第34話 遠出① 吐露

 当日の土曜日の朝、澪が迎えに来て2人で朝食を摂ってから電車でまず東京駅に向かった。

 土曜日とはいえ車内はかなり混んでいる。

 殆どが通勤客だな、世の中のお父さんは大変だ。

 俺が通勤なんてしたら電車が脱線する等の大惨事になりそうだから、電車利用の会社勤めなんて全く考えられない。

 かといって、テレポートを使って通勤しようにも仕事中居眠りをする訳にもいかないし…

 俺は社会人になれるのだろうか…(泣)


 澪という美しい女性が目の前に居るのに彼女と関係の無い事を無理に考えていたら、ある駅に着いた途端、開いたドアから通勤客がなだれ込んで来た。

 俺と澪は反対側のドアに押し付けられそうになったが、俺が澪を庇う様に覆い被さる形で所謂いわゆる壁ドンならぬドアドンをした。

 向かい合った澪と視線が交錯する。

 距離が近い、キスでも出来そうな間合いだ。

 彼女は上気し、瞳は潤んでいる。

 ふと澪の唇を見ると、キュッと引き結ぶ感じがした。

 こんなに綺麗な人を間近に見て、意識しないワケが無い。

 カーッと頭に血が上る感じがする、きっと俺の顔は真っ赤だろう。

 澪は何を思ったのか、俺の両頬に両掌を添えて唇を近付けて来た。

 その唇は俺の頬を掠める様に通過し、耳元で開く。


「私を守ってくれたのかしら、ありがとう…。」


 耳元で囁かれて背筋がゾクッとしたが、耳! 

 俺の耳に澪の唇が当たった!

 電車が揺れたせいか、ワザとやったのかは判らないが…。


 澪は元の位置に戻ると頬を紅色に染めながらも車内の混雑が終わるまで俺を上目遣いで見つめ続けていた。


「貴方の目…とても綺麗よね…

 普段隠れてて見られないからじっくりと見てしまったわ。」


 「あ…あぁ、そうなのかな…

 自分では判らない。」


 俺は女の子とこんな近距離で見つめ合うなんて今までした事が無かったため、心臓が早鐘を打った。

 こんなの、意識しないなんて無理だ…!



 東京駅に着くと電車の出入口ドアからホームに数歩出ただけで澪とはぐれそうになった。

 あっ…と思った俺は澪に手を伸ばすと、澪も俺の方に手を伸ばしていた。

 俺達は手を繋ぐと澪に案内されるがまま、東京駅の正面に出た後、どんどん皇居の方へと歩いた。



 気が付くと皇居外苑の噴水がある場所に来ていた。

 ここは和田倉噴水公園というらしい。


「ちょっと休みましょう。」


 澪はそう言うと繋いでいた手を離し、俺をコーヒーショップのテラス席へ残して1人で店の中に入り、注文をしていた。

 俺は江戸城の石垣ややぐら、目の前の噴水をボーッと眺めていた。

 

 澪がアイスコーヒーを2つテーブルに置いて隣に座る。


「ありがとう、後で代金は払うよ。」


 俺はブラックのまま何も入れずに飲んだ。


「…ここ数日、貴方は元気が無いわね。

 何かあったのかしら?

 良かったら、私に話してみない?」

 

 澪は心配そうな顔で俺を見る。


「…そうか、それであんな事を…

 気に掛けてくれていたんだな、ありがとう。 

 俺は人付き合いなんて今までした事が無かったから…

 隠そうとしても隠しきれない様だ、だから正直に話すよ。」


 澪は続きを話せと言っている様に頷く。


「まず、俺は澪に出会えて本当に良かったと心から思っている。

 ネッコの事から始まり、一緒に登下校してくれて、朝も昼も一緒に食べてくれて、夜ご飯まで作ってくれて、仲良くしてくれて、こうして外出まで一緒に来てくれて…

 本当に嬉しいし、感謝しか無い。

 でも、それは澪の自由な時間を俺が奪っているとも言える。

 いくら俺の不幸体質による事件事故を防ぐためと言っても、澪の貴重な時間を俺の為に割いてもらうのが本当に心苦しい…。

 イヤ、綺麗事を並べて誤魔化すのは駄目だな、ハッキリ言おう。

 …数日前、澪が何時まで俺と一緒に居てくれるんだろうとふと考えた時、俺は澪の事を自分の不幸体質を無効化出来る都合のいい存在だと思ってしまっている様な気がして、本当に申し訳無い気持ちでいっぱいになったんだ…。

 本当に済まない。

 俺は最低な男だ、だからもう一緒には居ない方がいい…。」


 俺は包み隠さず本当の事を澪に打ち明けた。

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