で霊力を注いだ。そうすることで更に出力が上がるからだ。


「やろうぜ牛野郎、全力の一発勝負をなぁ!!」


「ぐるぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 俺と牛鬼は叫ぶと同時に突撃した。


 牛鬼は炎を纏った拳、俺は風を纏わせ全力で霊力を注ぎ込んだ蒼月、互いの全力のぶつかり合い、興奮が最高潮に達した俺は衝動のままにこう叫んだ。


斬天神月ざんてんしんげつ!!」


 叫ぶと同時に放たれた三日月型の斬撃は、牛鬼の炎を纏った拳ごと体を斬り裂き後ろの森を吹き飛ばしながら消えていった。


「ははっ!やったぞ、俺の勝ちだぁぁぁぁ!!!ははははは!!!」


 俺は全てを出し切った達成感と共にただひたすらに笑い続けた。

 





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 五歳児が6メートルの化け物を斬り殺すとはこれいかにwww



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