第0002撃「メタ氏、中学生となり部活に入る!!」の巻

1989年、中学受験に落ち、

地元の公立の芝嶋中学校へ入学しました。


小学生の頃から小学校は違えども、

顔馴染みだった紀野に「部活どこに入る?」と訊いた。

紀野は技術部へ入るとのことでした。

紀野はミニ四駆作るのとか得意だからなあ、

小生は技術部は難しそうに思えて敬遠したが、

紀野が技術部へ入るのをやめさせて、

他のクラブに一緒に連れて入るのは無理そうだなと思いました。


同じく顔馴染みだった多坂に訊いてみると、

テニス部にするということでした。

「テニスボール、当たったら痛いんちゃうか」

「あほか、軟式てゆうてゴムボールでやるんやで」

多坂はテニス部に入る気まんまんでした。

当時運動が苦手だった小生は、

多坂が一緒なら楽しめるかもなと思い、

テニス部に入ろうと思いました。


さて、土曜日になり、

授業は午前中までで、昼からは部活説明会で、

各クラブの部長たちが体育館の壇上で、

自分の入ってるクラブの活動内容などをアピールしてました。


その中には写真部の説明もありました。

写真部の部長は肌が黒く、髪も天然パーマで、

黒人のジャズシンガーのようでもありました。

小生はテニス部へ入部するつもりでしたから、

半分うわの空で流し聞きしてました。


クラブ説明会の終わった後、

各クラブを見学する時間になりました。

テニス部はけっこうな人気で、

足の踏む場もないほどでした。

しかし小生は写真部のことが気になってました。

暗室というマニアックかつ、

陰陽でいうところの「陰」なイメージがしたのです。


人気の無い校舎の端っこの階段のところに、

写真部の木製の戸がありました。

コンコンとノックしました。

「誰や誰や!?」

白くペンキで塗られた戸の内側から、

何人もの陽気な声が聞こえてきます。

戸が開きました。

戸の内側には黒いカーテンがかかってあり、

そこから覗かせた顔は、

先程の説明会での黒人ジャズシンガーのような顔の人でした。

「おう、写真部へようこそー!!」


そこが写真部の部室でした。

小生は手を掴まれて引きずり込まれました。

その部室は一階から二階へと続く階段の下の、

つまり階段の真下の内部にあり、

階段が斜めになるように室内は三角形になってました。


「マアマアそこ座ったってぇ」

部長に案内されて、小生は木製の小さな椅子に座りました。

長椅子の裏は外にある階段の下段の下面のため、

三角形の先の細いところとなっており、

部室全体が仄暗いため見えづらいのですが、

上級生の部員が長椅子に横になって寝てました。


部長は渡瀬さんという人で、

「腹減ってるやろ、いま腹拵えさせたるからな」

そして、日清のカップヌードルの封を開けると、

机にはちゃんとお湯ポットまで置いてあり、

カップヌードルにお湯を注いで、

小生に食べさせてくれました。


奥のほうの机では、

といっても部屋が暗いためにわかりにくいだけでしたが、

1メートルほどの先で、

上級生の女子部員が紙にシャーペンでコマを割り、

いわゆる漫画を描いてました。

小生たちは主に渡瀬部長と色んな話をしてました。

この部室は暗室と呼び、

暗室には3台の現像機があること、

暗室の一番奥には小窓もあり、

そのガラス面にはペンキのようなもので、

真っ黒に塗られてました。

白熱球を点けると室内はわりとしっかり明るくなりますが、

白熱球を消灯して赤球を点けると、

まるでお化け屋敷のようでした。


渡瀬部長や先輩たちから、

カップヌードルだけでなく、

ジュースや駄菓子をたらふく頂き、

渡瀬部長の気さくな人柄と、

このクラブの自由奔放な気風と、

ご馳走後の放心状態のためか、

もはや洗脳完了となったカルト信者のように魂が抜かれ、

その帰りに入部届けを提出してしまいました。


2日後の月曜には多坂に、

写真部がいかに愉しそうなところであるか、

毎日放課後は遊べそうやぞ!と力説し、

テニス部希望を無理やり撤回させ、

その気にさせ、入部届けには「写真部」と書かせました。

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