第15話


 美雪と一緒に武器を構えながら妖が来るのを待っていると、かなり近くまで来ていた妖がさらに速度を上げたことがわかった。


「美雪、妖が速度を上げてこっちに来ているから霊術で出鼻をくじいてくれる?」


「わかりました、お任せください」


 俺がお願いすると美雪は当然のように頷いてくれて霊術を準備し始めた。


『氷よ、槍となりて我が敵を貫け。氷槍ひょうそう


 詠唱が終わると同時に、美雪の頭上に2メートルぐらいの氷の槍が出現した。本来こう言った術や俺の好む火の剣などの術は練度が上がると消費霊力に比例して威力が上がり数も増える。今回は牽制のためだから一本だけみたいだ。


 そうこうしているうちに、茂みで見えないだけでもうすぐ近くまで来ている。


「美雪、俺が合図を出すからそれと同時に目の前の茂みに氷槍を撃ってくれ。


 3...2...1...今!!」


「行きなさい!」


 ガツッッッ


 俺の合図と共に打ち出された氷槍は茂みから出てきた6メートル近い怪物に当たったがまるで効いていないようだった。


「この妖はなんて言うんだ?」


「コイツは牛鬼です。皮膚は霊術が効きづらく、また刀であっても腕が悪いとかすり傷程度しかつけられません。その上、鬼の怪力にタフネスも持つ厄介な妖です」


 牛鬼、鬼の頭部に牛の体を持つ化け物、もしくは牛の頭に鬼の体を持つゲームなんかだとミノタウロスがあっている。鬼頭の場合は全長10メートルを超え、毒を持ち個体によっては上の中や上の上の強さだったりする。また、牛頭の場合大体4メートル半ばから5メートル半ばの大きさで強さも中の上の中では上の方だが強くても上の下で、上の下の中ではかなり弱い部類だ。


 目の前の牛鬼は、タイプとしては頭が牛で体が鬼の個体。でも大きさが6メートルほどあり、威圧感を考えると標準的な上の下と同等かそれ以上だ。


「ねえ美雪?後から来た2体は標準的な牛鬼だけど、目の前の牛鬼はどう考えても異常だよ?」


「はい、確実に異常個体ですね。コイツを相手にするとなると残り2体には手が回りません」


 となると、2体は標準的な強さと言っても中の上はあるわけだが、この2体を美雪に相手してもらって、その間俺はこの異常個体を相手に時間稼ぎをすればいいわけだ。


「美雪、異常個体は俺が相手をして時間を稼ぐから他の2体を相手して」


「それは!...確かに若様は強いですがまだ5歳危険すぎます!」


「いやいや、それなら早く美雪が倒して助けてくれればいいだろう?それに俺は美雪が思ってるよりも強いよ?体は子供だから小さいけど体力なんかは霊術で回復させられるしね、父さんだってこっちに向かってるんだから問題ないだろう?あと、相手はこれ以上待てないと言っているよ?」


 美雪と話しながら俺がそう言うと、異常個体な牛鬼は待ちきれないとばかりに手にした棍棒を勢いよく振り下ろした。


「おっと、危な。砕けて弾け飛んだ地面も俺にとっては凶器だね結界術使っておいて良かったよ」


 俺と美雪は同時に後ろに跳び避けた。ただ、その攻撃で弾けた地面の欠片などが飛んで来てガンガンと霊光天鎧に当たり地面に落ちた。


「それで美雪、どうする?」


「わかりましたよ!私が2体を引き受けるので若様がその異常個体と戦ってください。ただし!決して無理はしないでくださいよ!」


「わかってるって、無理はしない。それじゃあ頼んだよー」


 俺は美雪に返事をしながら、背後で浮かせてあった氷剣と炎剣を相手な牛鬼に斬りかからせ、俺自身は近くの開けた場所に向かって走り出した。


 牛鬼は剣を棍棒で消し飛ばすと、俺を追って走り出した。ただ、他の2体はちゃんと美雪が相手してくれているみたいで追いかけては来ない。後ろから「あまり離れすぎないでください!」と言う美雪の声が聞こえ、その後に「これは、当主様と奥様に怒られるの確定ですね」と美雪にしては珍しい恐怖を滲ませた声が聞こえてきた。南無三。




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 美雪side



 若様、蒼夜様に関しては幼い頃から専属としてお世話していて随分と凄い方なのは理解していました。


 ただ、それなりに強い妖である牛鬼、それも異常個体を自分から相手をすると言い出した時は眩暈がしてしまいました。確かに霊術の腕前は凄まじく、刀の技量も5歳の子供とは思えないほど高いですが、それでも何を言っているんだと思ってしまいました。


 結局は押し切られてしまったのですが...


 もうすでに当主様や奥様に怒られるのは確定、こうなった以上早急に目の前の牛を殺して若様が怪我をする前にあちらに行くことが私に出来る最善です。


 ですので...


「今すぐにでも死になさい牛共、それがあなたたちに出来る唯一の事です」


 私は、牛鬼に向かって槍を構えながらそう言いました。






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 蒼夜side




 牛鬼と共にある程度開けた場所についた俺は逃げる必要もなくなったので足を止め無詠唱で霊火弾を10発ほど同時に打った。


 対する牛鬼は棍棒を薙ぎ払い半分ほど消し飛ばし残りは全てを体に受けた。


 だが、美雪の氷槍が効かなかった時点で分かっていたが全くの無傷、新しい術を使うため霊力を練った。










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 異常個体、本来の妖の強さから格段に上だったり特殊能力を持っている個体のことを指す。すでに同一の能力や外見を有している個体が見つかっている場合は変異種や希少種と呼ばれる。どっちにしろ退魔師からしたら疫病神みたいな物。



 美雪さんに関しては、そのうち一話使って色々書きたいですね。

 

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