第29話 よかろう、ならば戦争だ。

 試験が終わってから暫くしたある日、登校すると俺の上履きが下駄箱から無くなっていた。

 俺はアポートのチカラを使って、何処かにあるであろう俺の上履きを取り寄せた。

 多少薄汚れた感はあるが、傷やニオイ等は無い様だ。

 早速俺の上履きでサイコメトリー(残留思念感応、場所や物体に残された、人の思念や感情を読み取る)を試みる。


 …小野田とその取り巻きが、夕方に笑いながら上履きをゴミ箱に捨てる様子が俺の脳内に映し出された。


 俺はすかさず小野田とその取り巻きの上履きを、デポートのチカラで俺の上履きが捨てられていたゴミ箱に捨て返してやった。

 更なる仕返しをされない様に俺のローファーは空いていた違う下駄箱に入れる。



 俺は自分のクラスの廊下にある、盗難防止のため南京錠を取り付けてある自分専用のロッカーや机の中の物が無事かどうかを確認した。

 どうやら異常は無い様だ。


 俺はホームルーム開始まで自分の机に突っ伏していると、バタバタと走って来る複数の足音が廊下から聞こえて来た。

 ガラッと教室の扉が勢いよく開けられると小野田と取り巻きが俺と俺の上履きを見て、腹立たしげにガンを飛ばして来たが無視した。



 次の日登校すると、机に彫刻刀か何かで『陰キャ野郎 死ね』と彫ってあった。

 サイコメトリーをすると、やはり小野田達が彫刻刀を使い、凄い形相で俺の机を刻んでいた。


 よかろう、ならば戦争だ。


 俺はデポートとアポートのチカラを同時に使い、空き教室から同じサイズの机を取寄せると同時に、悪口を刻んである机を空き教室に送った。

 既に何人か登校して来てはいたが、机を瞬時に入れ替えた事に気付いたクラスメイトは誰も居なかった。

 取り寄せた机はホコリっぽかったが、ティッシュで拭いた。

 澪はいつも俺とは違う扉から出入りするため、悪口を彫られた机があった事すら気付いていない。

 

 後で登校して来た小野田達がニヤニヤと様子を見に近寄って来たが、俺と俺の机を見た瞬間、顔が驚愕の表情になった後に憤怒の表情に変わり悔しそうだったのが笑えたが、特には何も言って来なかった。



 次の日登校すると廊下にある自分専用のロッカーのフタがベコベコに凹んでいた。

 ロッカー内の物と俺が取り付けた南京錠は無事だったので、デポートとアポートのチカラをピンポイントで同時に使い、俺と小野田のロッカーのフタのみを瞬時に交換させた。

 俺のロッカーに付いていた南京錠と小野田のロッカーに付いていたダイヤル式の南京錠にはチカラの影響は無く、入れ替わらずにぶら下がっている。

 勿論フタに取り付けてあった名札もバレない様に入れ替えておいた。


 俺は今日も、すり替わってベコベコに凹んだロッカーを見た小野田が悔しそうな顔をするだけかと思っていたら、奴は教室に入って来るなり俺に怒鳴った。


「おい、陰キャ野郎!

 鍵が掛かってるのに、どうやってロッカーのフタを取り替えたんだ!

 テメェ、元に戻しやがれ!」


「俺はお前が何を言っているのか全く解らない。

 イチから説明してくれるか?」


 俺はそう言いながらスマホの録音機能をオンにして小野田の顔の前に差し出す。


 小野田は怒りに任せてとんでもない事を口走ったのに気付いたのか、顔を真っ赤にしながらも何とかその後沈黙を貫き通し、俺の前から立ち去った。

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