第33話 提案

 放課後、七瀬はクラスが違うので必ず一緒に帰れるという訳では無い。

 でも澪は俺の不幸体質を考えて、いつも一緒に帰ってくれている。

 夜ご飯も作ってもらってるしな。

 俺と澪が2人で帰っていると、澪が


「ねぇ、凪君。

 そろそろ人が沢山居る場所に行ってみないかしら、私と2人で。」


と切り出して来た。

 俺の不幸体質のために沢山の人を巻き込み死人や怪我人を出す訳にはいかないので、人混みや繁華街に独りでは絶対に行きたくないのだが、澪が一緒に居るなら行ってみたいと以前から思っていた。


「あぁ、俺もいつかはお願いしたいと思っていたんだ、ありがとう。

 俺は課外授業とか修学旅行とかも参加した事が無いくらい人が多い所には行かないから、正直何処に行ったらいいか分からない…。

 澪はどんな所がいいと思う?」


「そうねぇ…遊びに行きたいのか、買い物に行きたいのかって感じかしらね…

 凪君は以前から行ってみたい所や、近所では手に入らない欲しい物って無いの?」


「買い物は最悪ネットで何とかなるし、行きたい所か…

 都心の観光とか遊園地、水族館…

 博物館とか美術館とかかな…。」


「じゃあ、手始めに皇居の周辺に行ってみない?

 皇居を歩いて1周すれば、結構色々と見れると思うわよ。」


「いいな、江戸城とか1度行ってみたかったんだ。

 テレビとかで見ても実際の広さや大きさがイメージ出来ないし。」


「じゃ、次の土曜日の朝に迎えに行くわね。」


「ありがとう、よろしくお願いする。」



 俺の家で夕食を作り終えた澪が帰った後、その夕食を食べ終えた俺はソファーに座り土曜日に行きたい場所をスマホで検索していた。

 初の遠出で浮かれていたから直ぐには気付かなかったが、澪と2人きりという事はデートなのではないか…?

 俺が初デート…だと…?


 以前の俺ならば全くそんな事は考えられなかった。

 俺はずっと独りで生きて行くものだと思っていたからだ。

 だが偶然にも彼女と出会った事により、俺の人生は大きく変わり始めている。

 勿論、澪ありきというところではあるが。


 俺にとって彼女は不幸体質を無効化する唯一の存在であるし、一人の女性としても、とても素敵な人だと思っている。


 逆に澪は俺の事をどう思っているのだろうか…

 彼女は俺の不幸体質に協力してくれるとは言っていたが、それは何時いつまでの話なのだろうか…

 クラス替えまで?

 それとも学校を卒業するまで?

 それとも協力すると言ったのは一時の気の迷いで、本当はこんな面倒くさい体質の男など切り捨てて、直ぐにでも俺の側を離れたいのではないか…?


 俺は澪が居る事で自分の不幸体質を無効化出来る都合のいい存在だと思ってないか…?

 そう考え始めると彼女に申し訳無く思い、俺もこれ以上澪に踏み込んで付き合うべきでは無い、澪を女性として意識してはいけない、彼女にこれ以上色々と期待してはいけないと思ってしまうのだ…。


 俺は今後、彼女とどういう関係を築いていけばいいのか分からなくなってしまった。

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