第30話 切り札
次の日、俺がトイレに行って自分の机を離れた後の国語の授業中、小野田が自分の机の横のフックに掛けてある学生鞄のフタを開けて何かを探している素振りを見せながら、俺の方を見てニヤッと笑った。
すると小野田は授業中にも拘らず、大きな独り言を言い出した。
「あれぇ、鞄に入れていた俺の財布が無い!」
…なるほどな、透視で俺の机の横に引っ掛けてあるリュックの中を見ると、見知らぬ財布が入ってやがる。
小野田は俺を先生やクラスメイトの目の前で窃盗の犯人に仕立て上げ、俺を退学に追い込む積もりか…
悪質過ぎる、もう俺はコイツを絶対に許さないと決めた。
「伊東先生、俺の財布が盗まれました!」
担任の伊東先生は国語の教師で、丁度俺達の授業の真っ最中であった。
「小野田…それは大変だったな。
だが授業中に大声で言う事か?」
「伊東先生、授業中だからいいんですよ、犯人は逃げられませんから。
…おい陰キャ野郎、お前だろ?
俺の財布を盗んだのは。」
俺は自分のスマホで動画を録りながら返事をした。
「どうしてそう思うんだ?」
「だってこんな事をするのはお前くらいしかいないだろうよ、鳴沢さんの悪い噂を流して弱みを握り、言う事を聞かせている極悪非道な人間なんだから。」
「その噂を流したのは俺では無いし、今回の窃盗とは全く関係の無い事だが、まぁいいだろう。
お前は俺に言い掛かりをつけて、俺のリュックの中身でも確認したいのか?
…では先生、代わりに確認してください。
俺のリュックの中に小野田の財布が入っているのかどうか。」
「…生徒を疑うのは心苦しいが、佐竹がいいと言うのなら俺が確認しよう。」
そう言って伊東先生は俺のリュックをくまなく確認すると、頭を左右に振った。
「財布は入って無いな。」
「そんなハズは無い!
俺の財布が必ず入っているハズだ!」
「…どうしてそんなにハッキリと断言出来るんだ?
まるで俺のリュックにお前の財布が始めから入っていたのを知っているみたいに。」
「そんなバカな…俺にも見せてみろ!」
「近寄るな、俺のリュックにお前の財布を仕込まれたら敵わん。
それより伊東先生、俺の財布も盗まれた様です、リュックの中に入れておいたのですが。
…先生、俺の代わりに小野田の鞄の中を確認してもらえないでしょうか。
俺の財布は2つ折りで、中には俺のマイナンバーカードが入っています。」
それを聞いた小野田は激昂し、吼えた。
「俺がお前の財布を盗む訳無いだろうが!
それより俺の財布を何処へやったんだ、この陰キャ野郎!」
「本当に盗んで無いのならお前の鞄の中を先生に見せてみろ。」
小野田は怒りで顔を真っ赤にさせながらも黙って伊東先生に鞄を差し出した。
先生は中身を確認すると、鞄の中から長財布と2つ折りの財布をそれぞれ1つずつ取り出した。
まぁ出て来るだろうな、さっきチカラで俺のリュックの中から小野田の鞄の中に財布を2つ転送したんだから。
「そ、そんなバカな!
俺の財布は確かにお前のリュックに…
おいテメェ、どうやって俺の鞄の中に財布を仕込みやがった!」
小野田は教室の中が狭いのにも拘らず器用にも俺に右上段回し蹴りをして来たので、俺は左手でガードをし、瞬時に距離を詰めて小野田の軸足を足払いすると、小野田は周辺の机に身体を接触させながら頭を派手に床にぶつけ、気を失った。
俺の右手はしっかりスマホで動画撮影を継続中だ。
「…先生、今のは正当防衛です、見てましたよね?」
「…あ、あぁ、今のは仕方ないな。」
…ここまで大事になったならば、仕方ない…。
俺は先生とクラスメイト全員の前で、予め用意していた切り札を投下した。
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